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そもそも、手紙ってどうやって送られたんだ?
この試験、ボクは偽名を使っている。リリン・ルーブン。ギルドで使っていたものとは別の名だ。
偽名を使うことに問題はない。実際ボク以外にも使っている者はいるだろうし、この国はこの試験の受験者に詳しい個人情報を聞いてこないので、全然オッケーなはずである。
この試験で必要なのは、その本当か分からない名前だけで、受験者は受験番号で管理される。
そんなゆるゆるな体制で大丈夫なのかと思ったが、試験官はめちゃくちゃ優秀な国家魔術師が担当するらしく、「変なことしたらすぐに処せるからな(圧)」という圧力を感じる。ヒエッ。
話を戻すが、要はボクは国に偽名しか教えてないのである。
いや、なんでボクの泊まっている宿の場所が分かったの?
「さぁお兄さん洗いざらい吐いてもらおうか。まずどうしてこの手紙はボクの元に届いたの」
「………………」
「ハイ、ここにボクがこっそり買ってきた揚げドーナツがあります」
「受験番号を受験者一人一人に魔力で薄く刻み、どこにいるか監視できるようになっている」
答えんのはっっや。
てかなに、監視?超絶不穏ワードなんですけど。揚げドーナツの袋をお兄さんに渡しながら聞いた。
「どういうこと、てかなんでお兄さんそんなこと知ってんだよ」
「…………昔、知る機会があった。……君にも今受験番号が刻まれているよ」
「ギャーッ、ボク今監視されてんの?!ヤダやだヤダ!!!」
「………………監視されていると言っても、地図上に点が動いているような感じだから…………本当に嫌なら俺は君に刻まれている受験番号を解除できるけど」
そう言って揚げドーナツをぱくりと食べ始めたお兄さん。
解除かー、監視されてるのは死ぬほど嫌だけど、きっと解除するのは賢い選択じゃないんだろうなぁ。
あれ、でも全受験者全員が監視されてるとしたら、お兄さんの言う地図上に、いっぱい点がある状態なんじゃなかろうか。それだったら……………いや、ボクの場合たぶん、おそらく、いや確実に目を付けられているだろう。
問題はボクの正体がバレることである。
「ねぇお兄さん、どうしてさっきボクに一人になるなって言ったの?ただ監視されてるだけじゃそこまで危なくないよね」
「………………」
答えない、か。
「ちょっとプリン買ってくるよ」
「…君、甘いものを出せばなんでも俺が話すと思っているだろう」
えっ、話さないの?!
ドーナツを食べ終わり、唇を手拭いで拭っているお兄さんは無表情ながらムスッと不機嫌そうだった。
流石に年長者に対してこの対応はいけなかったか。
「ごめんって、お兄さん。でもボク、そこそこ賢いんだよ。お兄さんが何考えてるかは知らないけど、もう少し僕を信用してくれてもいいんじゃないかなっ?」
「………………」
「ねえお願いだよ、お兄さん」
「……………………………………………………はぁ」
長い沈黙の後、ようやく彼は観念したように口を開いた。
「送られてきた手紙に、最終試験の時、君の師匠を連れて来いと書かれていた」
どういうこと。
えっ?
どういうこと?
「………………普通、魔術師は魔法や魔術を教わる師匠がいる。独学で魔術を学ぶ者もいるがそれは少数だ。しかし、手紙の文章は君に師匠がいると断定しているかのようだった」
「どうして?」
「わからない、けれど、おそらく君に魔術を教えた師匠…………それが俺だと彼らは思っている」
いやなんで国家魔術師がお兄さんのこと知ってるんだよ。
「君の使ったその杖の魔力は、できる限り俺の魔力の性質を変えたつもりだったが、杖に組み込んだ術式の、魔法を打ち出すときの自分の癖まで一か月間で変えることはできなかった。魔法を撃ちだされた時の画像や、焼き跡を調べ、君には師匠がおり、それが俺だと、過去に俺を知っている人物が判断したのだろうか」
いやなんで国家魔術師g(以下略)
・
というか、最終試験にお兄さんを連れてこいとは、ボクが五次試験に受かることが当たり前とでも思っているような口ぶりである。
これは宣戦布告なんだろうか。それとも、ボクが筆記で何点取ろうと用があるのは君の師匠であって、君の師匠に会うためなら君を合格させてやってもいいという煽りなんだろうか。
ボクを舐めるなよツァヴァ―ト。
第五次試験までの三週間、ボクはもうそれはそれは記憶を司る脳の部位である海馬を虐めまくった。
どんな風に勉強してたか覚えてない、ただ莫大な量の知識だけ脳みそに詰めこんだ。
お兄さんはその期間中、難しそうな顔をして偽魔法杖を改造していた。
ちょっと出力を弱めてほしいと言ったから、多分出力の調整をしてくれているんだろう。お兄さんの部屋を覗いたとき、禍々しく赤文字でいくつも描かれた魔法陣の中心に偽魔法杖が置かれていた。
えっ、きちんと出力弱めてくれているんだよね?この部屋賃貸というか宿の一室だけど、悪魔とか召喚してるんじゃないよね??物凄く不安だ。
そして時は流れにノリまくり五次試験二日前となった。
五次試験の会場がある首都のツアートへと列車に乗って向かった。
凄いなこの町は、王都以外の町でも列車が走っているなんて。まるで海の向こうの帝国のようだ。
コンパートメントの指定席が空いていたのでそこの券をとって乗り込んだ。
走り出すと、窓から見える風景が一気に町から草が生い茂る草原に変わった。
「すごいねぇ、お兄さん。オーフェンは移動手段が馬車が普通だったから、ボク列車に乗ったこと他国の訪問以外あまりないの」
「………………」
「海の向こうの帝国じゃ、列車は一般的な交通手段らしいよね。死ぬまでに一度行ってみたいな」
「………………」
どうやら今日は無言モードの日らしい。
これ以上話しても返事が返ってこないと思うので、そそくさとノートを見返すことにした。
「……実技の内容は発表されていないが、最終試験は観客が入るアリーナで行われる」
………ちょっと待って、知らなかったんだけど、それどこ情報?ボク顔バレるとヤバいよね?
お兄さんにいつも掛けてもらっている魔術でも、ボクを大勢が注目したらどうなるか分からない。
「知らなくても仕方ない、発表された一週間前、君はアンデッドのように机に向かって勉強していたからね」
「アンデッドて」
「最終試験は君の様子を俺も見ることができる、つまりその場で俺が君の杖を操ることができる、その為に最終試験の実技の時、この腕輪をつけておいて」
おいおい、まだ五次試験の二日前だぞ。最終試験の話なんて。
ボクが五次試験受かるのが当たり前みたいに………………。
「お兄さんったら、もし、もしボクが五次試験突破できなかったらどうするの」
「…………杖を改造したから実技合格は保証する、筆記は君は大丈夫でしょ」
なっ。
胸の奥が暖かくなった。お兄さんの綺麗な瞳をまじまじと見つめる。
「よ、余裕だよ!このボクを誰だと思ってるのさお兄さん」
少し気恥しくなって、早口になってしまった。
ボクのセリフを聞いて、お兄さんは満足そうに目を細めた。




