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試験当日です。

はい、あの、手首と腰がブッ壊れました。


そりゃ一か月間食事と睡眠以外ほぼ椅子に座ってお勉強してたんだからそうなるよなって。

図書館閉館時間ギリギリまで魔導書の内容を片っ端から詰め込み、閉館後も宿屋で貸出可能マックスの量の魔導書を全力で脳みそに叩きこむような生活を送ってたもんだから、体感時間が早すぎてちょっと一か月経ったとか信じられん。

お兄さんはこの一か月間、信じられないくらいボクに親切だった。もうお兄さんに母性を感じた。

触れるだけで全身の汚れがとれる魔道具を作ってくださったときにはもう土下座したね。そんなこといいから早く勉強しろと言われたけど。ご飯も内容物が気になる金色の栄養ドリンクを作ってくれた。普通に食べるご飯よりも栄養がとれるという。味については言及しない。


フラッフラの覚束ない足取りで部屋を出ると、杖を二本持ったお兄さんがそこには居た。


「お、おにいさん………!!筆記に関しては自信あるよボク。この一か月ありがと…」


ん?杖二本?


疑問に思い、彼を見上げると彼はその一本を差し出してきた。


「……実技の時に使うといい」

「あ、あぁ、カモフラージュ的な?」

「違う、これは実際に使える(・・・・・・)


はい?もしかして寝不足でボク上手く聞き取れてないのかな?


「………………この杖の、この赤い石の所を押すと火魔法が対象の魔獣に射出される」

「ん?」

「この青い石は水、透明な石は氷、緑の石は風、黄色の石は雷魔法だ」

「んん??」

「魔獣だけに反応するように術式を組んだが、万が一の場合があるので杖を撃つ対象に向かって…」

「ちょ、ちょちょい、ちょっと待って」


杖を指さして説明しだした彼にストップをかけた。


「え?これは、なに?」

「………魔法が使えなくても、魔法を撃てる杖だよ」

「え、と、ということは、」

「君、魔法が使えなくて実技で点が取れると本当に思っているの?」



「これなら、審査員にも魔法がつか」

「うおおおおおおおおお!!!!!!おにいざんありがどおおおお!!!!!!!!!!」


いい人過ぎるよお兄さん、えっ、こんなに聖人だっけお兄さんって!!

感謝のあまり、言葉よりも先に体がお兄さんの腹にヘッドアタックをキメていた。

あっ、脳みそがガンガン揺れる。痛い………………。


「………………咄嗟に防御魔法を張ったんだが、頭は割れてないか」

「痛すぎて昇天しそう」

「………………」


無言で魔法をかけてくれてありがとう、お兄さん。



お兄さんに身バレ防止の魔術(多分違う名前だったけど忘れた)をマシマシでかけてもらい、作ってもらった飲むと疲労がぶっ飛びすぎて内容物が怖いドリンクを飲み、再度偽魔法杖(ボク命名)の操作説明を聞いて、試験会場にやってきた。


試験会場は流石というか、この国って魔法に関して引くほど力入れてんだなとわかる、立派な作りだった。もうちっさい王宮みたいだった。名前は国立魔術第二研究所というらしい。


受験者はみんな杖を持ってきていた。お兄さんありがとう。


本物の魔術師が見たら、この杖に仕掛けがあってボクが魔法を撃ってるわけじゃないってバレるんじゃないか不安だったのだが、お兄さんが大丈夫といっていたし、なによりこの杖よりボクはバレちゃいけない秘密を持っているので、無敵のメンタルで試験に挑むことにした。


そんな事よりまずは筆記だ。あんだけやった筆記で転んだら悔しい超えて恥ずかしい。







ペンがない。

あれ?ボク、家出る時確認しなかったっけ。今筆記試験7分前だけどなんでボク今確認してるの。

もしかして道中で落としたのかな。現状がヤバすぎて逆に冷静に分析できている自分がいる。

落ち着け、落ち着いて、えっと、こういう時どうすればいいのかしらうふふ。何気にちゃんとした試験受けるのこれが初めてだし、学校に通ったことが無いのでわかりませんわおほほ。





「あっ、あ、あの、さっきから、……ペン、探して、ますか?」


冷や汗ダラダラかいていると隣の席の人が小さい声で話しかけてきた。


「えっはい、ちょっとなくって」

「あっ。そ、それなら、あたし、いっぱい、持って、きたので。これ、」


彼女は長い三つ編みのおさげを引っ張りながら、自分のペンケースを開いて差し出してきた。


「えー!!いいの?!助かったよ本当にありがとう!!」

「まっ、そ、そんな」


彼女のペンケースは爆発するんじゃないかというくらいぎっちぎっちに文房具でつまっていた。

ありがとうを連呼しながらペンを消しゴムを抜き取らせていただいた。女の子は少し照れていた。可愛らしい。


さぁ、試験官の合図が始まり、試験開始である。



人生初の試験デビューはペンを忘れたこと以外完璧に終わった。


次は実技である。


受験者はグループごとに分けられて森っぽい空間に連れていかれた。

さっきペンを貸してくれた子と一緒のグループだった。


「ねぇ君、さっきはありがとう。お陰様で助かったよー!」

「いっ、ぃ、え、はい」

「お互い実技も頑張ろうね」

「は、ぃ」


話しかけると女の子は縮み上がってしまった。おや、ぐいぐい行き過ぎて怖がらせてしまったかな?

見た感じ15歳くらいかな。年下の女の子と話したことあまりないんだよなぁ。


「それでは、これより実技試験の説明をします。まず、この空間に――――」


試験官の人が話し始めたのでそれに耳を傾けた。


説明を簡単に要約するとこうだ。

この空間に15分後、魔獣が大量に放たれる。

魔獣は倒すと点数がもらえる。魔獣の種類ごとに倒す難易度が変わるので、倒すのがムズイ魔獣ほど貰える点数は高い。どの魔獣を倒すと何点貰うことができるかは教えてくれなかった。ケチ。


他にもグループで連携して倒すのならー、とか沢山言っていたけれど、ボクはこの杖のことがバレると怖いので実技は単独でやると決めている。この偽魔法杖がなければ全力で他の受験者誘ってたけどな。


試験官が去っていき、グループを組んでいる者たちの話し声がヒソヒソ聞こえるようになった。

グループが結構多いな。もう少し事前知識を入れておけばよかったと少し後悔する。


「お姉さん、一人?だめだよ、お姉さんみたいな可愛いコ、一人じゃ魔獣に倒されちゃうよ」

「俺ら実は魔法学校出身だからさ、そこら辺の田舎者よりずっと強いよ?俺らと組まねえ?」


静かに試験開始を待っていると、男二人組が話しかけてきた。


お前たちこのボクを可愛いと言うとは、なかなか見る目があるじゃないか。確かにボクは魔法が使えないので『一人じゃ魔獣に倒されちゃうよ』っていうのも当たっている。………え、結構当たってるね??

だけど君たち、そこらの田舎者って他の受験生を下げるのは良くないよ。別に倫理的なことを説こうとしているのではない。

他の受験者を攻撃することは禁止されていない。周りの受験者の目を見ろ。ワンチャン君たち袋叩きにされるぞ。


うーん、困ったなぁと眉を下げ、ボクは彼らに言った。


「ごめんね、ボクは一人でやるって決めてるの」


「いやいや!ハハッ無理だよ!君みたいなか弱そうな女の子!」

「そうだぞ、本物の魔獣はね、君が思ってるよりずっと怖いよー?君なんて腰を抜かして負けちゃうよ」


……事実を言われているとはいえこやつらムカつくな。



『………ただいまの時刻を持ちまして、一次試験、実技を開始いたします』


おっ、始まった始まった。


試験開始が放送された瞬間に受験生たちは皆、一斉に森の中へ走り始めた。

やべっ、出遅れた。お前らのせいだぞ男二人!

遅れてボクも森の中へと走り出す。お兄さんの家を探していた時期、一日中森を走り回っていたおかげか、緊張していない。あと男二人お前らついてくんな。


男たちをなんとか撒き、走り続けること約10分、一匹目の魔獣を発見した。

見つけた瞬間息を殺してしゃがみ込んだので、向こうはボクに気づいていない。


偽魔法杖を構え、狼の姿の魔獣に向けた。


赤い石に触れた瞬間、あれ?と一つの悪い予感が背筋を走った。

それに構わず、触れた石をカチッっと押し込んだ。







そう、例えるならそれは火竜の息吹である。



紫の光が杖の先端に見えたと思ったら、刹那、轟音と共に周りの木々を飲み込む破壊光線が噴出された。

火魔法なんて可愛らしい響きではない、こんな火山の大噴火のようなものを、火魔法とは呼ばない。

文字通り(・・・・)、視界が開けた。


一泊遅れて、いろんな方向から悲鳴が聞こえた。そりゃそうである。


言い訳させてほしい。ボクは火の矢みたいなのが杖の先から射出されると思っていたのだ。

決して、溶岩が噴出されて森の一角が焼け野原になるとは思っていなかったのだ。

どこが射出だよこれ。噴出超えて爆発だよ。

にしても………………ハハッ、森と焼け焦げた地面の境目、綺麗に分かれたなぁ………………。あっ、森から人出てこないで。思わず後ろの木の陰に隠れる。


焼け野原には複数の魔獣が灰になってたりプスプスと焦げた状態で倒れていた。……人、巻き込まれてないよね?











木に背をもたれ掛け、ボクはある人を思い浮かべる。

ボクが今言いたいことは、ただ一つ。






―――――おにいざんの!!!!馬鹿野郎!!!!!!!!!


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