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5 怪人たちの競争

 一体、先生は何を知っているのだろう……と思いながら、琉未菜は授業後に、暗い廊下を歩いた。

 阿李紗が語ったように、この学園にはなにか秘密が隠されているらしいが、それを追求することは、なにか恐ろしいことのようにすら思えた。


 琉未菜は、しばらく歩いていたが、ふと探偵部としての活動を続けていけるか不安になってきた。

 なにからなにまで不思議なことばかり続けている。青蓮院部長の行方はわからない。

 窓の外の日は、暮れてきていた。窓際に立って、景色を見下ろすと、城の尖塔が、山の稜線と重なってそびえていた。

(なにからなにまでわからないことづくめ……)

 窓の外を、電車が走り抜けてゆくのが見えた。この街を一周する路面電車であった。琉未菜は、ぼんやりとそれを見つめる。路面電車は、暗闇の中でランプの灯のような頼りない明かりの連なりとなって、森の中へと消えていった。

(わたしはひとり、取り残されてしまった……)


 ……その時、フルートの音色が聴こえてきた。

 それはクラシック音楽のプーランクのフルート・ソナタに似た調子の曲だった。物悲しく、それでいて、吹き荒ぶ風のような荒々しさを秘めており、痛ましい嘆きの感情をどこか含ませていた。そうかと思うと狂気じみて、波長のおかしいところが、だんだんと強まっては荒れ狂うのだった。

(このフルートは、誰か吹いているのだろう……)

 あまり真剣に考えているわけではなかったが、琉未菜は、その時、ふと魔術協奏曲第一番という言葉が浮かんだ。

「まさか、これが……」

 そう思っていると、フルートの音色はぴたりと止んでしまった。

(幻聴かしら……)

 そうかもしれない、と琉未菜は思う。この学園で起こっていることは、何から何まで、幻のように思えた。

(あの手紙の送り主は誰なのだろう……。ただの悪戯か……。それとも……)

 ……窓の外を見ると、あたり一面は漆黒の闇である。


          *


 予言は、見事に当たったといえよう。かの殺人鬼の死に際の言葉ダイイング・メッセージ通りに、この学園に、伝説に謳われた探偵が現れることとなった。

 それが探偵部新入部員の白河琉未菜だというのが、もっぱらの噂であった。

 この伝説の探偵に、不可能犯罪を仕掛けて、打ち勝ったものこそが、かの殺人鬼の正統なる後継者に選ばれる。

 さて、誰よりも早く、琉未菜に殺人予告状を送ったのは、生首コレクターの奇術師であった。

 しかし、彼の犯罪計画はすでに破綻し、今、現在、対応に追われているらしい。

 彼は、人間の死体を部位ごとにバラバラに切断し、調理室の冷凍庫で、水に漬け込んで、氷のボールにしてしまう、そして歴史展示室に展示されている幕末の大砲を持ち出し、その氷のボールを、砲弾として奥に突っ込んで、完全に施錠された尖塔の窓へ向けて、すべて砲撃し、密室の中にバラバラ死体を出現させることで、密室を完成させようとしていたのだが……。

 調理室の冷凍庫は、鍵がかかっており開くことができず、歴史展示室の大砲も、持ち出すことが不可能であることが寸前になって分かったのである。

 そのため、今、生首コレクターの奇術師は、計画の練り直しに追われている。

 手紙を送ってしまったことを、他の怪人に笑われていると思うと、生首コレクターの奇術師も、恥ずかしくてたまらず、こんな犯罪も、もう辞めてしまおうかとすら、本気で思った。

 しかし天才犯罪者として名を挙げる、幼き頃からの夢を思い出すと、泣けてくるのだった。

(そうだ。自分にはあの日、描いた夢がある……。江戸川乱歩の『青銅の魔人』をはじめて読んだあの日、この日本で一番の怪人になるのだと誓ったんだ……)

 生首コレクターの奇術師は、机の引き出しから大学ノートを取り出すと、一から不可能犯罪を計画し始めた。

 きっと、あの白河琉未菜という探偵に打ち勝ち、夢を叶えるのだと、心に誓って……。


 ところが、この隙をついて、生首コレクターの奇術師の先を越さんと、ひとりの怪人が動き始めていた……。

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