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2 幽霊美少女

 琉未菜はひとり、女子寮から飛び出すと、校舎と女子寮の間の廊下を通り、増築されている西洋風の城郭へと入って行った。そして明かりといえばランプ型の電灯だけの、円筒形の吹き抜けの間の、古めかしい螺旋階段を、琉未菜は登っていった。

 この城は、グランヴヌール城という古風な名前で呼ばれていた。

 この学園の初代学長が大正時代に建造したもので、複数の塔と居館を備え、まるで本物のヨーロッパの中世の城といった外観であった。


(この手紙の中に記されている魔術協奏曲……。そのことを知っている可能性のある人といったら……)


 そう思いながら、琉未菜が、螺旋階段を登り終えると、踊り場にひとりの女子高校生が立っていた。


 漆黒の長髪が首元にかかっている、まるで御伽噺の幽霊のような美少女。その洋風な美しい顔つきは、わずかながらもフランス人の血が混じっていると噂されている。また別のある噂によれば、彼女は、純然たる日本人で、壇ノ浦で滅亡したとされる平家の末裔ということであった。


 城郭の中に小さな部屋を借りて、彼女はつつましく暮らしていた。そのため、彼女が何者なのか、根拠のない噂をする生徒が後を経たなかった。

 今、琉未菜も彼女を頼りにしながら、実のところ、彼女が何者かよくわかっていなかった。琉未菜が知っていることは、彼女はこの学校の生徒で、学長の親戚らしいということだけだった。この学園の学長の血筋がどのような家系図を描いているのか、さすがに琉未菜も知らなかった。


 彼女は、芦崎(あしざき)阿李紗(ありさ)という名前だった。


「お待たせしました。急に連絡してしまって……」

「琉未菜。わたしに聞きたいことって何ですか?」

 という彼女の美しい声には、どこか死人のような冷ややかな響きがあって、琉未菜は途端、ぞっと背筋が冷たくなった。

「実は、あることをお聞きしたくて……」

「あることって……」

「魔術協奏曲のこと……」

 その言葉を聞いた瞬間、阿李紗は弾かれたように、琉未菜の顔をじっと見つめた。


「それは、この学園に伝わる秘密の協奏曲……。その曲名を知る人は、学校の関係者でもあまりいないのですよ」

「もしなにか知っているのなら、わたしに教えてくれませんか?」

「詳しいことはわたしも知りません。ただ、あなたもあまりその曲名を安易にこの学園で口にしない方がいいですよ。あらぬ誤解を受けて、取り返しのつかないことになるかもしれません……」

 そういう阿李紗に、琉未菜はあの怪文が記された赤い紙を、そっと手渡した。


「この手紙が、わたしの女子寮に……」

「これは……」

 阿李紗は深刻な表情で、その赤い紙を見つめていると、痺れを切らして紙を取り返そうとした琉未菜の手を勢いよく払いのけた。

「この手紙については、わたしにお任せください。琉未菜さんも。こんな手紙が送りつけられたということは、誰にも話してはなりませんよ……」

「え、ええ……」


 阿李紗は、深刻な表情を崩さぬまま、その手紙を握りしめて、踊り場の先、暗い煉瓦造りの廊下の奥へと歩いていってしまったのだった。

 琉未菜は、思わず彼女の背中に声をかけようと思ったが、尋常ではない緊張感が彼女の背筋に走っているのを見てとって、思わず黙り込んだ。


(一体、なんだっていうんだろう。魔術協奏曲って……)


 なにか物語が進行しているらしいが、自分はそれについてゆけていない。焦燥感と不安が、琉未菜を悪戯に不安にした。琉未菜はしぶしぶ、女子寮へと戻ることにした。自分に関係のないことなら、こんなにも悩まなくていいはずなのに、とも思った。

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