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婚約破棄を取り消すために、膝枕をさせられざるを得なくなった王太子殿下(18)

さて今度は膝枕。

……膝枕って頭を乗せる方が「する」なのか、膝を提供する方が「する」なのか……。

まぁ何はともあれ膝枕。


どうぞお楽しみください。

「……スターツ」

「……何だアズ」


 いつもの中庭の長椅子で、アズィーは並んで座るスターツに声をかけた。

 婚約破棄を宣言し、騒ぎになる前は気楽に話をしていたのに、今はどこか緊張感が漂う。

 その理由はただ一つ。


「……せ、先日読んだ恋愛小説に、膝枕の場面があったの……」

「ひ、膝枕!? まさかそれをここで……!?」

「……仕方ないでしょう。未だに私達の婚約破棄を取り消した事を信じない者が多いのですから……」


 この奇妙な関係性のためだった。


「……わかっている。動揺してすまなかった」

「大丈夫です。……では始めましょう」


 家同士を結ぶためだけの婚約。

 それを解消した途端に押し寄せた求愛。

 その恐ろしさに取り消した婚約を、周りに信じさせるための演技。

 それをこの中庭の長椅子で行うのが常となりつつある。

 しかし。


(ひ、膝枕……!? そんなに身体に触れて良いものか……!? いや、これは演技! これは演技!)

(また私ったらはしたない事を……! でもあの恐ろしい求愛から逃れるために必要な事ですから……! ふしだらではないはず……!)


 幼い頃から婚約者と定められ、恋愛など本でしか知らない二人には、何とも刺激の強い行為だった。

 そんな内心を押し隠し、二人は向き合う。


「……では」

「……はい」


 目を合わせ、頷き合い、そこで固まる。


「……」

「……」

「……?」

「……?」


 お互い、相手が動かない事に首を傾げた。


「ど、どうした? やはり恥ずかしいのか?」

「い、いえ、大丈夫ですから遠慮なく……」

「え?」

「え?」


 再び首を傾げる二人。


「……まさかとは思うが、私がアズの膝に頭を乗せるのか……?」

「え、あ、そのつもりでしたが……」

「なっ……! そ、そうか……。てっきり私はアズが私の膝に乗せるのだと……」

「え……」


 一瞬それも良いかと思いつつ、恋愛小説の場面を思い出してアズィーは首を振る。


「い、いえ、本では男性が女性の膝に頭を乗せていたのです」

「そうなのか……」

「やや我の強い男性が、女性の膝に頭を預けて、寛いだ様子を見せるのが恋人らしいと思いまして……」

「……わかった。そのようにしよう」


 覚悟を決めたスターツが、ごろりと長椅子に横になり、アズィーの膝に頭を乗せた。

 周囲で二人の関係を見張っている生徒達から、押し殺した悲鳴が上がる。


「……効果はあるようだな」


 平静を装うスターツ。

 しかしその頭の中は、半ば以上アズィーの太腿に占められていた。


(柔らかい! 温かい! もっと深く沈み込みたい! しかしそんな事をすれば、演技だと思っているアズィーは私を軽蔑するに違いない……!)


「……えぇ、そうですわね」


 そう答えるアズィーも、太腿に触れるスターツの頭の感触に意識を奪われる。


(あぁ、何て心地よい重み……! そして普段とは違う角度から見る横顔……! それに美しい髪……!)


 そこでアズィーは、スターツに恐る恐る問いかけた。


「……あの、頭を撫でても……?」

「……好きにしろ」


 ぶっきらぼうな承諾の言葉に、アズィーの手がスターツの金色の髪を撫でる。

 周囲から更なる悲鳴が上がるが、二人の耳には入らない。


「……ふふっ」

「そんなに楽しいか?」

「えぇ、とっても」

「……なら好きなだけ撫でていい」

「……はい」


 優しい時間が流れる。

 ときめきと、それ以上に二人を満たす安らぎ。

 まるで婚約破棄騒動の前に戻ったかのよう。


「……暖かくて良い日ですね」

「……あぁ、風も、心地よい……」


 気持ち良さそうに目を閉じるスターツに、アズィーは悪戯心を起こした。


「そらにかがやく ほしたちが

 ぼうやがねるのを まっている

 ぼうやがちゃあんと ねむったら

 ながれるほしが やってくる……」


 昔アズィーの母親がよく歌っていた子守唄。

 鈴を転がすような声が、それを奏でる。


(子ども扱いするなとむくれるかしら……。ふふっ……)


 すると、アズィーの膝に乗ったスターツの頭が重みを増した。


「……スターツ?」

「……」

「……あら」


 聞こえてきたのは穏やかな寝息。

 まるで子どものような無防備な寝顔に、アズィーの顔が綻ぶ。


「……可愛い」


 我が子を寝かしつける母親のように、優しく頭を撫で続けるアズィー。

 その様子に周囲は声を殺して悶える。


「尊い……! まさに聖母と天使……!」

「あぁ、こんな二人の間に割って入る事など出来はしませんわ……!」

「い、嫌だ……! 屈しはせん……! 屈しはせんぞー……!」

「諦めたらそこで全てが終了ですわ……! 私は殿下と恋がしたいです……!」


 二人に思いを寄せる生徒の半数以上の心を折った事も知らず、アズィーは幸せそうにスターツの頭を撫でているのであった。

読了ありがとうございます。


ちなみに脱落者はもれなく二人の推しになりました。

尊いからね。仕方ないね。


次回もよろしくお願いいたします。

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[良い点] 今回も素晴らしかった……! [一言] >ちなみに脱落者はもれなく二人の推しになりました。 →知らんかった。私、誰よりもいち早く脱落した者だったのね……!(おい)
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