婚約破棄を取り消すために、積極的に動かざるを得なくなった王太子殿下(18)
お待たせしました。ここからは連載版オリジナルです。
アズィーの行動に違和感を覚えるスターツ。
明晰な頭脳が導き出した結論は……?
どうぞお楽しみください。
「何がどうなっているんだ……」
スターツはそう呟くと、寝台に寝転び溜息をついた。
幼い頃から婚約者とされ、何かにつけて側にいたアズィー。
考えている事は親よりもわかると自負していたアズィーの行動の意図が読めず、スターツは自室で煩悶していた。
「昨日は中庭で突然怒り出すし、かと思えば今朝はいきなり腕を掴んで……、っ!?」
自分の言葉で朝の柔らかな感触を思い出し、跳ね起きるスターツ。
「……落ち着け。あれは事故のようなものだ。とにかく状況を整理しよう」
言い聞かせるようにそういうと、スターツは天井を見上げる。
「額への口付け、あれは正解だったはず。口付けを提案したのはアズだし、演技で唇はやりすぎだし、嫌がる素振りもなかったが……」
スターツの明晰な頭脳は、瞬く間に一つの結論に至った。
「……アズも唇への口付けを望んでいた……?」
しかしスターツはその考えを即座に否定する。
「そんなわけがない! お互いにときめきがないから、婚約破棄をしようと決めたのだ。今になって急に好きになどなるわけが……。しかし……」
今度は朝の行動が、スターツの結論を後押しした。
「女生徒に手を繋ごうと言われた私の腕を掴む動作……。あれが嫉妬だと思えば説明がつく……」
それでもこれまでの関係性が、スターツの思考を乱す。
「ち、違う。あれは昨日の怒りの態度で生じた疑惑を払うための行動だ。怒ったのは、そう、唇にしておけば一気に解決したのに、という怒りだ、うん」
無理な理屈で納得させると、再び寝台に横になった。
「そうするとアズに謝らなければならないな。ただ謝るだけではなく新たな対策を打ち出し、真剣に解決に向けている事を伝えなければ……」
そう呟くと、スターツは再び思考を巡らせる。
スターツは気付いていない。
アズィーへの本心が口からこぼれ出た事に……。
「おはようアズィー」
「ご機嫌よう殿下」
翌朝、二人はいつものように並んで登校する。
周囲からは、昨日の朝の大胆な行動に恐れるような期待するような目が注がれていた。
(やるなら今だな)
周囲の状況を素早く観察したスターツは、昨晩考えた策を実行に移す。
「アズィー」
「ひゃっ!? で、殿下……!?」
不意に肩を抱き寄せられ、小さく悲鳴を上げるアズィー。
同時に周囲からは声にならない悲鳴が響く。
「……アズ、昨日はすまなかった」
「え、す、スターツ……?」
二人の距離だけで聞こえる言葉に、アズィーは胸が高鳴るのを感じた。
(ま、まさかスターツ、私が口付けされたいと思っていた事に気付いたのかしら……!? そんな……! い、今はちょっと……!)
思考が口付けに支配されたアズィーが、我知らず一歩スターツに近寄る。
すると抱き寄せていた肩から外れたスターツの手が、かけていた緩い力のまま内側へと滑り、
「あっ」
「ひゃっ」
アズィーの豊かな胸に触れた。
「す、すまない。すぐに」
「待って」
「え……?」
慌てて引こうとする手を、アズィーが両手で引き留める。
まるで自らスターツの手を胸に導くかのような行為に、スターツが、周囲が凍りついた。
「……これぐらいしませんと、周りの疑いは晴れませんわ」
「あ、お、そ、そうだな……」
「……」
「……」
肩越しに軽く触れているだけの手。
しかしそれは恋に不慣れな二人に激しい動揺を招いた。
(う、動かすな……! アズは演技でこうしているだけだ……! ここで欲望に負けたら本当に嫌われる……!)
(どうしてこうなってしまうの!? スターツにいやらしい女だと思われる……! でもこのスターツに包まれている感覚は、恥ずかしいけど逃れられない……!)
それぞれが甘い地獄を味わいながら、それでもいつもより少しゆっくりとした足取りで、校舎へと向かうのであった。
読了ありがとうございます。
真実に触れながら掴まないとは……(意味深)!
次回もよろしくお願いいたします!