婚約から結婚に至ったために、愛を囁かざるを得なくなった王太子殿下(22)
いよいよ完結!
前回の最後に記された、スターツが誓いを破るとはどういう事なのか!?
スターツとアズィーの関係の行方は!?
誰も心配していないと思いますが!
どうぞお楽しみください。
「あぁ、フトゥレ……。お前は何て可愛らしいのだ……」
スターツは腕の中のフトゥレに、愛に満ちた眼差しを向けた。
「この白い肌、柔らかい身体、小さい手、甘い香り……。何もかもが私の心を捕らえて離さない……!」
言いながらスターツは、フトゥレの頭を幾度となく撫でる。
嬉しそうに微笑むフトゥレを、思わず抱きしめるスターツ。
「いつまでも側にいておくれ。愛しい愛しいフトゥレ……」
「……あなた?」
「!」
背後から聞こえたアズィーの声に、スターツびくりと震えると動きを止めた。
にっこり微笑みながら扉を閉めるアズィーと、心臓を掴まれたような顔で後退るスターツの間に、凄まじい温度差が生まれる。
「あ、アズ……? こ、これは、その……」
「言い訳は結構ですわ。この事は義父上……、国王陛下に報告させていただきます」
「ま、待ってくれアズ! 誤解だ!」
「誤解も何もありませんわ。政務を抜け出してどこに行っているのかと思ったら、こんなところでフトゥレと楽しんでいたなんて……!」
「た、頼む、話を聞いてくれ……!」
「挙げ句の果てには『いつまでも側にいておくれ』ですって……!?」
「あ、アズ……!」
詰め寄ったアズィーから、押し殺した怒りの言葉がスターツに突き付けられた。
「娘はいずれお嫁に行くものです……! お気持ちはわかりますが、今から父親のあなたがそんな態度でどうするのですか……!」
「うぅ、だが……!」
「あー。だー」
スターツの腕から母に手を伸ばすフトゥレ。
そのまま抱き取ってフトゥレに笑顔を見せたアズィーは、名残惜しそうなスターツを睨む。
「さ、政務にお戻りくださいませ。父親としてあまり情けない姿をお見せにならないでほしいですわ」
「だ、だから今処理すべき政務は全て終わったのだ! フトゥレに会いたいと思っていたら集中力が高まって、明日行うものの一部まで片付いたのだ!」
「えっ」
「ちゃんと仕事はしたのだから、少しくらいフトゥレと遊んでも良いだろう……?」
「……」
思いもしない事実に目を丸くするアズィー。
(……今朝積み上げられていた書類は、一日がかりで終わるかどうかという量だったはず……。フトゥレに会うためにそこまで頑張ってくださっただなんて……)
その想いの深さと可愛らしさに、アズィーは少し頬を緩める。
しかし、すぐ不満げな表情を浮かべた。
「……でしたら一度私のところに来てくだされば良かったですのに……。そうしましたら、こんな事を言わなくて済みましたわ……」
「あ、そ、そうだな。その、政務が終わったと思ったら待ちきれなくて……」
頭を掻くスターツの胸に、アズィーは頭を押し付ける。
「……それに私だって、スターツに会いたいのを我慢していましたのに……」
「う……」
見る見る赤くなるスターツとアズィー。
フトゥレは両親が自分を見ていない事に、
「うー」
と不満の声を上げる。
そこへ。
「お、お待ちくださいレトゥラン様! 今は、その……!」
「退きなさいバウンシー。はぁい! フトゥレちゃーん! レトラお姉ちゃんが遊びに来ましたよー!」
スターツの妹レトゥランが飛び込んできた。
「あら、お兄様も来ていたのね。それにアズィー義姉様まで! ……あら? この雰囲気は……!」
「だ、駄目ですよレトゥラン様……! 今お二人が良い感じで見つめ合っていたので、お付きの私達は息を殺してお二人の甘い空気を味わっていましたのに……!」
「いえお姉様、ここはむしろレトゥラン様と一緒にフトゥレ様を別室にお連れした方が、お二人は遠慮なくいちゃいちゃされるのでは」
「名案だねジエル。じゃあ僕達は席を外そうか。……お、丁度良いところに来たねキャンター」
「何だバウンシー。そろそろお茶の時間かなって豆茶持ってきたんだけど、そんなに丁度良かったか?」
「えぇ! 最高よキャンター! ではお兄様とアズィー義姉様を残して、お茶会と行きましょう! さぁおいでフトゥレ!」
「きゃーう!」
「え、あの……」
「ちょ、ちょっと……」
歓声を上げるフトゥレを連れて行かれ、戸惑う二人を残してそそくさと部屋を去る面々。
最後にレトゥランが、ご機嫌なフトゥレを抱っこしながら意味深な笑みを浮かべる。
「もしかしたらフトゥレがお姉ちゃんになるかもですねー?」
「う?」
「なっ……!」
「れ、レトラ……!」
抗議の声は届かず、扉は無情にも閉められた。
「……」
「……」
レトゥランの言葉が意味するところを理解し、顔を赤らめるスターツとアズィー。
「……その、第二子の話は、まぁ、さておいて……」
「……はい……」
「えっと、その、私はフトゥレを愛しているが、同じかそれ以上にアズを愛している……」
「……! スターツ……!」
「二人がいる限り私はいくらでも頑張れる気がしている……。だからこれからもよろしく頼む……」
「……勿論ですわ……!」
見つめ合う二人。
近付く顔と顔。
「……アズ」
「……ん」
二人は優しく唇を重ねた。
「……幸せだよアズ……」
「私もです……! 今が幸せの絶頂です……!」
「あぁ、そうだな……」
涙ぐむアズィーにもう一度唇を重ねるスターツ。
しかし二人は知らない。
この先もっと多くの幸せが、想像を絶するような幸せが、二人とその周囲に大挙して押し寄せて来る事を……。
読了ありがとうございます。
思い付き短編から数話書いて、「これなら連載にした方がいいなぁ」と連載化。
……十万文字超えるなんて……。
読者の皆様の感想ってすごい。僕は改めてそう思った。
一応補足ですが、アズィーがフトゥレを身籠った時から、フロウとジエルが側仕えとして王宮に上がりました。
時を同じくしてスターツも本格的に王位を継ぐための政務の引き継ぎを始め、側近としてバウンシーとキャンターを王宮に呼びました。
レトゥランはフトゥレにめちゃくちゃ懐かれていて、花嫁修行の合間に遊んでいます。
ドゥーイはティーズ公爵家を継ぐべく、のんびり頑張っています。
アリーはフロウに命じられ、まだ見ぬ豆を探して世界を旅しています。
それとフトゥレの由来は、未来を表すfutureから。
幸せいっぱいに育つ予定です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
今未完の連載を完結したら、また新作を書かせていただこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。