婚約破棄を取り消したため、永遠の愛を誓わざるを得なくなった王太子殿下(20)
いよいよ二年後。
学園を卒業して、結婚適齢期となった二人は式を挙げます。
どうぞお楽しみください。
「おめでとうございます!」
「末永くお幸せに!」
祝福の声が響く中、花婿と花嫁を乗せた馬車がゆっくりと街を進む。
色とりどりの花びらが道沿いの窓から投げられ、雨のように降り注いだ。
幸せな空気に包まれた馬車は、街一番の教会の前で止まる。
降りた新郎新婦は、街の人々に一礼をすると、教会に入って行った。
「おぉ! 美しい……!」
「まさにお似合いの夫婦ですわ……!」
列席者の感嘆の声を浴びながら、二人は祭壇の前へと進む。
「汝らはここに新たな夫婦となる誓いをするために、ここにやってきた。相違ないな?」
神父の言葉に二人は頷いた。
「隣にいる者を生涯愛し、また尊敬し合い、助け合う事を誓うか?」
再び二人は大きく頷く。
宣言を聞いた列席者から大きな拍手が巻き起こった。
「では神と祝福に集まった皆の前で、誓いの口付けを!」
途端に静まり返る教会の中で、見つめ合った二人はそっと唇を重ねる。
先程以上の大きな拍手が巻き起こる中、二人は列席者に向き直り、一礼した。
「よろしい! では新たな夫婦の誕生を、神の御名において祝福する!」
終わらない拍手に見送られるようにして、二人は教会を出る。
そして馬車は二人を乗せて、王宮の中にある披露宴会場へと向かうのであった。
「素敵な結婚式でしたわ!」
「あぁ、見事だった」
アズィーとスターツは笑顔で控え室へと入る。
そこには新郎バウンシーと新婦フロウが、並んで座っていた。
「ありがとうございます。お二人に祝福していただいて、本当に嬉しいです」
「私達が結婚するきっかけをくださったのはお二人です! 何度感謝しても足りませんわ!」
立ち上がって手を取るバウンシーとフロウに、スターツとアズィーは笑顔で握り返す。
「そんな事はない。私が何かした訳ではないからな」
「そうですわ。お二人の想いが通じ合った結果ですわ。どうぞ私達に気を遣わずに……」
その言葉にバウンシーとフロウは、密かに溜息をついた。
「あれだけ甘い空気を振り撒いて、ここまで無自覚だとはねぇ……」
「まぁそれがお二人らしさと言うべきところなのでしょう……」
しかしそこは高位貴族。
バウンシーとフロウはさらりと流すと、本題に移った。
「それでですね。披露宴の前にこちらにお呼びいたしましたのは、僕達からお二人に一つお願いがありまして」
「何でも言ってくれ。今日の祝いに何でも応えよう」
「えぇ、勿論ですわ」
「ん? 今何でも応えるって言いましたわよね?」
「あぁ、確かに聞いたよ」
「え……、え……?」
「な、何でしょうか……?」
にやりと笑ったバウンシーとフロウに、たじろぐスターツとアズィー。
すかさずフロウは言葉を続ける。
「ではお二人の結婚式の時には、私に全てを任せていただけますか!?」
「え、まぁそれは別に構わないが……」
「……え、えぇ。お任せいたしますわ……」
「!」
二人の返答に笑みを浮かべたフロウは、バウンシーから書類を受け取ると二人の前に突き出した。
「こちらが計画書になります! 街の行進の流れは今日確認できましたし、披露宴の流れはこれまでの王室の宴席全ての流れを確認して参りました!」
「……? おぉ……。これは何と緻密な……!」
「披露宴の計画までここまで……!」
驚愕する二人に、フロウは胸を張る。
「今回の結婚式とこの後の披露宴の反応を元に、更に修正をいたしますわ! どうかご承認を!」
「……何も文句の付けようがないが……」
「私達の結婚は、まだ先の話で……」
「それはいけませんわ!」
フロウはずいと二人に詰め寄った。
「ご卒業されてからこの方、お二人が仲睦まじいとのお噂は耳にしますが、ご結婚の話が出ないのはおかしいと思います!」
「それは、その、時期を見て……。なぁ?」
「はい、そんなに急ぐ事ではないかと……」
「そんな事はありませんわ! 婚約者のままで居続ければ、何かお二人の間に問題があるのではと邪推し、割って入ろうとする者も出てくる事でしょう!」
「う、それは……」
「そうかも知れませんけれど……」
赤くなり、もじもじするスターツとアズィー。
それを見てフロウは何かを察した。
「……まさかとは思いますけれど、夫婦の営みをするのが恥ずかしいから、結婚を先延ばしにしているのではありませんわよね?」
「う……」
「……その、はい……」
図星を突かれて、二人は赤くなって小さく頷く。
その反応に、フロウは大きく溜息をついた。
「そういった事は、結婚後すぐにせねばならないというものでもありませんわ。まずは結婚という形でお二人の関係が不動のものであると知らしめる事が重要ですの」
「う、うむ……」
「そうですわね……」
「ですから一日も早く結婚式を挙げましょう! 国一番の結婚式を!」
「あ、あぁ……」
「わ、わかりましたわ……」
フロウの勢いに頷かされるスターツとアズィー。
その様子を苦笑しながら見守るバウンシー。
(このために僕との結婚を前倒しにしたようなものだからなぁ。フロウの尊さへの拘りは相当なものだ。まぁ僕と早く結婚したいと言ったのも本当だろうけど)
そんなバウンシーの暖かい目に気付いた様子もなく、フロウはスターツに迫る。
「では予行演習ですわ! アズィー様に思いの丈をお伝えなさってください!」
「そ、そんな事を急に言われても……」
「本番は待ってくれませんわ! お気持ちがないというなら別ですけれど?」
「あ、ある! 言葉では伝えきれない程に!」
「スターツ……!」
「では是非!」
「……わかった」
スターツは大きく深呼吸をして口を開いた。
「……アズィー。私は誰よりも君を愛している。何があっても君を一番に愛し続ける。何と戦ってでも君を守り続ける」
「……!」
「だからどうか側にいさせてくれ。この命が尽きるその時まで……!」
「……も、勿論ですスターツ……! 私も愛しています……!」
力強く宣言したスターツに、涙ぐみながら答えるアズィー。
「……!」
「……フロウ。気持ちは分かるけど、拳を天に突き上げるのは淑女としてはちょっといただけないよ?」
「だってこんなの最高以外の何ものでもないですもの! あぁ、尊いですわ……!」
こうしてバウンシーとフロウの結婚を機に、スターツとアズィーも結婚に向けて動き出した。
だがスターツは知らない。
この時の誓いを、後に破ったも同然になってしまう事を……。
読了ありがとうございます。
最後が不穏なのは、私の連載の特徴でございます。
しかしその誓いを破る事になったら、各方面から滅多打ちにされるスターツ。
果たしてその運命やいかに?
次回最終話となります。
よろしくお願いいたします。