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婚約破棄を取り消すために、自責の念を味わざるを得なくなった王太子殿下(18)

着々と仲を深めるスターツとアズィー。

それにより絶滅危惧種となった婚約破棄肯定派。

しかしそれに伴う不安も感じるようで……?


どうぞお楽しみください。

「あぁ、今日もアズは美しく、可憐で、可愛らしかった……」


 自室でしみじみと息を吐くスターツ。

 日々手を繋ぎ、昼休みには中庭で仲の良い様子を示している現状に、スターツは幸せを感じていた。

 それと同時に不安もつきまとう。


「……学園内での婚約破棄の取り消しは、かなり浸透してきていると考えて間違いないだろう。……そうするとアズと過ごす時間の正当性が薄れてしまう……」


 現在二人が共にいる理由は、『婚約破棄を信じて交際を申し込む者達に、取り消した事を示す演技』という事になっていた。

 それが順調に行っているという事は、遠からず演技をする必要がなくなる事と同義だ。

 それをアズィーとの関係の減衰と勘違いしているスターツは、強い焦りを滲ませる。


「……アズの心をときめかせるまでは、何としてもこの時間を死守しなければ……!」


 全く必要のない決意を固めて、スターツは一人作戦を練るのであった。




「アズ」

「何でしょうスターツ」


 昼食を終え、いつもの中庭の長椅子に座ったスターツは、昨夜考えた内容をアズィーに語り始めた。


「我々は婚約破棄を取り消した事を証明するために、共にいる事を心がけた」

「……はい、そうですわね」

「その甲斐もあって、大部分の者が私達の関係を婚約者であると再認識している」

「……えぇ。間違いありませんわ」

「だがまだ完全ではない。幾人かはまだ疑いを抱えているようだ」

「はい。表立って求愛してくる方こそいませんが、手を緩めればつけ込んで来る方もいるのではないでしょうか」

「そうだ。だから今後もより仲睦まじい様子を示していくとしよう」

「わかりましたわ」


 想定した通りに話ができたスターツは、心の中で安堵の溜息をつく。


(これで一人でも婚約破棄を信じる者がいれば、アズと一緒にいる理由になる。……いや、いなくても構わない。『そういう噂を耳にした』と言うだけで十分……)


 そんなスターツの安心を、アズィーが突き崩した。


「ではここからは、更に新しい方法で仲の良さを示す、という事ですの?」

「え、いや、その……」

「これまでの行動では納得しない方々に示すには、何か別の方法を考える必要がありますものね」

「あ、まぁ、そうなるな……」

「それはどのような方法ですの?」

「う……」


 現状維持だけを考えていたため、完全に虚を突かれたスターツ。

 大急ぎで思考を回すが、元々恋愛経験値はアズィーとの時間しかないため、なかなか思いつく事ができない。


(今まで何をした……? 手繋ぎ、膝に乗せる、額に口付け、腕を組む、肩を抱く、膝枕、花を贈る、食べさせ合い、喫茶、読み聞かせ、踊り、恋文、添い寝……!)


 思い出せば出すほど頭の中は愛おしさと恥ずかしさで埋められていき、まともな思考能力は失われていった。

 返答がない事に不安を持ったアズィーが、前から考えていた案を躊躇ためらいながら口にする。


「……あの、やはり口付けが、確実ではないかと……」

「くっ……!?」


 更なる衝撃に、スターツは反射的に答えた。


「い、いや、それは、その、さ、最終的な、切り札のようなもので、だから、こう、みだりに行うのは、あ、あまり良くないのではないかと……!」

「で、ですがこれ以上何をすれば良いのか、私には想像もつきませんの……! ここは思い切った一手に出る時では……!?」

「ま、待て! す、少し考えをまとめる! とりあえずしばらくは現状を維持して、新たな手を思い付いたら実行する、それでどうだろうか!?」

「……はい、わかりましたわ……」


 声に僅かながら落ち込みが滲むアズィー。

 それを感じたスターツは、密かに歯を食いしばる。


(策を思い付かない事で、アズを落胆させてしまった……! くそ……! 何故私は次の手を考えておかなかったのだ……!)


 見当違いの悔しさを噛み締めながら、スターツはちらりとアズィーに視線を送った。


(……口付けは、いつか演技でなくなった時に、心から愛が通じ合った時に行いたい……。だから何としても別の策を考える! 待っていてくれアズ!)


 そんな視線に気付かず、アズィーはひっそりと悲しみを抱き締める。


(あぁ、演技でも良いから、スターツと口付けを交わしたい……。でもスターツは誠実だから、演技ではしてくれないのですわ……。もっと振り向かせなくては……!)


 一致しているようでずれている二人は、一つ大きく息を吐くと向かい合った。


「……では、ひとまず、その、膝に乗る、か……?」

「……は、はい……。失礼いたします……」


 そんな二人の様子を見ていた生徒達は、大きく溜息をつく。


「あぁ良かった! やはり口付けを交わすのには抵抗がある! つまりまだ可能性はあるのだ! わはは!」

「あのお馬鹿さん先輩は放っておくとして、どうしたら良いと思います? お姉様」

「これは周りがどうこうしても難しいと思いますわ。お互い相手が演技だと思っているうちは、何をしてもされても、心から受け入れられませんもの」

「何かきっかけがあれば、一気に通じ合うと思うんだけどなぁ……」


 そんな周囲の思いをよそに、スターツとアズィーは少しぎこちない二人の時間にもどかしさを感じながらも、やはり幸せを味わうのであった。

読了ありがとうございます。


もういちゃいちゃするネタなくね……? と思い書いたこの話。

しかしそうなるとまた思いつくものですね。

甘々よりコメディー寄りになるかと思いますが、次回もよろしくお願いいたします。

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