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婚約破棄を解消するために、服を選ばざるを得なくなった王太子殿下(18)

久しぶりに優秀な妹の登場です。

果たして後押しは成功するのか?


どうぞお楽しみください。

「ご機嫌ようお兄様、アズィー義姉ねぇ様。さぁ今から服を買いに行きましょう」

「……レトラ、また連絡もなくお前は……」

「こんにちはレトラ。服を買いに行く、という事は、街の服屋へ行くのですか?」

「はい!」


 下校時間に待ち伏せをしていた妹に額を押さえるスターツをよそに、レトゥランはアズィーの問いに答えた。

 普段王族であるスターツやレトゥラン、高位貴族であるアズィーは、家に専属の仕立て屋がいる。

 しかしそこから出来上がるのは、当然家格に相応しい品位ある服。

 なので貴族の令息令嬢の間では、時折街の服屋で既成服を買う事があるのであった。


「本格的に夏となれば、涼を求めて夜会も増えますでしょう? そんな時に新しい夜会服は必要ですわ」

「……そうですわね。ではレトラと二人で」

「いえ! ここはお兄様にも同席してもらいます!」

「え……?」

「何……?」


 レトゥランの言葉に、表情を変えるアズィーとスターツ。

 一般的に女性の服選びに男性が同席するのは珍しい。

 服に対する感性の違いから参考にならない場合が多いのと、女性が自分の完成されていない装いを男性に見せるのを好まないからだ。

 逆にその前提の中でも男性を伴うという行為には、別の意味が宿る。


「服屋にまで同行するお兄様の姿を見たら、周りはこう思うでしょう。『王太子殿下は片時も離れたくない程に婚約者を愛している』と」

「な……!」


 図星を突かれて絶句するスターツ。


「それに『アズィー嬢は服屋に連れて行く程、王太子殿下に心を許している』とも思われますわね」

「……それは、その、確かに評判としては悪くありませんわね……」


 図星を突かれて狼狽うろたえるアズィー。


「ですから今お迎えに上がったんですの。ここなら学園の多くの方に、その評判を広げてもらえますもの」

「……成程」

「……そういう事でしたら……」


 二人が頷くのを見て、レトゥランはにやりと微笑んだ。


(ふふふ、さぁもっともっと恋の深みにはまるのです……! 二度と婚約破棄など言い出さないように……!)


 そんなやり取りを眺めた生徒達は、口々に感想を述べる。


「スターツ殿下の妹君いもうとぎみ、お二人を仲良くさせようとしているのでしょうけれど、これ以上何もしなくても勝手に甘くなる気しかしないんですよねぇ……」

「いいえバウンシーさん。外からの刺激によって新たな甘さが展開される、それもまた良いものだと思いますわ」

「ええい! そんな事より追跡だ! スターツ殿下がアズィー様の服に頓珍漢な感想を言って、幻滅される瞬間を見届けるんだ!」

「キャンター先輩が女性ものの服屋に入れる訳がありませんわ。私とお姉様にお任せくださいませ」


 こうして一行は、街の服屋へと繰り出すのであった。




「まぁ! アズィー義姉ねぇ様! 素敵ですわ!」

「そ、そうかしら……!? だ、大胆過ぎではないかしら……?」

「いえ! これくらいは必要なのです!」

「……何にですの……?」


 試着室の中で、レトゥランとアズィーが何やら盛り上がっている。

 応接椅子に座りの悪さを感じながら、スターツは扉が開くのを待っていた。


(……レトラが選んでいるなら、そうおかしなものにはなるまい……。開口一番で褒めて、その服を買い、店を出よう……。しかし大胆とは一体……?)


 そんなスターツの願いを天が聞き遂げたかどうかはわからないが、試着室の扉が開く。


「お兄様、お待たせいたしました!」

「……」

「いや、大した事ではない。で、アズの服、は……!?!


 余裕を演じながら立ちあがろうとしたスターツの動きが、腰を痛めそうな中途半端なところで止まった。

 そこには大きな首飾りを入れる前提で作られたであろう、胸元に大きく意匠の服に身を包んだアズィー。

 袖はなく肩も露わな格好に、スターツの頭に血が昇った。


「な、何だその服は! 肌が、そんな、駄目だろう!」

「あら? 何がいけませんの? アズィー義姉ねぇ様の美しさをこれ程に引き立てていますのに」

「いや、その、美しいが、しかし、その、こんなのは……」

「まぁ。アズィー義姉ねぇ様が美しい事はお認めになりますのね? ではその美しさを引き出す事に何の問題が?」

「え、その、それは……。そ、そうだ! 以前婚約破棄を宣言した際に、アズィーは凄まじい求婚に晒されたのだ! それを防ぐためには」

「お兄様が守ればよろしいのでは?」

「う、あ、いや、しかし……」

「えぇ? アズィー義姉ねぇ様を守る覚悟がおありではないと?」

「そ、そんな訳があるか! どんな相手であろうと、アズは私が守ってみせる!」

「……! スターツ……!」


 その言葉とアズィーの反応に、レトゥランは満足げに微笑む。


「いやー、こんなにお兄様がアズィー義姉ねぇ様のこのお姿を他人の目に晒したくないなんてー」

「え、いや、それは、その……!」

「アズィー義姉ねぇ様。この服は二人きりの時に、お召しになってくださいませ」

「ふたっ……!? れ、レトラ……!」


 あわあわする二人を尻目に、レトゥランは会計を済ませて店を出た。


(さぁ、これであの服を見るたびに、二人はときめかざるを得ませんわ……! 遠慮するようなら、『私からの贈り物はお気に召しませんでしたか!?』と言えば……!)


 凶悪な笑みを浮かべたレトゥランは、機嫌良くその場を去った。

 その様子を客として店内に入って見ていたジエルとフロウは、大きく溜息をつく。


「あれではいけませんわ! あんなに露出の多いお姿では、スターツ殿下は照れて何もできなくなるに決まっていますのに!」

「いいえジエル。このままではずっとあの恋愛小説以下の展開です。まぁ甘さは段違いなのですが……。とにかくお二人の進展には、何か大きな刺激が必要なのです」

「それは分かりますけれど、もどかしいですわ」

「それを見守るのが、尊さを味わう事なのです」

「……分かりました。……店の外で豆茶片手に跳ねるお馬鹿さんには、一生分からなさそうですけれど……」


 そんな二人の会話をよそに、『着替えろ』とも『着替えるな』とも言えないスターツと、褒められるまでは待ちたいアズィーとの間で、服屋の店主は言葉もなく戸惑い続けるのであった。

読了ありがとうございます。


大胆ドレス、いいね!


次回もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 豆茶片手に跳ねるおばかさん……どんどん可愛いわんこに見えて来ました
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