婚約破棄を取り消すために、告白せざるを得なくなった王太子殿下(18)
告白ですってよ奥様!
まぁ完結じゃない時点でお察しなのですが……。
どうぞお楽しみください。
「……私はこれまでにいくつもの嘘をついてきた。それは必要なものであったが、同時にとても心苦しいものであった……」
「……はい」
「だからもう終わりにしようと思う」
「……! わ、わかり、ました……。ではこの関係は」
「自分を偽る事をやめ、正直に生きる事に決めたよ」
「……え? そ、それはどういう……?」
「愛しているよ、花のように美しい君よ……」
「……! わ、私もです……! どうぞ生涯愛でてくださいませ……!」
二人はそっと顔を寄せると、唇を重ねた。
それは甘く、幸せで、二人の生涯でも最高の瞬間となったのであった。
「ふむ……。これで大団円というわけか」
スターツは『花手折る貴公子』の第十巻を読み終え、大きく息を吐いた。
「どうにも読みにくい話だったな。お互いの心の動きを描き過ぎている事と、不自然な邪魔が入る事とで冗長な印象になっている。まさか告白まで十巻とは……」
自分の恋の進まなさを棚に上げて、辛口の評価を下す。
しかしその表情に、ふと寂しさが横切った。
「しかしお互い好き合っていながら、身分の違いですれ違う関係か……。身分差は問題ないのに一方的に想いを寄せるだけの私とは真逆だな……」
学園で呟いたら殴られそうな言葉をこぼしながら、スターツは本を袖机に置く。
その手がふと動きを止めた。
「……私も告白をしたら何か変わるのか……?」
そんな事を思い付き、『花手折る貴公子』に自分とアズィーを当てはめてみるスターツ。
『……私はこれまでにいくつもの嘘をついてきた。それは必要なものであったが、同時にとても心苦しいものであった……』
『……はい』
『だからもう終わりにしようと思う』
『……! わ、わかり、ました……。ではこの関係は』
『自分を偽る事をやめ、正直に生きる事に決めたよ』
『……え? そ、それはどういう……?』
『愛しているよ、花のように美しいアズ……』
『……! わ、私もです……! どうぞ生涯愛でてくださいませ……!』
二人はそっと顔を寄せると、唇を重ね
「うわ! うわ! うわ! な、何を考えているのだ私は……!」
まるで誰かに弁明するかのように、大きく手を振る。
耳まで真っ赤になり、息を整えるスターツ。
しかしその顔には、抑えきれない笑みが浮かんでいた。
「……これだ! アズに返す際にこの台詞を言えば、ときめかせる事ができる! ……もしアズがときめかないようなら、台詞を真似ただけと言えるしな……」
情けない決意を固めたスターツは、台詞を暗誦するべく本を開くのであった。
「おはようアズィー」
「ご機嫌麗しゅう殿下」
翌朝、学園に向かう道でアズィーと落ち合ったスターツは、『花手折る貴公子』を手渡した。
「ありがとうアズィー」
「お読みになられたのですね。いかがでしたか?」
「あぁ、それなのだが……」
スターツは一呼吸置いて告白を始める。
「……私はこれまでにいくつもの嘘をついてきた。それは必要なものであったが、同時にとても心苦しいものであった……」
「……え?」
「だからもう終わりにしようと思う」
「……! そ、それって……!」
「自分を偽る事をやめ、正直に生きる事に決めたよ」
「私は嫌です!」
「愛、えっ」
始めようとしたスターツの告白は、アズィーの強い言葉に遮られた。
「誰か他に好きな女性でもできたのですか!? 一体誰ですか! 他に女性の影など感じられなかったのに……!」
「いや、だからその」
「もう一度よくお考えくださいませ! 家柄を盾にするのは本意ではありませんが、公爵家令嬢である私は王太子の婚約者として相応しいと思いませんか!?」
「あの、それは勿論」
「それに何か不満があるなら、まず相談があるべきではないですか!? そんな薄い関係ではなかったはずです! 今からでも間に合うなら指摘していただいて」
「お、落ち着いてくれアズ!」
「ぴゃ!?」
凄まじい剣幕に押されながらも、アズィーの両肩に手を置くスターツ。
小さな悲鳴を上げて、アズィーは大人しくなった。
「ち、違うのだ。今のは、そう、『花手折る貴公子』の台詞を真似たもので……」
「え……? あっ! し、失礼いたしました!」
「な、何、面白かったというだけではつまらないと、遠回しな事を言った私にも責任はある」
「で、ですが私ったら殿下に何て事を……!」
真っ赤になって狼狽えるアズィーの肩を、スターツはぽんぽんと叩いて手を離す。
「気にするな。どうしても気になるのなら、新たな恋愛小説を私に教える事で帳消しとしよう」
「あ……! では『花手折る貴公子』の続刊をお渡ししますね」
「……続きがあるのか……」
強張る表情を隠して微笑むスターツ。
そんなやり取りをこっそり見つめる周囲は賛否両論となる。
「予防線を張った告白など真の愛ではない! ふふふ、やはりお二人の仲は冷えている! 氷を浮かべた豆茶のように!」
「それでも告白をしようとする時点で、少なくともスターツ殿下はアズィー様をお好きだと思うのですが……。お姉様はどう思いますか?」
「それでも告白であるなら、借り物ではなく心からの言葉でしてもらいたいと思いますわ」
「言えば絶対成功すると思うんですけどねぇ」
こうしてスターツの告白は風に散った。
そして昼に中庭でアズィーに台詞の暗誦をねだられ、スターツは再び地獄を味わうのであった……。
読了ありがとうございます。
最初は直前でへたれて「好きだ……! こ、この小説が……」と言うとか、何とか言い切るも「あぁ、殿下もその台詞がお好きなのですね」と流されるとかあれこれ考えましたが、何かこんな感じになりました。
アズィーは敵に回したら大変なタイプかも知れない……。
次回もよろしくお願いいたします。