婚約破棄を取り消すために、男の尊厳に目を瞑らざるを得ない王太子殿下(18)
知らなかったのか?
膝枕からは逃げられない……!
今回は甘めです。
どうぞお楽しみください。
「あ、あの、レトラ……。この体勢はいつまでしていれば良いのだ……?」
「お兄様はアズィー義姉様を不安にさせましたね」
「え、いや、まぁ、その、結果として……」
「罰として小一時間はアズィー義姉様の膝でお過ごしください」
「え、いや、それは……」
「先程アズィー義姉様に『嫌いになる事などあるものか』と仰いましたよね?」
「あ、あぁ、言ったがしかし」
「お嫌いでないなら膝枕を断る理由はありませんわよね?」
「う……」
不機嫌なレトゥランに見下ろされ、気圧されるスターツ。
しかし照れくさいのと以前眠ってしまった事への恥ずかしさで、何とか膝枕からの脱却を試みる。
「し、しかしアズは良いのか? その、膝枕というのは……」
「……やはりお嫌なのですね……?」
「ち、違う! アズの足が痺れたりしないか心配なだけだ! アズに問題がないなら、私に断る理由はない……」
「……良かった……」
「……なので、足が痛くなったりしたらすぐに言ってくれ。それまでは、その、世話になる……」
「……はい」
アズィーの不安げな態度に抵抗を諦めたスターツは、力を抜いて頭を預けた。
柔らかい足の感触に動揺する気持ちを抑え、ゆっくりと息を吐く。
(しかしつい目を逸らしてしまった事が、こんなにもアズを不安にさせていたとは……。私が離れれば、あの求婚の嵐が吹き荒れるのだから無理もないが……)
ずれている推察を元に、スターツは決意を固めた。
(これからはアズにもっと恋人らしい事をしていかないとな……。もっともやりすぎると私の心臓が保たないだろうから、褒めたり贈り物をしたりだな……)
考えがまとまると、心が軽くなるのを感じるスターツ。
そのわずかに緩んだ表情を見たアズィーが微笑む。
「ふふっ、何かお悩みが晴れまして?」
「あぁ。アズィーの膝枕が気持ち良いお陰だな」
「えっ」
「まぁ……」
「……あ!」
褒めようと思った事と、緊張がほぐれた事とが重なって、スターツはつい思った事をそのまま口にしてしまった。
アズィーが顔を朱に染め、レトゥランが綻ぶ口元を抑える中、跳ね起き必死に弁明するスターツ。
「い、いや、その、決していやらしい意味ではなくてだな! その、何というか、心が安らぐというか、ほ、ほら、前に眠ってしまった事があったのもそれで……!」
以前膝枕で眠ってしまった事を恥じているスターツであったが、足に欲情する変態と思われるよりはましだと、必死に捲し立てる。
「……大丈夫ですスターツ」
「え……」
「私もスターツを嫌いになる事なんてありませんから」
「……あ、うん、あ、ありがとう……」
二人の間に暖かな空気が流れた。
「……では、その、もう一度……」
「え!? あ、あぁ……。では、膝を借りる……」
「……はい」
今度は抵抗なく頭を預けるスターツ。
その身体に先程までの緊張はない。
(あぁ、落ち着く……。この喜びをいやらしく思われずにアズに伝えたいが、難しいものだな……)
そして先程より重みを感じる膝に、喜びを噛み締めるアズィー。
(ずっとこんな風に甘えてくれたら良いのに……。はしたないと思われずに、スターツを膝に寝かせる誘い方はないものかしら……)
そんな二人を眺めながら、音を立てないように室内に戻ったレトゥランは、渋めの紅茶を優雅にすする。
(ふふふ、お二人を近付けるには、触れ合っても良い理由を作れば良いのですわね。お互いが触れ合いたいと思っているのですもの。そうと分かれば……)
そんな風に見られている事に気付かず、二人は満ち足りた時間を過ごすのであった。
読了ありがとうございます。
レトゥランは先んじて渋めの紅茶を頼んでいました。
レトゥラン様は賢いお方……。
次回もよろしくお願いいたします。