婚約破棄を取り消すために、休みに出かけざるを得なくなった王太子殿下(18)
助走回です。甘さ控えめ。
有能な妹も出ます。
どうぞお楽しみください。
「お兄様」
「な、レトラ!? 何故ここに!?」
学園からの帰り道。
馬車から現れた妹レトゥランに、スターツは動揺し、アズィーと繋いでいた手を離す。
(……レトラに見られて恥ずかしい気持ちはわかりますけれど……、もう……)
(ふふふ、やはりアズィー義姉様はお兄様の事を……)
手を離された事に対するアズィーの僅かな不満を、レトゥランは見逃さなかった。
自分の作戦に更に確証を得たレトゥランは、にっこりと微笑む。
「少し用がありまして。ご無沙汰しておりますアズィー義姉様」
「ご機嫌麗しゅうレトゥラン姫殿下」
「嫌ですわアズィー義姉様。以前のようにレトラとお呼びくださいませ」
「……そうね。会えて嬉しいわレトラ」
「えへへ……」
アズィーに微笑みかけられ、年相応の笑みを見せるレトゥラン。
(やはり二人は仲が良いな。そんなアズィーと一度は婚約破棄をしたのだ。レトラの態度が冷たかったのも無理はないな……)
そんな二人の姿に目を細めるも、本来王宮にいるはずのレトゥランがいる理由がわからず、スターツは咳払いをする。
「それで用とは何だ?」
「一つお二人に助言を、と思いまして」
「助言?」
「はい、明日の学園の休み、お二人でお出かけをなさってください」
「二人で……」
「お出かけ、ですか……?」
レトゥランの意図が読めず、言葉を失う二人。
その隙にレトゥランは自分の意見を押し込む。
「お二人は周りに婚約破棄を取り消した事を伝えたいのですよね?」
「あ、あぁ、そうだが……」
「それには二人で出かける、つまり逢引きが必要なのです!」
「あ、逢引き……!? そ、そんな大胆な事……!」
「アズィー義姉様! その躊躇いが不届きな輩を増長させているのです! 逢引きをすれば、そんな輩は一網打尽ですわ!」
「し、しかし校外で逢引きをしても、学園の者の目に触れはしない。それでは効果がないのではないか……?」
「お兄様はそこが甘いのです! 休み明けにそれとなく二人で出かけて楽しかった話をすれば、それは目の前で行われていない分想像をかき立てるのですわ!」
「な、成程……」
反論が尽きたと見るや、レトゥランは用意しておいた紙を取り出して二人に見せる。
「お二人がご納得頂けたところで、こちらをご覧くださいませ」
「何だ? 新設の店の広告か……?」
「れ、恋愛喫茶……!?」
「そうです! 個室に様々な恋愛小説の場面を模した、恋人達御用達の喫茶です! ……まぁ大半のお客は、恋愛小説好きな女性のようですが……」
んんっ、と咳払いをして、話を進めるレトゥラン。
「とにかく! ここに行き、楽しかった話を学園内でそれとなく話せば、お二人の仲に付け入る隙がないと皆が理解する事でしょう!」
「……そううまくいくかな……?」
「確実に有効な手段をお持ちでないなら、しないよりはする方が良いはずでは? ねぇ、アズィー義姉様?」
アズィーが恋愛小説をかなり読み込んでいる事を知るレトゥランは、すかさず話を振る。
「……そうですわね。ス……、殿下、手は多く講じておくに越した事はありませんわ」
「……そうだな。行ってみるとしよう」
アズィーの後押しを受けたスターツの返答に、レトゥランは心の中で快哉を叫ぶ。
(やりましたわ! これまでは人目を気にしての演技だったはず! しかし個室で二人きりならば本心で向き合えて、二人の距離は確実に縮まりますわ!)
目論見を達成できたと満足するレトゥラン。
しかし。
「ではレトラも一緒にどうだ?」
「はぁ!? それでは意味が」
「私もレトラと一緒に行きたいわ」
「え……」
レトゥランは甘く見ていた。
二人の間に張り詰める甘酸っぱい緊張感を。
(二人きりでは話題が持たない……! レトラには悪いが間に入ってもらえば何とかなるだろう……!)
(恋愛喫茶には行ってみたいけれど、スターツと二人きりだなんて絶対まともではいられませんわ……!)
二人の様子から全てを察したレトゥランは、
「……アズィー義姉様がそう仰るなら……」
そう答えるしかなかった……。
読了ありがとうございます。
レトゥランの有能さをアピールしようと思うと、スターツとアズィーがポンコツになる……。
まぁ恋愛は知能指数を下げるからね。仕方ないね。
次回もよろしくお願いいたします。