その後のふたりは
◇
薔薇の花の見事な庭園の四阿の内──
エクセレス様の空色の瞳がひたむきにわたくしを見つめられます。
「エクセレス様、恥ずかしいのですが」
扇で顔を隠そうとすると、
「どんな顔のシナリシアも見ていたいんだ。しかもこんな可愛らしい顔を見せないで扇で隠してしまおうなんてひどいな」
と、おっしゃいます。
「ひどくはございません。見せられるものではございませんわ」
そうお伝え致しましても、エクセレス様は首を横に振り、真剣な眼差しで、
「婚約者の私にだけ見せていてくれればいい。むしろ他には見せないで欲しい」
懇願されます。どうしたものでしょうか。
今まですれ違い、会うこともなかったわたくし達でしたが、今はひたすらエクセレス様がいらっしゃいます。
嬉しい気はしますが、照れくさいです。
今までの埋め合わせだとプレゼントを、そして会いに来てくださいます。
「いいかい? 手を握っても」
わたくしは小さく頷きました。
わたくしの手がエクセレス様の大きな手にそっと大事そうに包まれます。肌の感触。あたたかさを感じ、心臓が早鐘を打ちます。
「シナリシア、もう少し近づいていいかい? ずっとこうしていたかった。こうして、シナリシアに愛を語りたかった。今でも夢ではないかと思うくらいに、不安だ。シナリシア、君はここにこうして私のそばにいてくれるよね? 君はふっといなくならないよね?」
そう言われ、距離が近づいたため、エクセレス様の香りを強く感じてしまいます。
爽やかで大好きな香り──
わたくしはもう片方の手を胸にあて、小さく息を吐き、エクセレス様を見つめました。
「わたくしもお慕いしております。エクセレス様ただおひとりを。いなくなったりは致しません。エクセレス様がわたくしを退けることがない限りは」
物語の強制力はもうなくなっただろうとは思いましても、不興をかうことがないとはいえないでしょう。
──他の誰かを、わたくしではない誰かを愛されたら……
つい、思うことに気づかれたのか、
「信じてもらえるまで、私は君に愛を捧ぐよ。私の心はシナリシアにしか染まらない。シナリシアでなければ駄目なんだ。私を嫌いにならないで」
そうおっしゃい、わたくしをそっと抱き寄せました。
──このまま、ずっとこのままで……
言葉もなくただ寄り添って、あなたの体温と鼓動を感じていたい。
この場所を誰にも譲りたくはないと、そう願う心が止められません。
──いつまでもあなたと共に……
end
評価、ブックマーク、いいね下さった方ありがとうございます。
そして読んでくださった方、ありがとうございます。恋愛恋愛と呟きながらいつだったか書いたお話だったと思います。
少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。
少しだけ最後を変えてみました。