第5話『溢れだす想い』
〇ニ華宅・夕方
パステルカラーが中心となった可愛らしいインテリアでまとめられたお部屋。
窓の外は真冬の寒さと灰色の空が広がっているが、暖房と加湿器で暖まったこの部屋は、ともすれば眠気を誘うような心地よい環境になっている。
眠気に負けず、まなととにかが部屋の真ん中に置かれた机でノートにシャーペンを走らせていた。
「うわー、めっちゃ勉強したね!!」
「お疲れ様。ひとりで勉強するのも飽きてきてたから、まなとを誘ってよかったよ」
「うん、私も息抜きになったし、勉強も進んだからよかった」
手足を伸ばしながら、2人が休憩に入る。
一気に緊張が解けたのか、机の上に用意していたお菓子を食べ始めた。
「そういえば、その筆箱のお守りはなによ?前から持ってたっけ?」
「あー……これ?これねぇ……えーとね……もらっ…た……」
にかが見慣れないお守りがついていることに気付く。
まなとはにかから目線をそらしながら、言い淀むように答えた。
そんな挙動不審な親友を見逃すにかではなかった。
「え!?だれに?のとくん?最近よく話してるじゃん?」
「ちがうちがう!んー、ゆ、雄二先生から……そのね、誕生日プレゼントって」
にかも花の女子高生。
恋バナは大好物なので、一気にテンションが上がってまなとに問いかける。
まなともたどたどしくも白状した。
頬がほんのり赤く染まっているのは、部屋の暖かさからだけではないのは明らかだった。
「まじ!?うん、誕生日プレゼントでお守りはどうかと思うけど……。でも、個別でプレゼントくれるとか、めっちゃいいじゃん!」
「えー……うんまぁ、最初は最悪なイメージだったけど、親身に教えてくれるし、つらいときに支えてくれたし、ちょっと老け顔だけどそれも大人っぽいし……」
親友の恋バナほど美味しいものはない、にかは満面の笑みだ。
まなとは雄二のことを話していると、不思議と柔らかな笑顔になっているのだが、本人だけはそれに気づかなかった。
ふと、部屋のドアから視線を感じて2人が振り向くと、にやにやした顔の女性と視線が合った。
「ふふふふふ……話は聞かせてもらってるわよ」
「えっ!?ちぃちゃん!?」
「お、お姉ちゃん?!」
「私抜きでの恋バナはゆるさん!恋バナの匂いがしたのよ。青くて甘く儚い香りが、ね」
「おねえちゃんの恋バナ魔人はもはや病気よ、もう諦めたわ……」
恋バナ魔人のちぃちゃんこと、二華の姉である和奏 智秋だった。
3つ歳が離れているが、まなとともにかを通じて仲良くしており、3姉妹にも見えるくらいの仲の良さである。
「まなとちゃん!あなたはその雄二先生とやらに恋をしているのよ。間違いないわ」
智秋はまなとをビシッと指さしながら、堂々と宣言した。
「え!?そんなことないって!?だって先生だし、私は同年代のイケメンが好きで…」
「でもまなとちゃん!あなた、この一時間でそのお守りを見ること32回、お守りを手に取って笑みを浮かべること4回、わからない問題が出たときにぼそっと『ゆうじせんせぇ』とつぶやくこと2回」
「えっ……」
「おねえちゃんずっと見てたのね……」
恥ずかしさから抗弁したまなとだったが、智秋の前ではまったく意味を為さなかった。
智秋から告げられた真実は、誰が見ても聞いても、まなとの気持ちを明らかにするには十分だった。
「もうまなとちゃんの頭の中は雄二先生でいっぱいなのよ。意地を張らずに認めちゃいなさい。楽になるわよ」
「……うん、そうだね。たしかにちぃちゃんのいう通りだね。私は雄二先生が好きなんだと思う。でも……でもさ、私が明後日の試験でコレ大に受かったら、すぐに離れ離れになっちゃう……。戻ってこれるかもわからないし、先生もすぐにいい人できるよ……」
まなとも薄々気づいていた自分の気持ちをちゃんと認めた。
認めてしまえば簡単で、すべてすんなりと受け入れられた。
しかし、それとあわせてこれからの境遇を改めて認識し、そう人生は上手くいかないものだとため息をついた。
落ち込んでしまったまなとの手をそっと握り、智秋は目を見つめながら優しく声をかけた。
「たしかにそうね。でもね、まなとちゃん。ちゃんと気持ちを伝えるのは大事よ。抱え込んだままだと、どんどん大きくなって、いつか爆発しちゃうのよ。それに、まなとちゃんみたいに可愛い子に好かれて、嫌な男なんているはずないわ。でもまぁ、最後はまなとちゃんが自分の意志で選択しなさい。誰かのためじゃない、あなた自身の想いのために」
そのあたたかな言葉はまなとの胸にすっとおさまった。
「ちぃちゃん……うん、ありがとう。ちゃんと考えてみる」
「ほんと、真面目にしてればいいおねえちゃんなんだけどな……」
ぼそっとにかがつぶやいた言葉を、智秋の地獄耳は聞き逃さなかった。
ぐるりと振り向いてにかを見る智秋の顔は、満面の笑顔だったが怒っているのが明らかだ。
「にか、何かいった?口の悪い妹には差し入れのケーキはあげませーん」
「待ってうそうそ!食べるからぁ~!!」
泣き真似をしながら姉に抱きつくにかだった。
「……うん、ちゃんと気持ち、伝えよう。このまま卒業なんて嫌だもん」
そんな2人のじゃれあいを見ながら、まなとは小さな決意を自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
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