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第4話『名前がわからない気持ち』

 


 〇教室・放課後



 キーンコーンカーンコーンー……カーンコーンキーンコーン……


 変わることのないチャイムの音。

 時間を区切るこの音は始まりも終わりも平等に鳴り響く。


 生徒たちが音を聞いた瞬間に姿勢を崩したり伸びをしているのを見る限り、今回は授業終わりということなのだろう。


「これで授業を終わります。ちゃんと復習しておくように」


 雄二はそんな生徒を見ながら授業の後片付けを進める。


「あ、ここの問題ちょっとわからないな……」


 まなとが雄二に声をかけようとしたまさにその瞬間。


「せんせ~この問題わからなくて、ちょっと聞きたいんですけど」

「ん?どれだ?あー、これはなぁ……」


 別の女生徒が雄二に質問をして、雄二もその対応に入ってしまった。


「聞きに行きたかったけど仕方ない……。先生は人気者だな……」


 まなとの口から漏れるため息は、質問ができなかったことだけが原因ではないだろう。

 そんなまなとに声をかける1人のイケメン。


「あ、まなと!最近国語の成績爆上げじゃん。俺も負けてられないな!」


 声からだけでもイケメンとわかり、実物もアイドル並みのこのイケメン。

 顔面偏差値だけでなく、勉学でも偏差値トップを逃さない能登 翔太(のと しょうた)だった。


「いやいやいや、能登くんこそ学年ナンバーワンは揺るがないじゃん。あ、この問題なんだけど、能登くんわかる?」

「あーこれな。これはな、ほら、こーして……こーすると……こーなるから……これが……こうだよ!」

「うわ!わかった!すごい!めっちゃわかりやすい!のとくんありがと!」

「いいってことよ。あ、そうだ!まなと、今度数学教えてくれ。苦手なんだよなぁ数学」

「ぜんぜんいいよー!数学はめっちゃ得意だし」


 能登のおかげで雄二に聞くまでもなく問題が解決した。

 年頃のクラスメイトたちは、学年1位2位のやり取りでもあり、ルックスでも男女トップクラスの2人の仲睦まじいやり取りに、もしかしたら何かあるのではないかと興味津々だった。

 まなとからしたら、他愛もないクラスメイトとの会話のつもりだったが。


「さて、まなとはと……」


 質問対応を終えた雄二がまなとを探すと、まなとはそんなおしゃべり真っ最中なのだった。


「……あいつ、質問あるなら俺にしろよな。それにしてもイケメンとしゃべってやがる。やけに楽しそうだな……。ちっ!……なんで俺がいらついてるんだよ……」


 そっと教室を出ながら、普段なら外に漏らさない舌打ちも出てしまった。


「お、雄二じゃん。授業お疲れ様。まさかお前がこの学校に戻ってくるとはな」


 そんな雄二に声をかけるのは、がたいが良い男性教師。

 彼は雄二の学生時代の同級生でもある一宗 達磨(いっそう だるま)

 名前からわかる通りの仏教寺院の跡取り息子だったが、まずは自分の道を見つけるためにと教師人生を始めた雄二の親友だ。


「お、達磨、いや、いまは達磨先生か。そうだな、一緒に通ってた頃が懐かしいな」

「だな!なぁ、今日飲みにいかね?お前が来てから時間取れてなかったし、久しぶりに話そうや」

「いいねぇ。早めに仕事終わらすわ」

「あ、昔あった駄菓子屋覚えてるか?あそこのばあさんが孫に店譲ったんだが、そこがイイ感じのバーになったんだよ。そこで待ち合わせな!」

「お、りょうかい!またあとでな」


 気兼ねの無い友人同士の飲み約束。

 雄二はいらだっていた気持ちはすっかり忘れ、いつも以上に張り切って仕事を終わらせるのだった。






 〇バー”BlueMoon(ブルームーン)” 



 からんからんからん……


 渇いたドアベルの音。

 まさに”バー”というイメージ通りの音が出迎えた先は、同じくステレオタイプの雰囲気のバーだ。

 数席しかないバーカウンター。

 大人の秘密の隠れ家のような雰囲気の良いお店だった。


「いらっしゃい。お、達磨じゃん。いつもありがとう」


 中性的な声のバーテンダーが出迎えてくれる。

 シェイカーを振る仕草も堂々としており、若くは見えるが頼りなさは一切感じない、まさにバーの主といった雰囲気だった。


「おっすおっす。今日は昔馴染みを連れてきたわ」

「はじめまして。高屋雄二だ。昔ここら辺に住んでて、達磨とはまぁ腐れ縁だな」

「来てくれてありがとう。バーテンダーのRei(レイ)だよ。よろしくね」


 お互いに自己紹介をしながら、雄二と達磨は空いているバーカウンターに並んで座った。


「達磨はいつもどおりにバーボンのロックかな。雄二は、そうだな、今日はどんな気分?初来店サービスで、オリジナルカクテル作ってあげるよ」


 レイがいつもやっているサービスだった。

 達磨のときは、意中の女性に振り向いてもらえない、というありきたりなものだった。


「そうだな……。目をかけてた教え子が他のやつにわからない問題を質問してて、なんかもやもやな気分、だな」

「なんと!うん……なんとなくわかったよ。ちょっと待ってて」


 雄二が悩みながら答えた気分を聞いて、レイは少しだけ驚きながらもすぐにカクテル作りへ入った。


 そんな気分を聞いて、放って置けないのは隣の親友である。


「なんだよそれ、詳しく聞かせろ。雄二が個人指導してたべっぴんちゃんのことか?」

「いやな、俺が質問対応してたときに、クラス一のイケメン秀才くんと楽しそうにおしゃべりしてやがっただけだ」

「は?なんでお前がいらついてるんだよ」

「いや、俺にもわけがわからん」


 雄二がまなとを個人指導していることは学校公認のことであり、達磨ももちろん知っている。

 そして、まなとが学年で上から数えたほうが早い美少女だということももちろん知っていた。


 雄二は雄二で自分自身の気持ちの正体はわからず、達磨は達磨でそんな親友の気持ちがわかるほど経験を積んでいるわけではなかった。

 男共は2人して首をかしげるだけだった。


「お待たせ雄二。できたよ。雄二のためのオリジナルカクテル。タイトルは……そうだなぁ……[恋の芽生え~ほのかな嫉妬を添えて~]」


 そんな2人にすっと答えを示したのはレイだった。


「……なんだそのタイトルは?」

「さっきから聞いていたけど、雄二はその女の子に恋をしているんじゃないかな?」

「んなバカな。相手は高校生だぞ」

「恋に年齢は関係ないよ。そのイケメン君に感じていたのは嫉妬だよ。質問を取られたことよりも、イケメン君と話していたことにもやもやしたんでしょ」

「……そんな……ことは……ない!」


 レイはまるで子供に言い聞かせるかのように、優しく説明していく。

 それでも、簡単には納得できないのか、それとも、気づいていないとでも言いたいのか、雄二はまだ認めなかった。


 そんな雄二を見て、子供の駄々みたいで可愛らしいなと思ったレイは、もう一歩踏み込んで”適切な”お節介を焼くのであった。


「強情だなぁ。じゃあさ、雄二。目を閉じて」

「こうか?」

「一番に褒めてあげたい人。一緒にいて一番楽しい人。最近ずっと気にかけてあげてる人。雄二が今思い浮かべた人は、さぁ誰だい?」

「…………」


 もはや雄二に抗弁できる言葉は残っていなかった。


「それが答えだよ、雄二。気づいてしまえば簡単なことさ」

「雄二がまさか年下好みだったとはな。驚いた」


 一仕事終えたとばかりに、レイは満足気だ。

 そうして答えに詰まった雄二をからかわずにはいられない達磨。


「うるさい。年上のお姉様好きはだまってろ」

「峰不二子が理想の女性だ。男の夢だ。うちの学校で言うなら、はるか先生だな」

「まぁ、レイのいう通りかもしれないが、俺とあいつは先生と生徒だ。本気になるわけにもいかん。捕まりたくはないからな……それにあいつは県外の大学へ間違いなく進学するし、卒業までの短い関係さ」


 恥ずかしさを茶化すように話す雄二だったが、その言葉は自分自身に言い聞かせているようだ。

 最後の言葉と一緒に、雄二はグラスのお酒を一気に煽った。

 まるで曖昧な自分の気持ちを一気に飲み干すかのように。


「まぁ、その判断も大人だね。とりあえず、今日は飲んですっきりしちゃおうか」


 雄二はお酒へと逃げるかのようにどんどんと飲んでいく。

 レイも達磨も良い酒の肴ができたとばかりにどんどんとお酒が進む。

 だが、後の2人は本職のバーテンダーとうわばみの大酒飲み。


 数時間後、達磨の肩を借りながらでなければ帰れないほど酔いつぶれた雄二の姿があった。






『んー、こいつは思ったよりも大人すぎてつまらないなぁ……』


『さてさてまなとのほうはどんな感じかな?』   


お読みいただき、ありがとうございます!

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いつも応援ありがとうございます!今後とも何卒よろしくお願いいたします!

出会えた運と素敵な縁に感謝です!!

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