第3話『唐突な個人指導』
『ふむふむ、今日はまなとちゃんの進路面談みたいね』
『担任と一緒に高屋雄二がいるのはなんでなのかしら……』
〇学校・面談室
西日が差し込む放課後。
面談室で向かい合うのは担任の角田とまなと、と雄二。
逆3者面談とでもいう構図だが、これから始まるのはまなとの進路面談。
3年生のまなとにとって、この後受ける大学は自分の人生に直結する大きな選択なのだ。
「まなとさん、志望校は最難関の是々大学から変える気はないのね?」
「……はい。私はどうしてもコレ大に行きたいです。地元を離れてでも、チャレンジしたいんです」
「そう……意思は固いのね。わかったわ。そこまで言うなら応援してあげる」
角田はまなとの変わることのない固い意思を確認して頷いた。
しかし、1つと指を立てると厳し気な声色に変わり話を続ける。
「で・す・が、あなたには決定的な弱点があるわ。それは……国語よ。是々大学の入試問題、国語が一番難しいのは知ってるわね?」
「うぅ……。たしかに、国語以外は偏差値70切ったことないのに、国語だけがどうしても伸びないんです……。いったいどうしたら……」
国語以外は偏差値70以上という天才児まなとの件は、一度横に置いておこう。
そんなまなとでも、国語だけはどうしても苦手だった。
答えが1つじゃないんじゃないか、人それぞれ解釈の余地があるじゃないか、と考えてしまい、答えが1つに定まる理数系科目に比べて、国語が全体的に苦手だったのだ。
そうして頭を抱えるまなとに、角田は優しい声で告げた。
「でも、もう安心して。まさに今日、強力な助っ人が来てくれたんだから!」
「……んで、俺がここに呼ばれたわけ?」
「その通りよ!高屋先生は難関大学合格請負人の異名を持つ先生なのよ!高屋先生、まなとさんへ個人指導をお願いできるかしら?個人指導用に、B棟西教室を押さえておいたわ」
雄二は呼ばれた理由がようやく理解でき、ため息交じりに角田を目をやる。
「え!?いやですよ!人のパンツ見たこんな人に!」
「どうせまなとさんのことだから、朝練遅刻しかけて、パン食わえながら、全力疾走で交差点突っ込んでぶつかったとかでしょ。雄二先生が見てしまったことは不可抗力でしょうに」
「うっ……なんでみんな全部まるっとお見通しなの!?」
絶対に嫌だ!とばかりに食い気味で抗議するまなとだったが、全部まるっとお見通しの角田の前では全く力及ばずだった。
「まぁ、仕事なんだから仕方ないか。俺が請け負ったからには絶対にコレ大に合格してもらうからな。覚悟しておけ」
「えぇぇぇ~そんなぁぁぁ~~」
仕事は仕事と覚悟を決めた雄二と対照的に、覚悟もなにもないまま場の流れで決まったことに納得できないまなと。
彼女の悲痛な叫びが面談室に響き渡ったのであった。
『はーい、みんな大好き!てんちゃんだよ!』
『さてさて、唐突に始まった個人指導。2人の仲は果たして進展するのか』
『でもさ……ずっと見てるの……めんどくさいよねw』
『ということで!全部飛ばしちゃおう!』
『個人指導最終日まで、キ〇グ・クリ〇ゾン!』
〇学校・B棟西教室
個人指導開始から1ヶ月が経った。今日が最後の個人指導日。
通常授業の終わりに定期的に差し込まれた個人指導は、苦手分野だけあって苦痛なものだったが、まなとはなんとか食らいついていった。
泣き言ばかりかと思いきや、どんどんと難易度を上げても必死に追いついてくるまなとを見て、雄二はまなとのことを見誤っていたと心の中で反省したのだった。
「今日で個人指導は終わりだ。成績も伸びたし、本当によく頑張った。厳しくやったのに、よく最後まで食らいついてきたな。……って、食らいつきながら全力疾走するのは得意なんだったなw」
「最後のは余計なお世話!でも、本当にありがとうございました。国語の成績がここまで伸びるなんて思ってなかったし、合格ラインを越えられてよかった」
からかうように言う雄二に、まなとの頬がほの赤く染まったのは決して西日のせいだけではなかった。
雄二が最初に用意したプログラム以上に量・質ともに取り組み、ちゃんと結果につなげることができた。
それがまなとにとっては大きな自信になり、一緒の時間を過ごすうちに雄二への悪印象もなくなり、それ以上の信頼感に変わっていったのだった。
「なぁ、今日は1月12日だよな。ほら、これやるよ」
雄二はおもむろに胸ポケットから取り出したものを渡した。
「え?なにこれ?……お守り?」
「今日はまなとの誕生日、だろ?ほら、まぁ、誕生日プレゼントってやつだ。有難く受け取れ!」
「え、誕生日覚えててくれたんだ!めっちゃ嬉しい…ありがとう先生!」
思わぬプレゼントに思わず声が高くなったまなと。
もらったお守りをすぐさま筆箱にくくり付けた。
それを見た雄二も嬉しさで笑みを浮かべたが、まなとの次の言葉でかき消えた。
「でもさ……誕プレでさ……お守りは……ないわぁw」
「はぁ!?なにを!?お前、いらないなら返せ!」
「やだよーだ。一回もらったものは返しませーん。じゃあね!先生バイバイ!」
「おい!廊下は走るな!!……ったくもう。」
からかうだけからかって、まなとは教室から駆けだしていった。
からかわれた恥ずかしさもあったが、駆けだしていくまなとを見る雄二の目はいつにもなく優しい眼差しであった。
『さてさてさーて、まさに2人の距離が縮まるイベントでしたね!』
『ここで2人の今の心の声を聞いてみましょう!まずはまなとちゃん!』
「ねぇ待って嬉しすぎた。先生渡すときめっちゃ照れてたんだけど!超可愛いぃ!親身に教えてくれたしわかりやすかったしよく見ればかっこいいし。……あれなんか顔熱いな……風邪でもひいたかな。試験前なのにやだなぁ……」
『まなとちゃん、それは恋よ!恋の芽生えよ!若いっていいわねぇ……』
『んで、男の方は?』
「プレゼントでお守りはないのか……。うん、今度選ぶ時は誰かにちゃんと聞こ。でも、喜んでくれてよかったな。ハチャメチャな奴かと思ったら、ちゃんと勉強頑張るし、根性あったし。……まぁ可愛いしな」
『え……なにこいつ。プレゼント選ぶセンスが壊滅なのにくわえて鈍感キャラとか、ないわぁ……』
『でも、まなとちゃんのお相手さんだから殴るの我慢我慢』
『さて、これから2人はどうなるのでしょうか?……後半へ続く!』
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