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②-第2話『突然の打診、袋小路の悩み』

※世界線②「奇跡を待つより捨て身の努力」です※

 


 〇職員室・放課後



「せーんせっ、お疲れ様です」

「おぅ、おつかれさん」


 まなとが雄二を見つけて声をかけた。

 時が経つのは早いもので、もう教育実習の最終日だ。

 2週間という期間はあっという間だったが、人を成長させるには充分な時間だった。

 教育実習初日の不安げな顔はどこへやら。

 ちゃんと先生として通じるくらい自信がしっかりとついたまなとの姿がそこにはあった。


「見て見て!じゃーん!寄せ書きもらっちゃった!いいでしょ〜」


 まなとはそう言って雄二に色紙2枚を見せた。

 1枚で足らずに2枚になり、その2枚目もすき間なく文字で埋め尽くされている。


「おお!すごいな!びっしり埋まってるじゃないか。だが、俺は毎日会う生徒だからな。特別羨ましくもないぞ」

「えーつまんない」


 そんな雄二の反応が面白くないとばかりに口をとがらせる。


「……もう2週間か」

「んね、はやかった〜」

「もう数ヶ月後にはまなとも先生か」

「そーだよ、しかも苦手だった国語の」

「おまえ、大丈夫なのか?」

「え、もしかしてバカにしてる?私がどんだけ大学で勉強したか知らないでしょ〜」

「まぁ、そうだな。まなとなら大丈夫だよ」


 雄二はこの2週間を思い出すようにつぶやいた。

 大きなトラブルもなく、教育実習でも優等生だったまなと。

 選択した教科が国語だったことは驚いたが、苦手意識があった学生時代と違って、ちゃんと教えるレベル以上に習熟していた。

 からかうような口調になってしまったが、まなとが自分で言ったように、どれだけ頑張ってきたかなんて雄二はちゃんとわかっていたのだった。


「あ、高屋先生。ここにいたのか。少し、時間いいかな」

「ん?校長先生。はい、なにかありました?」


 そんな会話をしていたら、織田から声をかけられた。


「ちょっとな、話があるんだ、校長室まできてほしい」

「わかりました。小野、やること片したら、早めに帰れよ」

「はい、お疲れ様でした」


 そう言うと、織田は先に校長室へと向けて歩き出す。

 雄二はまなとへ簡単に指示を出すと、その後姿を追った。

 デスクには、雄二の後姿をみつめるまなとだけが残るのだった。






 〇校長室


 少し軋む扉をあけて、織田と雄二は校長室へと入った。

 入ってすぐのところにあるソファに向かい合わせで座ると、織田はきまりが悪そうな表情で切り出した。


「タイミング悪かったかな」

「いえ、大丈夫ですよ。それで、話って?」


 そんな気遣いは無用だとばかりに、本題を促す雄二。

 雄二は何度も校長室へ来ているわけではなく、呼び出されたからからには何か理由があるのだろうと思っていた。

 しかし、校長から話されたその理由は雄二の予想をはるかに超えていた。


「高屋先生に異動の話が来ててな。私の知り合いがやってる進学校なんだが、国語教員の空きがでてな。高屋先生の指導力を見込んで、教科主任のポストで迎えたいとのことだ。まぁ出世ってやつだな、

「異動、ですか……」

「どうだ?受けてくれないか?」


 織田はそうして理由を雄二へと告げ、雄二をじっと見つめていた。

 織田としても今後押し進めていく学校改革に雄二の力をアテにしていたのだが、雄二の栄転の話ということもありきちんと話し合いたいと思っていたのだった。


「場所はどちらなんですか?」


 いきなりのことで少し戸惑ってしまった雄二だったが、一番大事なことを思い出して織田へ尋ねた。


燦々(さんさん)県だ。流石にここから遠いからな、君の意思を聞きたかったんだ」

「燦々県ですか……」


 燦々県は、いま雄二たちがいる県からは隣県ではあるが、車で2時間ほどの距離だ。

 飛行機が必要な距離ではないが、是々県から通うには流石に遠すぎる


 雄二の心に真っ先に浮かんだのは、もちろんまなとのこと。

 地元で働きたいと希望しているまなとと、また離れ離れになってしまうのは必死だ。

 こうして再会できたこと自体が奇跡なのだ、もう一度は望めまい。


「……少し考えさせてもらってもいいですか?」

「もちろんだ、まだ時間はある。ゆっくり考えてもらって構わないよ。いい返事を待っている」


 すぐには結論をだせそうになかった雄二は、時間がほしいと織田に伝え、一礼してから校長室を後にした。






 〇廊下



「はぁ……異動か……よりによってこのタイミングで」


 とぼとぼと廊下を歩く雄二。

 窓から流れ込んでくる風は外がまだ暑いことを伝えてくるが、今の雄二にはそんなことを気付く余裕は少しもなかった。

 ぐるぐるぐるぐると、まなとのことと織田の言葉と自分の人生のことが、ループして頭を駆けまわっていた。


「いどう?なんの話?」


 そんなとき、ふと声をかけられた。

 同僚教師である、井小萩 葉琉香(いこはぎ はるか)だ。

 グラマラスな女性教師で、生徒だけでなく先生からも熱い視線を向けられることが多い。

 同じ国語教師ということもあり、雄二は葉琉香と話す機会も多いが、そのせいで雄二が嫉妬を喰らったことは一度二度のことではなかった。


「あ、はるか先生。いやね、僕に異動の話がきてるらしくて。校長からどうだーって」

「ふーん、異動ねぇ」


 葉琉香に校長からの話を相談する雄二。

 葉琉香は普段から雄二の相談相手になることが多かったのだ。

 歳の差はほんの少しなのだが、葉琉香のお姉さん気質もあって、雄二はお悩み解決の先生的な存在になっていた。


 葉琉香は異動のことだとわかると、あごに手をあてながら雄二へ爆弾を落とす。


「いいの?異動しちゃっても?また小野先生と離れ離れになっちゃうじゃないの」

「えっ!?」

「だって、あなたあの子のこと好きなんでしょ。バレバレだよ」

「まじっすか……そんな分かりやすかったですか?」


 葉琉香には雄二が何で悩んでいるかなんて一目瞭然だった。


「それはそれは分かりやすくて、見てるこっちは楽しませてもらいましたよ。あなたの目線の先には必ずと言っていいほどに彼女がいて、この2週間、私が見たことないくらいの笑顔で、楽しそうにしてたんだから。ちょっと嫉妬しちゃうなぁ〜」

「そんなにですか……。恥ずかしいっすね」


 この2週間の雄二の姿を思い出して、思わず笑って笑ってしまう葉琉香。

 そんなことになっていたとはまったく気づかず、恥ずかしさから頭をかく雄二だった。


「個人的には、新しいチャレンジですし、異動の話を受けたいんですが、また離れてしまうって考えるとどうしても踏ん切りがつかなくて……校長からはゆっくり考えてもいいって言ってもらったけど、やっぱりどれだけ考えても答えが出ない気がするんですよね……」


 もうすべてわかっているなら、と雄二が自分の想いを口にする。

 話しているうちに、自分が何に悩んでいるのか整理されてきた気がした。

 だが、整理はできても、どうしたら良いのかの結論までは出なかった。


「校長先生から時間貰ってるならギリギリまで考えなさいな。行くにしろ、行かないにしろ、中途半端はよくないもの」

「……ですね、ありがとうございます」


 そんな雄二を見て、葉琉香は優しく声をかけてアドバイスをした。

 文字を読んだら当たり前のように聞こえるかもしれないが、人からちゃんと言葉でアドバイスをもらうと、考えがすっと落ち着いて冷静になれるものだ。


 雄二は少し晴れた顔で葉琉香にお礼を伝え、職員室へと歩き出した。

 その歩き方からは、校長室を出たときのとぼとぼ感は感じられず、前を向いて進んでいこうという意思が伝わってきた。


 葉琉香はそんな雄二の後姿を少し複雑な表情で見つめながら見送りつつ、このあとの自分の動き方について頭を巡らせるのであった。




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