①-第2話『親友への感謝、運命の歯車』
※世界線①「奇跡も魔法もあるんだよ」です※
〇居酒屋
がやがやとした店内。
しゃべり声と笑い声が入り混じった独特の雰囲気。
アルコールとそれにとても合う料理・おつまみの匂い。
居酒屋とはかくあるべきだといったような、そんな居酒屋にて。
ゴクゴクゴクっと喉を鳴らしながらビールを流し込む達磨。
一口で1リットルは飲んでるんじゃないかという、すがすがしい飲みっぷりだ。
「ぷはぁー!どうだ、俺の英断に感謝しろ、雄二」
がちゃんと何杯目かわからないジョッキをテーブルに戻しながら、これでもかというドヤ顔で雄二に言う。
「ああ、達磨、お前が神だったのか」
「ああ、俺が神だ。暇は持て余してないがな。まぁ、一言言わせてもらうなら『計画通り』」
「それは新世界のほうだろうが」
「じゃあ、『全ては達磨のシナリオ通りに』」
「どこの新世紀のモノリスおじさんだよ」
アラサー男子が2人集まって酒を飲めば、ジェネレーションがばれるような軽口が気持ちがいいものなのだ。
「まぁ、ネタはここまでにして……。よかったじゃねーか。例のあの子が戻ってきたんだから。ずっとあの子のことが忘れられずに、彼女一人作らず、超絶グラマラス美女にアプローチされてもなびかず、一途だねぇ」
「くっそ、何でもお見通しだなこの野郎」
「そりゃそうだ、お前が酔い潰れるたびに、あの子の話を聞かされる俺の身にもなってみろってんだ」
雄二は絡み酒に語り酒なのだった。
達磨はもちろんうわばみなので一切酔わない。
介抱するのはいつも達磨だ。
「どうせお前のことだ、あの手紙、今も持ってるんだろ」
「……まぁ、ずっと忘れられなかったのは事実だしな」
雄二はカバンの中から、3年経ったとは思えないくらいに綺麗に保管されている手紙をそっと取り出した。
「うっわ!ほんとに持ってるよ!」
「うっさい。まぁ、この気持ちのままで、今もいてくれてるかはわからんがな……」
「女の心と秋の空、ってな」
「お前、そこは安心させる言葉をかけるべきだろ」
しんみりとしてしまった空気を変えたいかのように、雄二をからかう達磨。
雄二も酒が入っているのか、少しネガティブから抜けられていないようだ。
「まぁ、別れ際の手紙とはいえ、まなとちゃんは気持ちを伝えてくれたんだ。今がどうであろうと、次はお前の番だろ、雄二」
「……あぁ、わかってるよ、教育実習は2週間だけだ。どうなるかはわからんが、最後にきちんと気持ちを伝えるさ。俺はまなとが好きだ、ってな」
そんな雄二の背中をぐいっと押す。
達磨のぶっきらぼうな言葉の一つ一つが雄二を鼓舞していく。
雄二もそれをちゃんと受け止め、後悔しないように動くことを決心するのであった。
〇学校外・帰り道
キーンコーンカーンコーンー……カーンコーンキーンコーン……
「まなとせんせ~!さよなら~」
「はい、さようなら。気を付けて帰るのよ」
まなとは下校する生徒に手を振りながら見送った。
「ふぅ、この授業で教育実習もおしまいかぁ……2週間なんてあっという間」
教育実習の2週間も最終日、長いようで短い14日間でまなとは担当クラスの生徒との距離をしっかりと縮めて、満点に近い形で実習を終えようとしていた。
「でも、先生とまた一緒の時間が過ごせて本当に幸せだったなぁ。相変わらず教え方上手いし、親身にしてくれるし、なんか昔よりかっこいいし……。って、私ばっかりどきどきしてる気がするんだけどもう!」
独り言を聞かれていないか、焦って周りを見渡すまなと。
誰もいないことに安心して一つ息をつくと、駅への帰り道をゆっくりと歩きだした。
「明日でほんとに終わりなんだよね……。教育実習が忙しくて、先生とほとんど話せてないし、このままお別れはいやだなぁ。……うん、このまえは手紙だったけど、今回は直接想いを伝える、決めた」
まなとは一大決心をかためて、ぎゅっと拳を握った。
その人のことをずっと考えていたからだろう。
視線の端に、想い人の姿をとらえてしまったのは。
「……ん?あれは、、、先生?なんで女性もののアクセサリーショップなんかに……」
駅へと歩く道中にあるアクセサリーショップ。
もちろん女性向けのお店で、男1人で行くことははばかられる雰囲気のお店。
そんなお店に、彼はいたのだ。
「……あ、これなんてどうですか?」
「雄二先生……ほんっとにセンスないですね!それは絶対にないです!」
「え、まじっすか……困ったなぁ」
そう。
彼と。
はるか先生が。
「え……。隣にいるのははるか先生!?なんで2人が一緒にアクセサリーショップに……え、なんで?」
目の前が真っ暗になる、というのはこのことなのだろう。
突然の出来事、予想外の状況に、まなとの頭はパンク寸前だった。
身体も思うように動かないのだが、フリーズしてても目と耳はとてもよく働いてしまった。
その光景と2人の会話は、遠くからでも鮮明にまなとに届いてしまった。
「あ、これなんてどうですか?」
「おお!たしかに!絶対似合うこれ。選んでもらってよかった」
「……アクセを2人で選ぶ、なんて、お付き合いしてるに決まってるじゃん。そりゃそうだよね、先生優しいしかっこいいもん。すぐ彼女できるに決まってるじゃん」
ぐるぐると混乱している思考をなんとか動かす。
この場に居続けることは、もう無理だ。
それこそ、自分自身が壊れてしまう。
「はるか先生、美人だしスタイルいいし……お似合いだよね、私よりもよっぽど。
大きな息を1つついて、何とか身体を動かす。
なるべく自然に。
不自然がないように。
通行人の1人として、人ごみに紛れるように。
「……帰ろ。明日で終わりなんだもん、最後は笑顔で先生とお別れしよう。がんばって……笑顔で……」
まなとは俯きたい気持ちを必死で押さえながら、前を向いて歩いて行った。
〇アクセサリーショップ
「いやぁ、はるか先生。本当にありがとうございました」
会計と包装を待ちながら、雄二ははるかへと振り返って晴れ晴れと御礼を告げる。
「俺、ほんとにプレゼントのセンスが壊滅的だって言われてまして……。はるか先生のおかげで良いの選べました」
プレゼントにお守りはない、という言葉は雄二の心にぐさっと刺さり続けていたのである。
「それならよかったわ。ほんと、持ってくるもの持ってくるもの、全部ひどすぎたから……。雄二先生、絶対にプレゼントは誰かに選んでもらいなさい」
雄二のセンスのひどさをひとしきり笑いきっていたはるかは、なんとか良いプレゼントを選んであげられたことにほっと安心した。
そして、からかうように雄二に自然に本心を伝えるのであった。
「まぁ、今後はまなと先生と一緒に選びなさいな」
一瞬キョトンとした顔の雄二。
すぐに慌てたように言葉を続けた。
「え、まなと先生って、何のことです……?これは妹へのもので……」
「はぁ?わからないがわけないでしょう。妹さんへのプレゼントとかバレバレの嘘。あの子が帰ってきてからのあなたの変わり様ったら、逆に面白かったわよ」
はたして雄二に妹はいるのかどうか、そんなことを考えるまでもなくバレバレなのである。
はるかは思い出し笑いをしながら、答え合わせをするように雄二に彼自身の変化を話す。
「まずもってあなたの笑顔が増えたし、目でずっとあの子のこと追ってたし、明日で教育実習が終わりの今日に、一緒にプレゼントを選んでくれなんて、渡す相手は1人しかいないじゃないの。ったくもう」
「ははは……全部お見通しでしたか。明日で最後なんでね、ちゃんと気持ちを伝えてこようかと」
「それがいいわ。伝えられるときに伝えたほうがいいわ。できるだけ早くね」
ぐうの音もでないほどの証拠を突き付けられた雄二は、抗弁も無駄だとあっさりと認める。
気持ちを伝えるという言葉とともに、包装が終わった手の中のプレゼントを愛おし気に見つめた。
そんな姿を見たはるかは、雄二に気づかれないように深くため息をついた。
(……私の入り込むすき間が無さ過ぎて、勝てる気がしないわよまったく……)
そんなはるかの物憂げな表情に、雄二はまったくもって気づかないのであった。
そんな、平和な風景。
明日になれば、全てが丸く収まったであろう。
明日になれば、勘違いもすぐに解けて、望み通りの結果になったのだろう。
……明日になれば。
運命の歯車は、それを許さなかった。
それに一番に気づいたのは、はるかだった。
「って……あの男の子、急に飛び出してきて……あぶない!!」
ショップから出た二人の目前に広がっていた光景。
道路に飛んでった帽子を取りに行こうとかけだす男児。
もちろんそこは横断歩道でも何でもない、ただの道路。
であれば、急には止まれないものが行き交っているのは当然だ。
急ブレーキの音が鳴り響きながらも、その音は目前まで迫ってくる。
「なに!?ばかやろう!!!!」
誰もが突然の状況にフリーズしていた。
そんな中、考える間もなく動き出したのは1人の男性。
そう、雄二なのだった。
甲高い急ブレーキとクラクションの音。
腹に響く重く低い、”何か”と”何か”がぶつかる音。
そして、”人”が道路を転がっていく音。
「え……先生!先生!!しっかりして!!!雄二先生!!!!」
はるかの悲痛な叫びは、あまりのことに無音になったその現場に、不自然なほど響いたのであった。
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