第三話 ‐ ヘンタイの決意
「……!………!………!」
「千秋クン!」
大声で目を覚ます。
僕…寝ちゃって…って、あれ?ここ…
「やっと起きたの~?神様の前で失礼じゃない?不敬だよ不敬」
徐々に意識が覚醒する。目の前にいたのは――――。
「あああああああああああ!!!!!!!!!!パンツ野郎!!!!!!!!」
パンツ一枚で転生させやがった神様じゃないか!!!!
「パンツ野郎?!!!?!?!」
「パンツ一枚で転生させやがったせいでこっちがどれだけ苦労したかわかってるんですか?!」
「わ、悪かったとは思ってるよ~。でもさ、そのパンツも悪いもんじゃないんだよ~?」
は?パンツが…?
「ハッ」
鼻で笑う。何を言っているんだコイツは
「うわ。今馬鹿にしたでしょ!」
「そりゃそうでしょ!パンツ一枚で何がどうなるって言うんですか!」
「そのパンツの真の力を知っても同じことが言えるかな…?」
神様がニヤリと笑みを浮かべる。まさか、本当は凄い力が…?
「そのパンツはね…」
溜めるなぁ…
「………」
長いな!
「一日30分まで女体化することができるのさ!!!!!」
・
・
・
「え?何この沈黙。ここ感動する流れじゃない?」
「アホかーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
僕、キレた!
「女体化してどないすんねん!!!!!!なんの役にも立たんやんけ!!!」
「怖ッ。急に関西弁にならないでよ…」
若干引いている。僕が悪いのか?
「いやいや役に立つかもしれないじゃん!あ、そうだ!」
そう言うと神様はおもむろに背中に手を回して…。
「なんすかコレ」
神様が僕に見せたのは―――――。
「パッドだけど」
「なんでだよ!!!!!!!!!!!!!!」
僕は項垂れる。なんでこんなのばっかなんだよ…。もっと役に立つものをくれよ…。
「いやいや女装するなら必須でしょ!」
「なんで僕がずっと女装する前提なんですか!!!!必要なくなったらやめますよ!!!!!」
僕をおちょくって遊んでるのか?
「いや~神様たるものちゃんと手助けしないといけないからね!」
神様は胸を張っていいことしたと言わんばかりのドヤ顔だ。殴っていい?
「それならもっと役に立つ能力とかくださいよ!パンツとパッドっておかしいでしょ!」
「ん?あれ?もう時間?ごめんね!次の人の番だから…」
「人の話を聞け!!」
「じゃあね~いってらっしゃ~い」
「あああああああああああ!!!!!!!またこの流れかよおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「……秋…………千秋!!」
驚いて目が覚める!また?!
「はっ…ここは…」
寝ぼけた顔で周りを見る。
「着いたわよ?早く降りなさいよ」
「えっ…ああ…」
着いた。つまり彼女の家まで来たって事か。
僕はどれくらい寝てたんだろう。
てか変な夢を見てたような…。
「……………!?」
思い出した!あの神様…は夢?
そりゃそうだよな…きっと疲れてたんだ…。
安心した僕は車から降りようとする。
その時、胸の辺りに違和感を覚えた。
嫌な予感がする。軽く胸を触る。そこには―――――。
「胸が…ある…」
「!!!!!!!!!!!!!!!」
胸がある!!!!!!やっぱりあれは現実だったのか?!
チクショウ!あの神様余計な事しかしないじゃないか!!!!!
軽く絶望していると、麗華から声がかかる。
「ちょっと…何してるんですの?遅いわよ?」
そこにはジト目でこちらを見る麗華の姿。
「ハハ…ハハハ…何でも無いです…」
若干涙目だ。僕はどこまで辱めを受ければいいんだ。
車から出た僕を待ち受けていたのは。
「………へ?」
目の前の建物は――――――。
「お城…?」
簡単に言えばお城、だった。
「えぇ…」
いや、ですわとか言ってるし…。高い車で送迎されてるし…。
なんかメイドいたしお金持ちなんだろうなとは思ってたけど…。
城じゃん。これ、夢の国にあるようなやつじゃん。
なんかもう、自分の常識で考えるの、やめようかな…。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「いやあ、よく来てくれた!座ってくれたまえ!」
目の前にいる豪気な人はどうやら麗華のお父さん…らしい。
とりあえず、メイドさんが引いてくれた席へ座る。
麗華を助けてくれたお礼、ということで僕は夕食へ招待されていた。
だが、席に座ってい居るのは僕と、麗華と、お父さんだけだ。
他に家族はいないのかな…。
「キミが麗華を助けてくれた千秋ちゃんだな?この度はありがとう、君には感謝している…!」
お父さんは深々と頭を下げる。驚いた。
偉い立場にいる人間はあまり頭を下げないものだと思っていたから。
「い、いえいえ!当然のことをしたまでですよ!頭を上げてください!」
慌てて椅子から立ち上がる。
「一つ間違ってたら、娘の命は無かった可能性もある。感謝してるんだよ」
こちらへ慈愛の満ちた表情を向ける。
そうだよな…一歩間違ってたら…。
「そうだ。自己紹介が遅れたな。私の名前は鷺月茂雄だよろしく頼む」
「あ…私は天川千秋って言います…!」
遅れて自己紹介をする。
自己紹介を終えて、ずっと黙っていた麗華が口を開く。
「…お父様」
「…ん?なんだね」
「千秋を私のお付きのメイドにしますわ」
うんうん、僕をお付きのメイドに…。
「エッ?!」
いやいやいやいや、僕男なんですけど。メイド服だけど。
え?いやありえないよね。こんな身元の知れない怪しい人間を…。
お父さん!認めないよね?!流石に!
「千秋、アナタ私のメイドになりなさい」
「……ふむ。いいだろう」
認めちゃったーーーーーー!!!!!
「エエッ?!」
「何よ、千秋アンタまさか嫌なの?」
睨まれる。怖いです。
「いや…そういうわけじゃ…」
問題があるんですよ!性別っていう!言えないけど!
言ったら絶対殺される!
「何でよ?アナタ帰る場所無いんでしょ?私のメイドなんて破格の待遇よ?何が不満なの?」
「あ―――――」
家出?みたいなものというか…なんというか帰る家がないというか…
あの時の言葉……彼女は、多分私の事を何か深い事情のある子なんだと思って……。
あの時から、彼女は僕をメイドにするつもりで―――――?
その優しさに、思わず涙が出そうになった。
最高の条件だ。ただし、僕が男じゃなければ。
罪悪感。僕はこんなにいい子を騙してるのか……。
今すぐ打ち明けたい。だけど、打ち明けるわけにはいかない。
心の内で葛藤する。
「別に、嫌ならいいの。無理を言ってごめんなさい」
「―――――あっ……」
麗華はそれだけ言うと、部屋から出て行った。
出で行く直前に少しだけ見えた彼女の表情は、なんだか悲しそうだった。
「悪いね。娘はいつも我がままなんだ」
「我がままなんて、そんな」
むしろ我がままなのは僕だ。
人を裏切って、悲しませて…。
「まあ、今すぐに決める必要はない。今日一晩泊っていきなさい。部屋も用意してある。」
「はい…」
事情があると察してくれたのか、僕を気を使ってくれる。
だけど僕は…上の空だった……。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「最悪だな…僕……」
僕は貸してくれた部屋に入り、すぐにベッドへと倒れこんだ。
考えてると、どんどん落ち込んでいく…。
ベッドでボーッとしていると、不意にドアがノックされる。
「…はい?」
誰だろう。
「失礼します。旦那様がお呼びです」
「…?わかりました」
何の用だろう。麗華の事かな…。
だとしたら気が進まない。そんなことを考えてるうちに部屋へたどり着く。
「旦那様。天川様をお連れいたしました」
「ご苦労。入ってくれたまえ」
メイドさんがドアを開けてくれる。入っていいのかな。
「どうした?入ってくれたまえ」
「あ、はい」
「それでは失礼いたします。」
メイドさんがドアを閉める。
実内に二人きり…き、気まずい…!
こっちから声をかけた方がいいのかな。声をかけられるの待ってほうがいいのかな…。
「ふ…ふふ…」
不意に、旦那様が笑いだす。
「いや、夜分遅くに悪いね」
「いえ…それで用とは…?」
旦那様は一つ咳払いをした後、話し始めた。
「麗華の事だよ」
そうだよね…。やっぱり、はっきり断ったほうがいいかな…。
「メイドの件…」
旦那様の声を遮る。
曖昧な返事はやめよう。はっきりと返事を――――。
「私の妻はね、麗華が幼い頃に他界しているんだ」
「――――――――ッ」
夕食の場に母親はいなかった。やっぱり、そういう事だったのか…。
「なぜ…その話を私に…?」
旦那様は後ろを向いていて、表情を窺い知ることはできない。
「帰ってきてからね…麗華が、君の事を楽しそうに話していてね…」
「驚いたよ。麗華は…妻がなくなってから、あまり笑わなくなった」
「……」
そう、だったんだ…。
「だけどね、助けてくれた人が凄かったと…話しているあの子の目はとても活き活きしててね」
「あの子がキミのことをどう見えているのかはわからない。きっとあの子にしかわからないだろう」
「だけど、あの子がいい方向に向かってくれるなら…私は…協力を惜しまない」
「だからもし、君があの子の事を想うのなら。少しでいい、あの子の助けになってあげてくれないか?」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
僕は、何も言えなかった。
―――――あの子はあまり笑わなくなった
その言葉が心に深く突き刺さっていた。
―――――私のメイドになりなさい
どんな気持ちで言ったのかはわからない。
だけど、僕は男だ…。
そう簡単には…。
その時、バルコニーに麗華の姿を見つけた。
僕は吸い込まれるようにして近づいていた。
「…誰?」
「千秋です」
「千秋…」
麗華は無表情だ。
お互いに喋らない。
なんだかその沈黙が気持ち悪くて僕は麗華へ聞きたかったことを聞いてみた。
「麗華は…どうして私をメイドに?」
「あなたが私を助けてくれたあの瞬間に世界が…変わった気がしたから」
「世界が…?」
「お母様がいなくなって…」
「モノクロになった世界に…色が付いたような…そんな気分だったから」
「――――――」
この子は。
一体どこを見ているのだろう。
キミのその美しい黄金の瞳は、どこを向いている?
見惚れていた。
その美しい横顔に。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
その後、二言三言言葉を交わして僕たちは解散した。
僕はベッドに潜ってずっと考え事をしていた。
――――モノクロになった世界に…色が付いたような…そんな気分だったから
頭の中をずっとその言葉がリフレインしていた。
彼女を一人にしてはいけない。
なぜかそんな気がして。
―――――――私のメイドになりなさい
決めた。
僕は彼女の為なら、女装でもなんでもやってやる――――――ー!!