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これ、僕が知ってる異世界転生と違うんですけど!  作者: 千鶴
第一章 良い事してもヘンタイはヘンタイ
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第一話 ‐ ヘンタイと少女

「ここは……」


目を覚ますと、そこは森の中だった。

体を起こして周りを見渡してみる。

見渡す限りの緑。

背の高い木が生えており、雑草が生い茂っている。


「もしかして…夢…?」

なんだ、やっぱり夢だったのか?

そうだよな、仮にも神様があんな適当な性格してるわけ…。


その時、手元に違和感を覚える。

何か握ってる…?おそるおそる手元を見る。

そこにはピンク色で、レース付きのフリフリとした可愛いパンツが握られていた。



「うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!やっぱ現実じゃん!!!!!!」


周りに誰もいないのをいいことに大声で叫ぶ!


「やっぱパンツ一枚持って転生しちゃったの?!嘘でしょおおおおおおお?!」


あのクソ神様!やりやがったな!許さねえ!!


「いやいやいや待て待て…異世界転生だぞ?本当にパンツ一枚なんてあるわけ…」


冷静になれ…流石に…ないよな?

いい得も知れない悪寒を感じながらも考える。

こういうとき…大抵はステータスオープンとか言ったら出てきちゃう奴じゃない?


「ス、ステータスオープン」


しかし なにも おこらなかった!


「…」

わかってた、わかってたとも。そんな都合のいいことないってね!

くっ…!でもステータスが見れない世界ってだけで潜在能力が凄いとかあるかもしれないし…。

魔法とか…使えたりするのかな…。


バッ!っと手を前に出してみる。ファイヤーとか言えばいいのか?


「ファイヤー!」


しかし なにも おこらなかった!


「…」


え?マジで何もないの?

まさか…


僕は仰向きに倒れた。


「マジか…」

放心。一体どれくらいそうしていたのかわからない。


「あれ?でも」

よくよく考えてみればチート能力はないが…。

実際僕は前の人生で死んだわけだ。異世界とはいえ、また人生を送れる。

とても素晴らしいことじゃないか。気持ちが前向きになってきた。


「よしっ…!」

顔を叩いて気合を入れ直す。そういえば前もこんなことあったな…。

とりあえず握ってたパンツはポケットに入れる。

「まずは情報取集…といいたいところだけど」

ここ、どこだ?出口がどっちかわからない。

ま、いいか。とりあえず適当に歩いてればどっかに出るでしょ。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



数分後、思っていたよりも早く森を抜けることだできた。

「うわ…!」

森から抜けて見えた景色は―――。

「凄い…これ…学校?」


目の前の建物はとても荘厳で美しかった。

年式を感じさせながらもまったく古臭さを感じさせないデザイン。

語彙力が足りないせいか、これ以上の言葉は出なかった。


建物ばかりに気を取られていたが、よく見ると体育館らしき場所や、テニスコートなども確認できる。

こんなすごい建物が学校だなんて、やはりここはファンタジーな世界なのだろうか…。

そんなことを考えながら後ろを振り返る。

どうやら森だと思っていたのは、敷地内にある雑木林だったみたいだ。

傍には「危険、入るな」という立札がある。

スポーン地点がおかしいだろ…。


しかし異世界転生したという事は、当面の生活費は自分で稼がないといけないだろう。

宿屋などの宿泊場所も探さなければ。

とりあえず、誰かに話を聞こう。

闇雲に探すよりも誰かに聞いた方が手っ取り早い。

異世界で食い扶持を稼ぐとなると…まずはギルドだな。


…お?都合よくこちらへ歩いてくる人影がふたつ!学生服らしきものを着ているし、恐らくここの学生さんだろう。

よし、声をかけてギルドの場所を聞いてみよう。


「あのー…すいません」

「はい?どうかされましたか?」

「聞きたいことが―――――?!」


その時、気づく。

僕は………メイド服を着たままじゃないか!!!!


冷や汗が流れる。

学園に侵入した女装の男!しかもメイド服!

これはまずい!どう言い訳しても助かる未来が見えない!


「あ…ああの…うぇひひ…」

挙動不審の女装したヘンタイが制服の女学生に声をかける図!怪しさ100満点!

社会的な死を想像して挙動不審になる。


「…?大丈夫ですか?どこか痛いとか?」

心配そうな顔で僕の顔を見つめる二人。

「ふひ………へ?」

あ、あれ?バレてない?


「あ、あのそのぅ…ギルドの場所ってわかります?」

恐る恐る質問を投げる。

「ギ、ギルド?」

女学生はお互いに目を見合わせる。どちらも知らないといった様子だ。

「あ、いや知らないならいいんですそれじゃあありがとうございますそれでは!」

脱兎のごとくその場から逃げる!

危ない危ない…今回はバレなかったからよかったけどもしバレてたらどうなってたか…。


少し走ったところで足を止める。このメイド服ヒラヒラで走りにくい…!

お…?いい所にベンチが!座って休憩しよう…。


「よっこらしょ…っと」

ベンチへ腰を下ろす。無理に走ったからか足がパンパンだ。

「それより…」

さっき聞いた女の子…ギルドって聞いても知らなそうな顔をしてた…。

もしかしてここって…………魔法とかがある世界じゃない…のか?

だとしたらどうしよう…。この世界の戸籍なんかないしどこも雇ってもらえないんじゃないか?!

え…もしかして詰んでない?どうしよう…僕の手元にあるのはたった一枚のパンツだけ。


「どうしようもないじゃん……」

なんかムカついてきた。これも全てあのクソ神様のせいだ。

全てを投げたしたくなる気分になってしまう。

僕はベンチに座ったまま後ろへぐてーっと倒れこむ。


「「いたっ…」」

不意に頭が何かにぶつかる。いたた…街灯か何かか?

あれ?でも痛いって声が聞こえたような…。

後ろを振り向く。そこにいたのは、不思議な雰囲気を纏った小さな女の子だった。

「いたい…」

その子は後頭部を押さえて涙目になっていた。

「ごっごめん!大丈夫?」

「大丈夫……あ……」


女の子はそれだけ短く伝えると、こちらにも目をくれずに足元に目線を落とす。

足元に落ちていたのは――――ゲーム機、のようなものだった。

「それ…ゲーム機?」

「そう…やっぱり、電源が切れちゃってる…セーブしてないのに…」

どうやら、頭がぶつかったときにゲーム機を落としてしまったらしい。

その拍子に電源が落ちてしまったと…。それは申し訳ないことをした…。

「ご、ごめんね…」

「いい…もう一度やり直すから…」

女の子はしょぼんって効果音が付いてそうなくらい落ち込んでいる…。

罪悪感が半端ない!そうだ!

「よかったら…私が直前まで頑張って進めるよ!こう見えてもゲームは自信があるんだ!」


「お姉ちゃんが…?」

「よ、良かったらだけど…どうかな?」

沈黙………気まずい……。

「じゃあ…お願い…」

そう言って女の子はゲーム機を貸してくれた。

「よっしゃ!お兄ちゃん頑張るぞ~!」

腕をまくってやる気アピール!

「お兄ちゃん…?」

女の子は怪訝な顔で僕の顔を見る。

忘れてた!今の僕は女装だった!

「オ、オネエチャンダヨ!オネエチャン!似てるから聞き間違えたんじゃないかなー?アハハ!」

慌てて訂正する。まだ誤魔化せる!バレたら社会的死だ!


「そうかも…」

「よし!じゃあ進めてくよー!」

ヤケクソだ!もうどうにでもなれ!


「えーと、このセーブデータかな?」

「そう…頑張って…」

「ふふふ…お姉ちゃんの実力を見て驚かないでよ…?」

ちょっとドヤ顔でキメる。どんなゲームか知らないけど。

まあでも前世ではゲームは大得意だったしなんとかなる!

何でもかかってこい!




♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




「ああああああああああああ!!!!まだ死んだ!!!!!!!!!!!」

僕は呆気なくボコボコにされていた。

こんなはずじゃなかったのに!

「お姉ちゃん…へたくそ…」

グサッ。

くっ…!あれだけ大見えを切ったのにこの体たらく!

めちゃくちゃ恥ずかしい!

「まだ…諦めない!絶対クリアする!」

ヤケクソになった僕は元の所まで進めるという目的を忘れていた。


「…ふふっ。お姉ちゃん…面白い…」

ずっと無表情だった女の子が初めて笑った。

可愛い。この子、よく見たらもの凄い美少女だ。

あどけなさを残しながらも均整な顔立ち、透き通るほどに白い肌。

可愛いとはまさに彼女の為にあるんじゃないかなんて思えるほどだ。

銀…というよりは水色に近いかもしれない髪色も、一旦お団子にしてから首元まで伸びているツインテールも、全てが彼女の魅力を引き出しているように感じる。

僕は思わず彼女に見惚れてしまっていた。


「…お姉ちゃん?どうしたの?」

上目づかいで見つめられる。

「――ーあっ、いや。そういえば名前、聞いてなかったなって思って」

危ない、今の上目遣いは卑怯だ。僕が男じゃなかったら思わず抱きしめていた。


「…リリ」

「リリちゃんか…いい名前だね」

…?彼女はなぜか不安そうな表情でこちらを見つめている。

どうしたんだろう、変な事言ったかな…。

「どうしたの?」

「…リリの名前聞いて…何も思わないの?」

「――――えっ?」

本気で驚く。名前?別に何も無かったよな…?

唸りながら考え込む、本気でわからない。


数十秒考えたところでリリが口を開いた。

リリの表情はなぜか嬉しそうに見えた。

「何でもない…」

うーん?わからないけど…リリの表情が元に戻ってよかった。

「あれ?そういえばさ、なんでベンチの後ろにいたの?」

今更ながら疑問が湧いた。普通に考えてあんな所にいた理由がわからない。


「…隠れてた」

「隠れてった…ってなんで」

「ゲームばっかりしてると怒られる…だから隠れてゲームしてた…」

なるほど?まあ理由はわからなくもない。だからといってベンチの後ろはどうかと思うが…。


「あ…もうこんな時間…もう行かないと」

リリがゲームの画面を見て、気づいたように呟く。

ゲームの画面に目を移すとそこには16:24と表示されていた。

この世界も…前世と同じように時間の数え方は同じなのかな…?

同じような発展をしてきた世界に転生してきたのかな。


「リリも…名前聞いてない…教えて」

考えていたところに声をかけられる。

「千秋だよ、天川千秋っていうんだ」

「千秋…いい名前。今日は楽しかった…また遊ぼう。またね」

リリは、それだけ言うと小さく手を振りながら去っていった。




♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




リリが去った後、僕は呆けていた。

考えていたのはリリの事だった。

凄い可愛い子だったな…。あんな可愛い子、前世のアイドルにもいなかったぞ。


見れば、空はもう赤く染まり始めていた。


「夕方か……………あっ!」

失念していた、もう夕方?!

転生してからリリとゲームしてただけで何も進展してないじゃん!

「や、やべえ!どうしよう!」

慌てて立ち上がる。


リリに色々聞けばよかった!慌ててリリを追うが、どこにも見当たらない。


「いや、まだ希望はあるはず!誰か探そう!」


僕はパンツを握りしめながら、校舎らしき建物へと走り始めた………。

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