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これ、僕が知ってる異世界転生と違うんですけど!  作者: 千鶴
第一章 良い事してもヘンタイはヘンタイ
1/11

プロローグ

――――――異世界で、第二の人生を送るがいい。






異世界。神様からその言葉を聞いた時は胸が躍った。


僕、「天川千秋(あまかわちあき)」は世間様でいうところの「孤児」だった。


母親は僕が生まれてすぐに浮気で蒸発。


父親に至っては薬物とお酒に溺れ犯罪に手を染めてしまったらしい。


逮捕された父は獄中で自死…。




故人を悪く言うのは忍びないが、いつ思い出してもろくでもない。


親がいなくなってしまった僕は、父方の親戚に引き取られたのだが…父の悪評もあってかあまり馴染むことはできず、高校生で一人暮らしを始めたのだ。




家を飛び出した僕はバイトで生活費を稼ぎながらギリギリの所で生活していた…のだが。




「え?僕死んだんですか?」




「え?うん」


軽っ




「そ、そうなんですか。僕、死んじゃったんだ…」


小さく呟いて空を見上げる。


そこにはパンツが浮いていた。は?




「え、なんかパンツ浮いてんすけど」


わけわからん。なんでパンツが浮いてるんだ。




「あやべ。さっきの…オッホン!気にするな…神の世界ではよくある事だ…」


あやべって何だよ。てかよくあることなの?




「…話を戻そうではないか。少年…?少女よ」


戻しちゃうんだ…すげえ気になるんだけど。




「は、はぁ…って少女?僕男なんですけど…」


「あ、やっぱそうだよね?死んだときに書類では男って書いてあるから困惑したわ~」


この神様ノリ軽いな…


ん?あれ?なんでこの神様は少女だと勘違いした?


その時額に冷や汗が流れる。


恐る恐る自分の服装を見る。


僕は――――――メイド服を着ていた!




「あああああああああ!!!!え?!僕死んだのってバイト中なんですか?!」




「なんかそうらしいね(笑)」


何笑ってんだコノヤロウ。


「君男なのになんでメイド服着てんの?」


ウッ、言葉にされると凄い恥ずかしくなってくる。


「あの…それはですね…」




神様にかいつまんで説明する。事の発端はこうだ。








♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢






今日はクリスマス。世間のカップルは今頃イチャイチャしてるんだろうな…


僕も…僕も…彼女が欲しかった…!


誰が悲しくてクリスマスにケーキを売る仕事をしなきゃいけないんだ…!


僕ににも彼女が居たら今頃はムフフな……




「千秋く~ん!」


気持ち悪い妄想をしていると、先輩から呼ばれた。


まずい、顔を引き締めないと。




「はい、どうしたんですか?」


「いやさ~、今日来るはずだったバイトの山田さんなんだけど……風邪で来られなくなっちゃったみたいでね」


何…だと…?普段滅多にバイトを休まないあの山田さんが…!?




「あの、それって」


嫌な予感がする。


「これ、見てよ…」


そこには、彼氏とデートをしている写真を載せている彼女のイ〇スタが!




「ちくしょう…!ちくしょう…!」


僕は大粒の涙を流して泣いた…。先輩は若干引き気味だ。


「まあ年頃の女の子だしね、そういう事もあるさ…」


先輩はそう言いながら背中をさすってくれる。


うう、優しい…。




――――――その時電撃が走るッ!まるで国民的推理ものの主人公みたいに!


「ちょ、ちょっと千秋君なんで距離を取るのさ」


「先輩、何か企んでません?」


そそくさ、先輩から逃げる。


先輩が優しい時、それは決まって何か無茶ぶりをしてくる時なのだ―――――!




「企むなんて人聞きの悪い。そんなことないよぉ」


ニヤニヤしながら先輩が迫る!これは…絶対にまずい!


構えを取って先輩と睨みあう。




「二人とも…何してんの?」


「あれ、店長?」


店長が怪訝そうな顔でこちらを見ながら立っていた。


「ただでさえ山田さんが休みで忙しいんだから、二人とも仕事してよ~」


「そう!そこでですね!いい提案があるんですよ!ちょっと耳貸してください」


先輩は店長に耳打ちする。


店長の表情がだんだんと笑顔になっていく。




「…いい案だ」


店長はそれだけ言うとニカッと笑った。あ、いやなよか~ん…。


店長は僕に近づくと肩にポンと手を置いた。




「千秋君…今、僕たちは大変な状況に直面している…わかるかい?」


深刻そうな表情だ。思わず真面目に考えてしまう。


「……売り上げが芳しくない……とかですか?」


「それもある…がもっと簡単な話だ。山田さんが休み、それはつまり」


なるほど。


「シフトに穴ができてるってことですか?」


「そう、彼女の役割はとても重要だ…彼女には本来店の外で呼び込みをしてもらわないといけなかったからな」


責任重大だ。確かに痛い。


「じゃあ僕呼び込みやりましょうか?最悪中は僕居なくても回せそうですし」




「喝!!!!!!」


「イタイ!!!!」


急に殴られた。え?なんで?




「千秋…お前はわかっていない…」


先輩は手を組みながら後ろで頷いている。


「男が……男が表で呼び込みしててもケーキを買おうなんて思わないだろッ!!!」


…まあ、一理あるかもしれない。


男性に声をかけられるより女性に声かけられた方が嬉しいし…。


「つまり、店の方針で言えば女性が好ましいわけだ」


うん…うん?


「つまり」




「千秋、お前には女装して店の前で呼び込みしてもらう」




「は?はぁ~~~~~~~~~?いや何言ってるんですか。僕男ですよ?」


慌てて反論する。


「千秋!お前は体も細いし顔も中性的だ!メイクすれば大丈夫だ!私が保証する!佐伯!」


「いやいやいやいやいや店長の保証に何の意味がって待って!ちょ、待って~~~~~~!!!」


先輩と店長に裏に連行される。




「アッーーーーーーーーー!!!」






♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢






30分後~




「シクシク…穢された…」


僕は…見事に女装させられていた。




「似合ってるじゃないか!どこからどう見ても女の子だ!」


グサッ


「もうお嫁にいけない…」


四つん這いになって泣き崩れる。


「婿だろ…」


店長に突っ込まれる。




「大体!なんでメイド服なんかあるんですか!」


「ん?それは元々山田さんに着てもらうはずだったものだ。安心しろ」


何を安心したらいいのかはわからないが、とりあえず理由は分かった。


「まあまあ!鏡を見てみろよ!」


そう言って店長は鏡を持ってきた。そこに映っていたのは―――。




「えっ…?」


可愛い。これ…僕なのか…?


「可愛いだろう!」


なぜか店長が得意げなんだ…。私が育てたといわんばかりだ。


「まあ…これは確かに…」


一言でいえば、可愛い。誰が見ても美少女だ。あ、なんか変な扉開きそう。




「と、いうことで…千秋、よろしく頼むな?」


それだけ言い残すと店長と先輩は出ていてしまった。




「………え?本当にやるの?」






♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢






「寒ッ!いや寒ッ!」


結局僕は店長に逆らうことができずに外へ出てきた………のだが。




「いやメイド服寒いって!死んじゃう!」


震える肩を抱きながら独り言を呟く。もう呟くってレベルじゃないけど。






「お姉さ~ん、カワイイじゃん、俺らと一緒に遊ばない?」


思考停止。初めてのナンパが男なんて…泣けてきた。


「バ、バイト中なんで結構です…」


「そういわずにさ~俺らと来たらイイコト教えてあげるぜ?」


ゲスい笑顔をニタニタと浮かべる。


「…やめてください。警察呼びますよ?」


男の目を見ながら少しドスの利いた声できっぱりと言い放つ。


「チッ…いこうぜ」


男たちは面倒だと思ったのか逃げて行った。




「は~~~~~~緊張した~~~~~!!!!」


怖かった…何をされるかわかったもんじゃないしな…。




―――――ん?




その時、視界の端にあるものを捉えた。それは、手を繋いで幸せそうに歩く親子。




「…」


僕も、もしかしたらあんな未来があったのかな…。


冬の夜だからだろうか、ちょっぴりセンチな気分になってしまった。




パン!顔を叩いて気合を入れなおす。


「やめやめ!バイト中だし!がんばろ!」




とはいいつつも視線は親子から離れない。まるでこの後起こる未来を知っていたかのように。






「あっ―――」






一瞬だった。ふらふらとした動きのトラックが赤信号にもかかわらずスピードを落とさない!


運転席を見る。


男はハンドルにもたれかかるようにして倒れており、意識がないように見える。




「危ない!」


大声を出す。幸いにも母親はトラックに気づき逃げようとする――が。


小さい女の子が逃げ遅れてしまう。


僕は思わず―――――。






衝撃。






大きな音を立ててトラックは衝突した。誰もが音に驚いてこちらを見る。


かろうじて目を開ける。ぼんやりとした目で状況の把握に努める。


小さな女の子が僕のそばで泣いている。よかった、助かったみたいだ。


安心したら、意識が…。僕、死ぬのかな…。






暗転。僕の意識は途絶えた。








♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢






「思い出した…僕、トラックに轢かれたんだ…」


「なるほどね、だからメイド服着てるんだ。てか君めっちゃいいことしてるじゃん。ゲームだったら好感度メーター上がってるよコレ」


「ま、まあ僕がメイド服着てるのはこんな感じです」




「そりゃ大変だったねぇ……よし、決めた!」


「決めた…って何を…」


「この状況なら一つしかないっしょ!転生するときにのお決まりといえば…」




「チートってやつですか?」


異世界転生ならお決まりだ。ちょっとワクワクする




「え?ないよそんなの」


「えっ?!ないんですか!?」


「いやそりゃそうじゃん。そんな都合よくチートとかあるわけないでしょ」


イラッ。じゃあ期待させるような言い方するなよ。




「はい!これ」


そう言って神様が取り出したのは―――――パンツだった。




「これ…さっき浮いてたパンツですよね」


「うん」


「うん?!お決まりってパンツなんですか?!」


うんじゃないでしょ。何なのこの神様。




「いや…この後異世界転生するわけだしさ。神様からの餞別ってことで」


イイコトしたって顔で鼻の下を指でこする。やばい、殴りたい。


異世界転生でパンツが役に立つ未来が見えない……。




「いやさー、こうやって転生する子が来るたびに毎回チート能力あげるのもなんかありきたりで飽きてきたって言うか…」




「チートでいいよ!パンツより100億倍マシだよ!」


てか別の人にはあげてんのかよ!俺にもくれよ!




「いやもう決めちゃったし。Aボタン押した後だから取り返し付かない、みたいな?」


「嘘だよね?!何てことしてんの?!」


みたいな?じゃないよ!僕だけ転生の恩恵がパンツ一枚だなんて…。




「いや~、生前にいいことしてるの先に知ってたらチートあげたかもしれないけどね~」


「神様ですよね?!知らなかったんですか?」


「こっちは一日に何人転生させてると思ってるの?!毎日転生する人の資料全部読んでたら間に合わないよ!」


逆ギレされた。そんな履歴書読む面接官みたいな…。




「うぐぐ…それでもパンツは納得いかない…」


手にしたパンツを握りしめ愚痴を漏らす。




「え?あ、もう時間?」


だが神様は僕の言葉も意に介しない。


「ゴッメ~ン!次の人の番来ちゃったからもう転生させちゃうね!」




「え?ほんとにパンツ一枚で転生するんですか?!ねえ!ちょ、あっ。ああああああああああああ!!!!!」




「それじゃあね~!いってらっしゃ~い!」




いってらっしゃいじゃねえだろ!ふざけんな!


待って待って!本当に転生してる!なんか飛ばされてる!










こうして、天川千秋の第二の人生がスタートしたのだった。



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