成雲家に伝わる神話
昔、森の奥に異世界で生まれた一人の乙女と彼女に仕える従者がおった。
その二人は姉弟であった。
その乙女と従者は不思議な世界を見ることが出来たそうだ。
乙女は白き羽根を持つ天使を、従者は黒き羽根を持つ天使を守護神にこの世界で民の欲望と戦い、勝利を手にしてきた。
美しきその乙女と従者は共に白き髪に青き瞳と他の者とは違う容姿をしていた。
しかしその乙女と従者、悪神と相打ちになったがために長きにわたる深き眠りにつかねばならぬ運命に遭った。
この世界を守るための生贄として、乙女は幼き我が子達を従者に託し、不思議な世界の牢獄の奥深くその生を終えるまで閉じ込められた。
「二千年後にこの世界は破滅の危機にさらされる」
そう告げられ仕乙女はそれでも未来に希望を託していた。
牢獄の中、乙女は祈りの歌をずっと歌い続けていた。
乙女が二千年に渡る深き眠りにつく直前、傍に仕えていた天使は乙女に告げた。
「我は汝、汝は我……たとい汝のその身が一時的に消え失せても、我は常に汝の傍にいよう。そして破滅の運命を共に変えてみせよう。汝に宿る、「反逆の正義」と共に」
そして乙女と天使は散っていった。まるで儚く散る花びらのように。
それを知った従者は嘆き、悲しみ、この運命を憎んだ。そしてそのまま乙女の後を追うように長き眠りについた。
乙女と従者は二千年後に再びこの地に降り立つことが許された。美しく優しく、そして儚い乙女と従者には不似合いな、残酷な運命と共に。
しかし乙女は、この世がどんなに理不尽な遊戯で、勝機がほぼないに等しくとも、何度だって立ち上がると心に誓った。
心より信じた仲間達と共に、この世界を救うと――。
しかし、従者は乙女を殺したこの世界を憎み、この世界を壊すことを誓った。
姉と自分を殺したこの世界を、永遠に許すことはないと――。
すれ違った乙女と従者は、哀れにも互いに刃を向けることになってしまった。悪神はそれを嘲笑いながら見ていた。
乙女と従者は再び、手を取り合い、今度こそ悪神を倒すことが出来るのだろうか――。
天より二つの星に雨が降る。
一方には悪意を受け止める器が。
一方には悪意を嫌悪する器が。
水と油のように交じり得ることのない星は、
ベガとアルタイルのようになれず、
互いに傷つけ合い、血を流す。
悪意を嫌う星は、
雨を受け止めるそのたび
その手から清め流し
折れそうなその白き翼で優雅に舞う。
血を流す星は、
その星を憎み、
羨み妬み、そして愛した。
どこかに消えた星を、
奇跡の星が想い、
その星へ祝福を願い、
共に生きる証の場所へ歩き出す。