013
今回で最終回です。
短い間でしたが読んで頂きありがとうございました。
評価感想等頂けると幸いです。
時間が経過して約三日。結論から申し上げると、帰宅部はめでたく創設と相成った。
加えて、今回の部総戦の総括をしよう。
総括、なんて言っても早い話俺の知らなかった裏話だ。
花宮はBL小説を書いていたことがバレたのが切っ掛けで、小説を書くのをパッタリと止めてしまった。
そんな花宮を不憫に思った雪野はまた文芸部に入ればいいと思いついた。文芸部にはBL小説に理解ある部員が多く、花宮も以前のように小説を書けると思ったからだ。
けれど花宮のトラウマは深く、ただ説得するだけでは立ち直れそうになかった。
時間が経ち、部総戦制度が施行されて俺たちが帰宅部を創る決心をした頃、雪野はそれを利用して花宮に小説を書かせる計画を立てた。
最初の説得で文芸部に入るならそれも良し、入らなければBL小説に理解のあるという秋人に力になってもらう魂胆だったらしい。
つまり、俺たちはまんまと雪野の手のひらに踊らされていたらしい。
いや、正確には違うか。秋人は雪野の計画を知っていた風だったし、花宮はその結果良い方に転んだ。
つまり、踊らされていたのは俺一人だけってことだ。
「んじゃあ、花宮が男二人だけの帰宅部に協力してくれたのは?」
「どちらかに気がある、というより、どちらも気になっていた、と言った方が正確だ」
「じゃあ遊園地のデートは何だったんだ?」
「デートで間違いないさ。ただし俺とお前の、だがな」
「……通りで話が噛み合ってないと思いました」
ちゃんと全部理解したうえで感動を噛み締めたかったと思う平日の昼休み、いつもの空き教室。昼飯を平らげながら秋人を問い詰める。
「じゃあ俺に黙ってたのはなんでだ?」
「その方が面白いからに決まってるだろう。別に勝率に変動は無かったしな」
「足が埋めれるくらいの量のコンクリっていくらで買えるんだ?」
「当分海には近づかないようにするとしよう」
軽口を叩き合い、笑い合う。こんな日常が手に入ったのは部総戦に勝利したからこそだ。
俺たちの活躍によって創設された帰宅部は、瞬く間に多くの部員を抱えるマンモス部活になった。
おかげで通学路のボランティア清掃の頻度はせいぜい月に二回ほど。そのくらいは許容範囲だ。
花宮は部総戦の後、帰宅部と兼部する形で文芸部に入った。兼部なんて無理せずに辞めてもいいと言ったが、せっかくできた繋がりを無下にしたくないそうだ。今では気心の知れた仲間と執筆活動に勤しんでいる。
そんなわけで、なんだかんだとトラブルは尽きなかった数日間だったが、結果だけみれば万事上手くいったと言える。ハッピーエンドだ。
おかげで俺は今日も今日とて家に帰れる。
こんな日々がいつまでも続けばいいと、心から思っていた。
「おい。官能と変態っているか?」
突然開け放たれた扉によって、俺の平穏が崩れ去る音がした。
「なんだお前、いきなり無礼だろう。俺には新堂という名前がある、そんな『おい遠藤』みたいに官能小説家と呼ばれる筋合いは無い!」
「おっす、野球部の曲尾じゃないか。わざわざどうしたんだ?」
「……どうしてお前はスルーできる? 変態だぞ変態、天体望遠鏡から天体に転じてそこから最終的に変態だぞ?」
「慣れた」
「生まれて俺は初めてお前の事を尊敬した」
「よせやい、照れるぜ」
変なあだ名で呼ばれるくらいどうということはない。
こちとら中学校三年間男子生徒に距離を空け続けられたこともあるんだ。
……そしてBL小説で部総戦に勝利したことにより、残りの高校生活もそうなるであろうことも読める。小説だけに。
なんだか曲尾との距離が随分空いている気がするのは予感が的中した証拠だろう。
秋人が言っていた勝利の代償は思いのほか重かった。
秋人の賞賛を素直に受け取り、俺は曲尾に向き直った。
「それで、なんか用か?」
同じクラスだけど別に親しいわけじゃない。何か事情が無いとわざわざ探してまで声をかけてこないだろう。
曲尾は「ああ、それなんだが」と前置きをして言った。
「野球部代表として帰宅部部長に、部総戦を申し込もうと思ってな」
部総戦制度に奪われ、帰宅部を創設しようやく手に戻した俺の自由は、また再び魔の手に奪われようとしていた。
「分かった受けよう」
「部長そっちのけで即答するのやめません?」