010
君は六等星
その光は小さくて 弱々しいけれど
誰かのために 光ってる 光ってる
まだ誰も気付いてない まだ誰にも届いてない
小さくて大きな光は 僕だけが知っている
I scope in the sky.
stargazer 僕は天体望遠鏡
Haruichi
□□
「貴方の傷が浅いうちに記憶を消す事をオススメします。2点」
「僕は天体望遠鏡とか草。あと『stargazer』って何? 1点」
「読まなきゃよかった。0点」
「岡野さん、『scope』は名詞ですけど……」
「名前が覚えにくいな。こんなのはどうだ、ハル。『Baka』」
「……そんな何かを期待した目で私を見ないでよ、岡野」
「俺知ってるこういうのイジメって言うんだ先生が言ってたよ」
文芸部員三人はもちろん帰宅部二人からの容赦ないダメ出し。果てにはフォローを期待した雪野にまで見放されて孤独な俺は一人空の上、僕は天体望遠鏡。
「さて茶番は終わりだ、本命に入ろう」
「お前本当にいい加減にしないと計画的犯行を企ててこの世から葬るよ?」
「凶器は天体望遠鏡、ですね……うふふ」
「お前この状況でよく秋人の肩持てるな? さてはいい度胸だな?」
「はいはい、いつまでも漫才してないで次にいくわよ」
漫才だなんて心外だ。たとえ何年経ったとしてもこの殺意を忘れないと誓える。秋人をこの手で殺めるその日までなぁ!
……いや、待て。復讐するための武器は天体望遠鏡以外にもあったはずだ。
「それでは帰宅部。二人目の作品を提出してください」
「こちらの二番手は花宮だ。頼んだぞ……」
「――いや、その判断、ちょっと待ってもらおうか」
緊迫感のある教室で、俺の声が響いた。
「どういうつもりだ、ハル」
「そうよ岡野。この対抗試合に提出できる作品は一人一作品。アンタにもう参加権は無いの」
「まあ、恥の上塗りがしたいなら俺は止めんがな」
ふふっと余裕の笑みを浮かべる秋人。
俺をからかうだけからかってさぞ機嫌がいいことだろう。……その鼻を俺が明かしてやる。
「確かに俺はもう詩を出した。けど、今から出す小説は俺が書いたものじゃないんだ」
俺は鞄の中から一冊の小説を取り出した。
それは決して今回の対抗試合のために書かれたものじゃない。それに素人が書き殴った原稿でもない。それはどこかの本屋の棚に気配を消して並んでいるような、どこにでもある小説だった。
「ちょっと待ってください。それは既に発売されている小説を自分のものだと言い張っている、という認識でいいのでしょうか? それは流石に文芸部員としては見逃せませんが」
「そうですよ、岡野さん。私が勝ちますから、だからそんなことしなくても……」
「岡野、何か弁解はあるの?」
俺の取り出した小説をみて、それぞれが思い思いのことを口にする。
けれどその中で、一人だけ焦りを露わにしている奴がいた。
そうとも、お前だけはこの小説が何なのか、知っているんだからな。
「ま、待て、それは認められないぞ! それはお前が書いたものじゃないだろう! だから無効だ、そうだろう雪野!」
「ふっ、君のような勘のいいガキは嫌いだよ。だが、もう遅い!」
慌ててまくしたてようとする彼の抵抗虚しく、俺は小説の正体を明らかにする。
「――これは、新堂秋人が中学校三年生の時にお年玉をはたいて製本した、自作の官能小説だ」
周囲の空気が一変する。
今までよく回っていた秋人の口が止まった。教室にいる全員の視線が秋人に集まった。
誰もが信じられない、と言いたげな顔を浮かべている。気持ちは分かる、俺だって誕生日にこれを渡された時は現実を疑った、だが事実だ。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。
「違う、違うんだ! 雪野、こんなのは認められない! 早く花宮の小説の審査に移るべきだ!」
秋人は必死に言い訳を並べる。
秋人、そんなことは今更無意味だ。認められるかどうかはお前の今までの行いで決まる。
だとすれば答えは明白だ。
「その小説を新堂秋人の作品だと認めます」
「雪野ぉぉぉぉぉ!!?」
澄ました顔で即答する雪野を見て、思わずガッツポーズが出た。
日頃秋人から受けているストレスを発散する二度とない機会に少し胸が高鳴った。
「ならば特とご照覧あれ! これが新堂先生の処女作かつ最大の黒歴史であるぞ!」