第007話「派遣勇者新世界を知る」
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第一章【レグナ王国編】
第007話「派遣勇者新世界を知る」
「シンキチ殿。楽しんでいただけてますかな?」
「え、えぇ…。」
村の中央の開けた場所で夕方頃から始まったルー歓迎会は日が落ちた後もまだまだ続いている。
「ルー様!いかかですかな?」
「ん!おいしー!」
ルーは思っていた通り人間の作った料理が大層気に入ったらしい。宴で出された料理をずっと食べている。村の人達も自分たちの料理がエルフに気に入って貰えているのが本当に嬉しいらしく、次々と持ってくる。
(村の生活も大変だろうにあんなに持ってきて大丈夫なのか?ルーもあんな量を食べていたら明日は苦しくて移動はできないだろうな…。)
とはいえ、美味しそうに食べるルーも嬉しそうにしている村の人も止めにくいのでそのままにしておく。流石にお腹一杯でも無理に食べたり食べさせたりするようなことはしないだろう。
「ところで村長さん、アドナ村から一番近い町はどこになりますか?」
「村から一番近いのはオカコットですな。月一の行商人もそこの商店の者が来ます。」
「オカコットですか、どのくらい離れているのでしょう?」
「今地図を持ってきますので待っててくだされ。」
そう言って村長は家から地図を持ってきた。
「この辺りがアドナ村ですな。それでここがオカコットです。行商人が言うには徒歩だと片道で二、三日程掛かるとか。道はこの街道を真っ直ぐ行ったところなので、街道を歩けば着くでしょう。」
「オカコットはどんな町なんでしょうか?この辺りの国や町をほとんど知らないもので。」
「そうですな、オカコットもこのアドナ村もレグナ王国の領地ですな。」
村長は地図を指差しながら説明をしてくれる。
「この辺り一帯がレグナ王国、王都はここですな。川を挟んでこちら側は隣国マレバハム共和国です。まぁこの地図では国境ぐらいまでしか載ってないのでこの先の地形は分かりませんが。」
村長の地図は大まかなこの国の大きめの町や王都が載っているものなのでこれより先の国は分からないらしい。実際魔物が棲むこの世界で遠出や旅をする者は少ないから、詳細の載った世界地図みたいなものは今後も期待はできなそうだ。
「大変助かりました。この地図はオカコットでも買えますかね?」
「この地図はこの村唯一の地図なので差し上げたりは出来ないのですが、元々はオカコットの行商人から買ったものなので町へ行けば買えるんではないかと。」
(マップを見れば現在地や周辺の町の名前は分かるけど、地形や国名なんかは分からないから町に行ったら早めに手に入れときたいな。)
「町に行ったら買いたいと思います。」
「いえいえ、エルフ様の旅のお手伝いが出来たのなら幸いですとも。」
その後ルーのお腹いっぱい宣言が入った所で宴はお開きとなった。すでに苦しそうなルーをおんぶして本日の宿泊先である村長の家に行く。
「ルー様はお眠りになりましたかな?」
「えぇ、料理をずいぶん気に入って満腹だったようでしたから。でもよかったのですか?いくらエルフに感謝しているとはいえあれだけの食糧を一晩で消費したら…。村での生活も大変なのでは?」
「次はいつエルフ様にお会いできるかわかりませんからな。もしかしたらまた百年くらい先やもしれませんし、それにあと一週間もすればオカコットからの行商人が来る頃合いですから宴で消費した分はそこで足しますよ。」
「そうですか。とはいえ本当にありがとうございました。」
「まあまあ、もう良いではないですか。まだ私もエルフ様達の事でシンキチ殿に聞いてみたいこともありますし、酒でも飲みながらお話し致しましょう!」
こうして酒を飲みつつ、この日は長老宅に泊まらせてもらった。
次の日の朝。ルーに起こされないので見てみると、やはり布団の中で苦しそうにしていた。
「おなかがきつい。」
「そりゃ、あんだけ食べれば苦しいよ。今日歩いて次の町に移動できないでしょ。」
「むりかも。」
「次からは無理に食べない事。里の料理と違って油っぽかったりするのは次の日に残りやすいから気を付けるんだよ。」
「ごめんなさい。」
「怒ってないから今日はゆっくりしてお腹を落ち着かせな。」
ルーの頭を撫でたあと、村長へ挨拶しに行く。
「おはようございます。寝床を用意してくれてありがとうございました。」
「おぉ、シンキチ殿おはよう。昨晩は良く眠れましたかな。」
「おかげさまで。それで申し訳ないのですが、ルーが昨日の食べすぎでまだ苦しいみたいで。ご迷惑でなければもう一晩お世話になりたいのですが…。」
「それはもう!全く問題ないですぞ!」
「いやぁ…。すいません…。もう一日お世話になります。」
村長宅で朝食をとった後、ルーを布団へ戻して俺は一人で村をブラブラすることにした。
(そういえば話に合ったエルフの魔法陣を詳しく見てみたいし行ってみるか。)
魔法陣は昨日宴の執り行われた村の広場にあったので見に行ってみた。
その魔法陣は広場に置かれた石碑に刻んであった。魔法陣の中央には小さめの魔石が埋め込んであり、魔力が込められている。魔石にも魔法陣が刻まれていた。
(これはすごいな…。)
石碑の魔法陣自体は俺が覚えている魔物除けのモノとほとんど変わらないが魔石の方は凄い。魔物除けの魔法発動に必要な最小限の魔力を放出するように調整する魔法陣と、土地の魔力をゆっくりだが吸い上げて魔石に魔力を戻す魔法陣の二種類が魔石に付与されているようだ。
(この仕組みだから百年近く経っても魔法が維持できているのか…。)
これは魔法の知識だけでなく小さな魔石に魔法陣付与を行う技術もないと実現できない。これを作ったというエルフは魔法と魔法工学に精通していたのだろう。しかしアリアドールではこういった魔法工学技術の高いものは見受けられなかった気がする。
(てっきり森に近いからアリアドールのエルフがやった事だと思っていたけど、アリアドール氏族でないエルフがたまたまこの村に来ていたという線も出てきたな…。)
石碑の方は設置から百年ほど経っているにもかかわらずあまり劣化が見られなかった。魔石の魔力もあと百年くらいは問題なく魔力サイクルが機能しそうだったがお世話になったので魔力を満タンにしておく。
(これで向こう二百年以上は魔法が発動を続けるな。それにしてもこの技術ほしいなー!どこかでこの
技術を再現できる人材に会ったら持ち歩けるタイプのものを作成してもらわなきゃな。)
その後この日は村のお手伝いをしたり、村の子供と遊んだりして過ごした。夕方にはルーも元気になり、明日はアドナ村を出て隣町となるオカコットを目指すことになる。
「そういえば村長さん。この村以外の人達はエルフや亜人種ってどういう評価なんでしょうか。」
昨夜同様、今夜もルーが寝た後に村長の晩酌に付き合っている。そこで気になっていたことを聞いてみた。
「我々もあまり村の外へは行かないのでハッキリとしたことは分かりませんが、それほど嫌悪感を示したりはしないでしょう。ただ奴隷となると人間亜人関係なく扱いは悪くなるでしょうな。とはいえレグナ王国は比較的亜人種が少ないらしいのでルー様がエルフなのは極力隠した方が良いかもしれません。」
「やはりそうなんですね…。」
「嘆かわしいことです。」
(やはり今後もできる限りルーの素性を隠しながら旅をした方が良さそうだな…。オカコットである程度の路銀を稼ぐかの判断は町の様子を観察してから決めよう)
「では村長さん色々お世話と貴重な情報ありがとうございました。」
「いえいえ、お二人の旅の無事を祈っておりますよ。また近くに来ました気軽に寄ってくだされ。」
「また来ようなルー。」
「またくる!」
次の日、村の人達に惜しまれつつアドナ村を出発した。
オカコットは先日村長から聞いた通り街道に沿って歩けば着くとのことなのでのんびりと進む。この辺りはまだ村の魔物除けが効いているのかマップ上の遠くに魔物はいるものの、脅威になるような距離感ではない。
「ルー、森を抜けて暫く経つけど精霊は見えるのかい?」
「んー、シルフはいる。」
「ウンディーネや見たことのない精霊はいない感じかな?」
「うん。」
「まだ、魔物も出てこないだろうけど出てきたら俺が相手するから魔物としっかり距離を取るんだよ?」
「たたかっちゃだめ?」
「精霊魔法で距離を取って戦うならいいよ。ただ俺がダメって言ったらその魔物は強いかもしれないから戦わないでね。」
「わかった。」
(過保護すぎるとルーのレベルも上がらないから、適度に魔物との戦闘に参加させていくか…。)
とはいえ、アドナ村から出発した初日は魔物との戦闘はなく、食糧になりそうな鳥や獣を数匹狩るだけで終ったのだった。
次の日、街道を歩いていると前方に荷馬車が見えてきた。
「シンキチ、だれかいる。」
「そうだね。ルー、フードを被っておこうか。」
近づいていくと、荷馬車の持ち主らしき武装をしていない男性一人と護衛らしき武装を施した人達が三人程いる。その護衛の内の一人が地面に座り込み何やら話をしているようだ。
歩いてくる俺達二人に気が付いて一瞬警戒したが、問題ないと判断したのかすぐ警戒は緩められた。
「こんにちは。どうされたのですか?」
「あぁ、仲間の一人がさっきの魔物との戦闘で怪我をしてしまってな。」
そう言って座り込んで辛そうにしている男性に視線を向ける。
「俺たちはこの人をオカコットからこの先の村まで護衛していたんだが、どうやらアイツは骨折してしまってるようでね。ポーションはあるんだが骨折となると丸々一本使わなきゃいけない。帰りの護衛も考えるとここでポーションを使って進むべきか、町まで戻るべきか話し合っていたんだ。」
「護衛してもらう私としても、行路の安全が第一ですし…。ただ荷物には日持ちがあまりしない物もあるもので、戻って再準備するとなるとその辺りがネックでしてね。」
荷馬車の持ち主の言う通り、荷物は日用品や食料品が積んであるようだった。
「もしかして、アドナ村に月一で来られるという行商の方ですか?」
「そうです。もしかしてアドナ村から来られたんですか?」
「はい、旅の途中で少しお世話になりました。」
「なぁ、アンタ。旅人ならポーションを複数持っていたりしないか?あれば売って貰いたい。」
「いや、実は持ってないんだ…。」
本当はポーションを数本持っている。しかしそれは前の世界のモノでしかも全て「完全回復薬」だ。この人たちが言っているのは「下位回復薬」なのだろう。まだこの世界のアイテムの効能や価値がわからない状態で手持ちのフルポーションを譲渡するわけにはいかない。
「そうなのか…。」
「やはり、町に戻るしかないか。」
(しかしアドナ村で盛大に食糧を消費させてしまったし、出来るだけ早く行商人には村へ行ってもらった方がいいか…。)
「ポーションは持っていないのですが俺は回復魔法を使えますのでそれで治すというのはどうでしょう?まぁ、お代はいただきますがポーション一本分で結構ですので。」
「あんた、神官系魔法使いなのかい!?」
「治癒系魔法は旅をする上で便利なので覚えたんですよ。」
「そーかそーか!アンタが回復魔法を使えるなら話は早いな。代金は払わせてもらうからお願いできるだろうか。」
「えぇ、任せてください。」
彼らにはこのままアドナ村へ向かってもらいたいので治すことにした。
「コイツなんだがどうだい?治せそうかい?」
怪我人はどうやら肋骨辺りを骨折しているらしい。
「たぶん大丈夫ですね。〈魔法上昇〉〈治癒〉」
一発で治せないのは何となく恥ずかしかったので、効果上昇のスキルを併用して回復魔法をかける。
(しっかり効いたみたいだ。顔色がどんどん良くなってるな。)
「…全然痛くなくなった。」
おお!と喜ぶ一同に俺も安堵する。
「いやぁ、本当に助かった!ありがとう!えーっと…。」
「シンキチです。こっちは娘のルーと言います。」
「助かったよシンキチさん!これでこのまま村へ向かうことが出来る。」
「自己紹介がまだだったな、俺たちはオカコットで冒険者をしている“五月雨”ってチームだ。俺はリーダーで戦士のラムダ、こっちが魔法使いのルルムンド。」
「俺は補助と攻撃系がメインの魔法使いだから治癒系はさっぱりでね、助かったよ。」
「それで、今シンキチさんが治してくれたのが盗賊のザスマンだ。」
「一発で骨折が治るとは思わなかったよ、ありがとうな。」
「さっきも話したが俺達“五月雨”はこちらのバリーズさんが月一でやってるアドナ村への行商の護衛をしてたんだがね、突然林の方からゴブリンの群れが出てきてしまってバリーズさんを庇ったザスマンが攻撃を受けちまったんだ。」
その時、街道脇の林の中からコチラに向かってくるモノがいることに気が付いた。
初執筆です。
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