第006話「派遣勇者第一村人発見」
第一章【レグナ王国編】
第006話「派遣勇者第一村人発見」
森を抜けた先は一面の草原だった。
「「おー。」」
はじめて森を出るルーだけでなく、俺自身もこの世界で初めての木々のない広い空間に思わず声が出る。
どうやら街道らしい道もあるようだし、マップで確認していた村は道を進んだ先にある。
(ここなら死角から襲われる危険性もないし、何かが接近してきても俺が早段階で目視できるな。)
「じゃあここからは二人でゆっくり歩いて行こうか。」
「手つなぐ。」
俺一人の速度で今日の夜には村へたどり着けるかどうか位の距離なのでルーと一緒だと今日は草原で野営して明日到着って感じだ。
風景の変わらない草原を他愛もない話をしながら進む。
草原を歩き始めて数時間。日が傾いてきたので野営の準備を始める。
「今日はここで野営になるよ。晩御飯は肉串と果物になるけどいいかい?」
「だいじょうぶ!」
俺は収納鞄から森で拾っておいた薪になりそうな木と里で貰った食糧を取り出す。
前の世界で使っていた収納鞄はこの世界ではそこそこポピュラーなアイテムのようなのかアリアドールの人達も一家に一つ二つくらいの感覚で普通に使っていた。
(魔法があるから今更だけど、相変わらずこの鞄見ると本当に異世界に来たなって感じるな。)
実際にどれくらい入るのか試したことはないが、ものすごい量の荷物を収納することができる。元の世界で実現できれば物流に革命が起きるのは間違いない。
ちなみに晩御飯は肉串なのだが、この世界のエルフも普通に肉は食べる。肉が特別好きとかいうわけではないようだがアレミア家でも肉料理は出ていた。
ただ調味料や香辛料が乏しく、基本塩胡椒で素材の味を生かした料理だったのでこの旅で料理やその辺の知識を高めていつかアリアドールの里に食の革命を起こしたくなった。
(人間の料理を食べたらルーはどんな反応するんだろうか…。少し楽しみだ。)
俺は魔法で火を起こし、肉を焼き始める。ルーは果物の皮むきを頼んである。
「よし!肉も焼けたし、ルーが果物剥いてくれたしお祈りして食べよっか。」
「ん。」
お祈りは日本でいう所の「いただきます」だ。今日も御飯を食べれることに感謝するものなのだが、これがエルフ独特のしきたりなのか、この世界共通のものなのかは分からない。
ただルーと一緒に旅を始めたし、アリアドールの一員のように接してくれた里の人達の文化なので一緒にやることにしている。
お祈りが済んで食べ始める。こうやって久しぶりに塩味の肉串オンリーの夕飯をを食べていると一緒に旅をするルーの為にも調理スキルを上げなくてはならないなと思う。
(相変わらずハグハグと食べるルーは小動物みたいで可愛いな。年上だけど…。)
「足りるかい?」
「大丈夫。」
食べ終わった俺たちは草原にそのまま寝転がる。
「意外とボリュームあったな。」
「おなかいっぱい…。」
「結構歩いたからね、眠くなったら寝ていいからね。」
ルーが眠くなるまでは雑談タイムとなるがここで聞いておかなければいけないことがあった。
「ルーは自分の名前を書けるかい?」
「かけるよ。こうでしょ?」
地面に枝でアレミア・ルー・アリアドールと書いていく。
「そうそう。ちなみにシンキチは書けるかい?」
「んー、シンキチはこう…。」
(シ・ン・キ・チ…。なるほど…。)
「うん。流石だね、合っているよ。」
「フフン。」
些細な事でも、褒められるのが嬉しいのだろう。
その後も雑談をしている内にルーは眠くなってきたのか外套にくるまりはじめたので寝かしてあげた。
寝る子は育つ。まだ幼く可愛いが前面に出るルーも大きくなったらルルさんの様に綺麗なエルフになるのだろう。頑張れ。
(さてと、ルーも寝たことだし計画していた作業に入らねば。)
それは先ほどルーに書いてもらった自分の名前を覚えることだ。
転生先の言語は前の世界や日本時代のものとは異なる。だが転生者は転生先の世界の言葉が日本語として聞き取れるし、こちらの言葉も日本語で話しかけているつもりでもこちらの言語で話せているのか問題なくコミュニケーションが取れている。
本などに書いてある文も、こちらの言語の上に薄く日本語が浮かび上がっているので読めるのだ。
(でも俺が書く日本語は読めないみたいなんだよなぁ…。)
これで前の世界は最初に躓いてしまったのだ。傍から見れば文字を読めるのに自分の名前すら書けないという奇妙な人になってしまうので、最低限自分の名前くらいは書けないと面倒な事になったりする。
教育がそこまで行き届いてなくても、自分の名前くらいは書けるというのが前回の世界では一般的だったのでなんとかしてシンキチという文字を手に入れる必要があったのだが、なかなか里では自然に名前の書き方を書いてもらう誘導が出来なかった。
(絶対に今日中に覚えるぞ…。)
地面に何回も自分の名前を書き続け、覚える頃にはいい感じに少し眠気が出てきた。寝落ちしても大丈夫なように索敵スキルや防御用の魔物除け魔法陣を準備し始める。一人で旅をしていると野営が増えるので真っ先にマスターしたスキルや魔法だがこれのおかげでいままで外で寝て襲われたことはない。
(さて、名前の書き方も覚えたし明日はこの世界初めての人間の村だ…。ルーを含め何事もなくいくと良いな…。)
スヤスヤと眠るルーの寝顔を見ながら、俺も睡魔に身を委ねた。
次の日の朝は馬乗りのルーに起こされた。
子供ってなんであんなに早起きなんだろうか。
朝食は二人で果物を食べた。その後野営の片付けをして村へ向かって歩き出す。
森を出てからは魔物等が一切索敵に引っかからないのでやはりある程度安全な地帯に人間の住む場所は出来るのだろう。
「ルー、あと少しで人間の村に着くと思うけど一応外套を被っておくんだよ。」
「そーする。」
「あと、他の人の前では俺とルーは親子だからね?」
「むう。わかった。」
エルフが人間を警戒していた様に、この世界の人間がエルフにどういった感情を抱いているのか分からない以上、できるだけルーがエルフであることは知られない方がいい。そこで人前では長い耳は外套のフードで隠して俺達は旅人の親子として接することにしたのだ。
(とりあえずこの方針をルーが分かってくれてよかった…。)
この親子という設定はなかなか飲んでくれなかった。最初は夫婦が良いとごねられ、恋人なら良いとごねられ、なんとか最後は親子で納得はしないものの妥協してもらった。
(奴隷制度がある以上、この見た目で夫婦とか恋人はちょっと犯罪チックだしな…。)
そうこうしている内に村が見えてきた、村の手前には牛のような動物に草を食べさせている初老の男性がいる。
「こんにちは。ここに宿や泊まれる場所はありますか?」
「おや、こんにちは。旅の人は珍しいですな。ウチの村には宿屋はないが、村長の家の隣の空き家を旅の人用に貸し出しとるよ。管理は村長がしとる。」
「なるほど、そのお家は借りられますかね?」
「大丈夫だと思うぞ。あの家は基本ひと月に一度来る行商人が使う家だからな。村長に話すといい。」
「わかりました。村長のお宅を教えていただけますか?」
「えーっとなぁ…。村に入ってまっすぐ進むと…。」
その時、急な突風が吹きその拍子でルーのフードが脱げてしまった。
(ヤバい…!)
遅かった。完全に脱げてしまった上、長い耳も含めてルーの顔が全開となってしまう。
ルーも慌ててフードを被りなおし、二人でおそるおそる男性の方を向く。
「エ、エルフ…。」
男性はそうつぶやくと、その表情に徐々に怒りの感情が混じる。
(あー…。これマズイやつか。)
その気配はルーも感じ取ったのか、ルーからは緊張と恐れが伝わってくる。
「アンタ!エルフ様を攫ってきたのか!」
向けられた怒りの感情はルーではなく俺に向けられた。
「え…?あの…。」
「それともアンタはあれか!エルフ様を奴隷として買ったクチか!」
(えええっ!!!俺が責められるパターンか!!!)
「あ、あのですね!俺は人攫いでも奴隷購入者でもなくてですね!」
思いもよらない展開に混乱してしまった。しかし、今回もルーが救いの手を差し伸べてくれる。
「ちがう!ルーとシンキチは夫婦!!」
(いや、それも違う!!!)
「エルフ様?え?夫婦?んん?」
今度は男性の方がルーの衝撃発言に混乱し始める。
ドヤ顔のルーと混乱する人間二名という不思議な空気があたりを包むが、落ち着きを取り戻し男性に誤解を解いてもらうため説明を始めた。
「先ほども申したように私は人攫いでも奴隷購入をした者でもありません。この子は確かにエルフですが、本人と家族、彼らの里から了承を貰った上で二人旅をしているのです。」
「エルフ様が人と旅を…。にわかには信じられん話だ…。」
「ん、ほんとう。」
「どうしたら信じてもらえるでしょう。」
「一応エルフ様、お手と首元を見せていただけますか?」
(なんだろう?)
「ん。」
ルーが外套を緩めて首元と手を見せた。
「確かに従属の首輪も奴隷の印もない、エルフ様の様子も嘘を言っている様には見えん。アンタ本当にエルフ様の里へ行ったのか。」
「そうです。事情を話すと長くなりますがふた月程は里でお世話になりました。」
そういうと、男性は「ほほぉ…。」と息を漏らした。
「わかった、アンタを慕うエルフ様を信じよう。」
(よかったー!ありがとうルー!)
「それにの、この村はエルフ様を無下にはせん!村長にも知らせねば!村の皆も喜ぶじゃろう!こっちじゃ。」
そういって村の中へ案内してくれる。
村長宅でルーは神様のように丁重に扱われた。
俺も森でルーを助け、アリアドールへ滞在したことやルーが自分の意志と家族の了承を得て俺と一緒にいる事を説明するとルー同様手厚い歓迎を受けた。
「このアドナ村は昔森から出てきた魔物に悩まされておりました。しかし百年程前に村へ立ち寄った旅のエルフ様が村の中央に魔よけの魔法陣を置いてくれてからは魔物が寄り付かなくなったそうです。こんな辺境の村で魔物に怯えず日々我々が暮らせるのはその魔法陣が今も機能しているからなのです。だからこの村の者はエルフ様に感謝しておるのですよ。」
「それでこんなに村の人が押しかけてるんですね。」
家の窓にはルーを見ようとたくさんの村の人が来ている。
「しかし、シンキチ殿があの森の奥深い所にあると言われているエルフ様の里へ行ったことがあるとは…。」
「あの森にエルフの里があるのは有名な話なんですか?」
「この村ではほとんどの者が知っておりますが、村の外の人にはそれほど伝わってないかと。ただ奴隷商人達の間ではどうやら知っている者がいるらしく、たまに人攫いの様な輩が森へ入っているようです。村に来て里の正確な場所を聞こうとしてきた者もおりましたから。まぁその時は皆エルフの里が森にあるのはデマで非常に凶悪な魔物もいるのだと脅しを言うようにしておりますがね。」
はっはっは!と笑い飛ばす村長。この村の人達は本当にエルフへの感謝の気持ちがあるようで安心した。
「今日は村を守ってくれているエルフ様が百年振りに村へ来てくれたのです。このアドナ村を上げて歓迎させてもらいますよ!あとお泊りは空き家ではなく、ぜひ我が家に泊まってくだされ!」
こうして初めての人間との接触はおおむね上手くいきそうなスタートとなった。
初執筆です。
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