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派遣勇者の世直し観光記  作者: あおまる軍曹
第一章【レグナ王国編】
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第005話「派遣勇者森を出る」

第一章【レグナ王国編】

第005話「派遣勇者森を出る」



 (そろそろ里の生活もおしまいかな。)


 里に来て約ふた月、一泊のつもりがずいぶんと長くお世話になったが元々は世界中を旅するつもりでいたわけだし、そろそろ他の所にも行かないと女神達との約束も果たせない。

 ダグ達若いエルフとも仲良くなれたし、剣や魔法の指導もやり切った感覚もあった。

ルーの精霊魔法もずいぶん上達したからもう大丈夫だろう。


 「…ということで、明日にはこの里を離れようと思っています。このふた月本当にお世話になりました。」


 朝食を皆で食べている時にそう切り出す。


 「本当に行ってしまうのかい?」

 「もっと居てもいいのよ?」


 「人間はせっかちだよなぁ。」

 「ゆっくりしていけばいいのに…。」


 「いや~。だいぶゆっくりさせてもらいましたから。」


 アリミア家の人たちから名残惜しそうに言葉を掛けられる。本当にこのアリアドールとアリミア家は居心地が良すぎた。

 一通り世界を見て回ったらまた戻ってきたいと思えるほどだ。


 「…ヤダ。」


 「ん?」

 

 「やだやだ!シンキチ!いっちゃヤダ!」


 眼に涙を浮かべルーが駄々をこね始める。



 「ヤダーっ!!」



 泣きわめくルーはそのまま自室へ走って行ってしまった。


 「ルーの事は私達から言って聞かせますから。シンキチさんはダグと一緒に長老の所へ行ってください。」

 「ルルさん…。すいません。お願いします。」


 「じゃ、シンキチ。飯食ったら長老んとこ行こうぜ。」


 朝食をすませた俺は、明日里を出ることを報告しにダグと長老の家へ向かう。




 「そういうことで、明日この里を出ようと思っています。ふた月もの間、里に滞在する事を許してくれて本当にありがとうございました。」


 「ふむ…。おぬしにはもっとこの里へ居てもらっても良かったのだがな。」

 「私も世界を見て回ろうと旅に出ましたので。」


 「そうか…。それを儂らに止める事はできんな。ならこれを持っていきなさい。」

 「これは…?」


 そう長老に渡されたのは印の入った翡翠色の石のついたネックレスだった。

 ステータス欄には【アリアドールの首飾り】と表示されている。


 「これは里を出るエルフが首から下げるものだ。違う氏族のエルフやエルフに詳しい者がそれを見ればおぬしが我が里の者であることを証明できる。」


 「私はこの村の出身者でもエルフでもありません!こんなものを貰う訳には…。」


 「シンキチ殿、おぬしは里の者の命を救ってくれただけでなく、里の若者達の人間への偏った認識を正してくれた。これは儂をはじめ里の年長者達が出来なかったことだ。そんなおぬしにはこれだけでも礼が足りないくらいだ。」


 「シンキチにはウチでもたくさんお礼はしたぜ?」


 「ダグよ、それはアリミア家の礼だろう。儂が言っているのはアリアドールの里としてシンキチ殿に礼をすると言っておるのだ。シンキチ殿首飾りを受け取っていただけないか。」


 (遠慮のし過ぎも失礼になるか…。)


 「そこまで言っていただけるのでしたら、ありがたく頂戴しましょう。」


 「そのネックレスを持っていれば違う氏族のエルフやエルフに詳しい者はおぬしがアリアドールに友誼を持っておることがわかるじゃろうし、力になってくれるはずじゃ。」


 (それは素晴らしい。身分を証明するものが何もない現状ではかなり助かる!)


 「貴重なものをいただきありがとうございます。大切にさせてもらいますね。」

 「うむ、出発は明日なのだろう?今日一日はゆっくりして行くといい…。」



 バンッ!!

 (―――っ!!)



 激しく長老の家のドアが開き俺とダグは驚いて振り向くと、そこには目元を真っ赤にしたルーと少し遅れて母親のルルさんが慌てた様子で入ってくる。


 「ルーもいく!」

 「え?」

 

 「ちょーろー!ルーもシンキチといく!」

 (えぇ!?)


 「こら、ルー!長老様に失礼でしょ!長老様申し訳ございません…。」


 ルーの突撃訪問と電撃宣言、ルーも無法に慌てるルルさん、そして電撃宣言に驚く俺とダグ、しかし流石長い年月を生きる長老は落ち着いた様子だ。


 「よいよい…、ルーや。シンキチ殿に本気でついていく気なのかい。」

 「いく!」


 「それは危険な所へ行くことになるかもしれんぞ。親や兄弟にもしばらくは会えんじゃろう。」

 「いい!シンキチといっしょがいい!」


 「そうかいそうかい。シンキチ殿はどうなのじゃ?この子を旅に同伴させても宜しいのか。」


 思ってもみなかった状況に思考があまり追いつかない。

 確かにルー良く懐いてくれて可愛く、里にいる間は妹のように接してきた。

 里を離れると決めた際もルーと別れるのは名残惜しいとも思っていたが、親兄弟のいるこの里にいる方が安心で安全なのは間違いないだろう。


 「シンキチ!ルーつれてって…。」


 ウルウルを小動物のような瞳で懇願されて、俺の心は負けてしまった。


 「長老やデイさんルルさん、ダグ達がいいならルーは責任を持って面倒見ますが…。」

 「わかった。儂もアレミア家の者が良いのならルーが里に出ることを許そう。」


 まさかの長老のOKが出てしまった。


 「というのもな。ルーが使えるようになった精霊魔法はこの里では他に儂とフオしか使えんのは知っておるな?しかし二人ともこの森から出たことがない故、儂らもウンディーネとシルフしか召喚()び出すことはできん。他の魔法を教えることは出来ても精霊魔法はこれ以上教えてやれることはないのじゃ。」


 たしかに精霊魔法は使う際、その土地に適した精霊しか召喚()び出せないとは聞いていたのでこの森ではウンディーネとシルフ以外は無理なのだろう。

 折角早くから頭角を現したのに、成長がストップするのは少しばかりもったいないのは分かる。


 「それにの、シンキチ殿程の実力があり心優しい者であれば安心してルーを任すこともできる。だが家族の問題もあるからの、親兄弟の許可が出たのならルーがシンキチ殿についていくことに儂は反対せん。」


 「わかった!ちょーろーありがとう!」


 そう言うとルーは長老の家を飛び出していき、お辞儀をしたルルさんも慌ててルーを追いかけていく。

開いた口のふさがらない俺とダグ。


 「あの様子ではデイもルルもダグ、お前も押し切られるじゃろうて…。シンキチ殿宜しく頼みますな。」

 「あ、はい。」


 「か、帰ろうかシンキチ。」

 「あぁ…。長老本当にお世話になりました。」


 「うむ、いつでもアリアドールに帰ってきてよいからの。」




 アレミア家に帰るとリビングの食事テーブルに四人が座っていった。


 「二人ともおかえり。ダグ、座りなさい。シンキチ君も掛けてくれるかな。」


 デイさんに促され、俺とダグもテーブルに掛ける。


 「まぁ、とりあえず長老の家での事は聞いたよ。ルーは本当にシンキチ君についていくつもりなのかい?」

 「…いく。」


 「シンキチ君はルーがついていくことに迷惑はないのかい?」

 「俺はアレミア家の人達には良くしてもらいましたから、皆さんが納得した上での事なら迷惑とかはないですよ。元々世界を見て回るだけの旅で明確な目的はありませんでしたし。」


 しかし女神との約束があるのでそこはルー達には話しておかないとな。


 「ただ、これからの旅で面倒事に巻き込まれたりするかもしれません。ルーの事は全力で守りますから大丈夫だとは思いますが、ただの平和な旅で終わらないかもしれません。」


 「シンキチ君が言うように本当に危険と隣り合わせになるんだよ。それこそシルバーウルフの群れに襲われた時以上の危機もあるかもしれない。ルーはそれでもシンキチ君と一緒がいいのかい?」

 「…シンキチといっしょがいい。」


 「ルー。俺との旅は野宿もあるし、ご飯がしっかり食べれらない日もあるかもしれないよ?それにエルフだからという理由でルーが嫌な気持ちになることもあるかもしれない。」

 「大丈夫。」


 俺とルーの会話と一通り聞いたデイさんは大きく息を吐く。


 「ルーの決意は聞いたとおりだ。あとは家族全員がどう考えているかだが…。ダグとリムはどうだい?」

 「俺はシンキチならルーを守りながら旅するくらい問題ないと思う。ルーが行きたいなら行かせてやれば良いんじゃないかと俺は思う。」


 「あたしもルーがいなくなるのは寂しいけど、シンキチなら預けても大丈夫だと思うわ。」


 「母さんはどうだい?」

 「そうねぇ、危なっかしいから心配は心配なんだけど…。こんなに誰かに甘えるルーを見るのは初めてだし、なによりルー…好きな人の傍にいたいのでしょう?」


 そうルルさんが言うとルーは真っ赤な顔で頷いた。


 (え…そうなの??)


 「なら、母親として娘の恋心を応援してあげたいもの。」

 「そうか、シンキチ君私もルルと同じ気持ちだよ。ルーの事、宜しくお願いします。」


 そういってデイさんは頭を下げる。



 「わかりました。アレミア家の皆さんがそう仰るのなら、ルーは責任を持ってお預かりします。」


 最後はなんだか結婚報告をしに来たみたいな状況になった。

 アレミア家の人達が頭を下げる中、ふとルーを見ると両手を掲げ勝ち誇った顔をしていた。

 こうして、俺は旅にルーを同伴させることになった。




 翌日、アレミア家の人達や沢山の里の人に見送られて俺とルーはアリアドールを出ることになった。

 そこには俺が来た頃の怪訝な表情のエルフはもういない。


 「それじゃ、皆さんお世話になりました!」

 「ん、いってくる。」


 そういうとたくさんの声援を背に里を後にした。

 二人の首元には長老から貰ったおそろいの首飾りが掛かっている。




 「シンキチ。どこにいくの?」

 「元々はこの森を抜けたところにある村を目指していたんだ。その途中でルーに会ったんだよ。」


 「運命の出会い。」

 「あはは…。」


 (親戚の仲の良いお兄さんポジションなんだと思っていたけど…。こんなに小さくても心はもう立派な乙女なんだなぁ。)


 「女の子は小さな頃から女なんだって誰かが言ってたっけ…。」

 「そう、りっぱなれでぃ。」


 ルーもいることだから森での野営は極力避けたいな。早めに森を抜けよう。


 「ルー、一気に森を抜けようと思うから背中に乗ってくれるかな。」

 「ん、だっこ。」


 「よし〈縮地加速〉!」


 ルーを背負ったまま、森の中を一気にスキルを利用して一気に駆け抜けていく。


 「すごい。シンキチはやい。」

 「もうすぐ森が終わるみたいだね。」


 森を抜けるとそこは見渡す限りの草原地帯だった。

初執筆です。

確認はしていますが誤字脱字等ありましたら気軽に教えてください。

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