第036話「派遣勇者試される」
第一章【レグナ王国編】
第036話「派遣勇者試される」
「ここは研究所の職員が攻撃魔法等の練習に使用する訓練場です。」
そう案内されてきたのは研究所の入り口から一番奥に位置する場所で研究施設からは少しだけ離れている。もしもの為に訓練場は貴重な資料のある研究所から離れているのだろう。
「と言っても最近は研究からくるストレスをぶつける場所みたいになっているのですけれども…。」
説明するルードルの視線の先には先客の女性研究員が遠くに設置された的へ魔法を放っていた。しかし的を狙っているというより、とにかく闇雲に魔法を撃っているような感じだ。
彼女もストレス発散に来ているようだ。
「あの的もミスリル製で【魔法弱体化】の刻印がされているのでかなり丈夫なんです。という事であの的に魔法をぶつけてほしいのですが、シンキチ殿は何系の魔法が使えるのですか?」
(う~ん…。正直勇者専用魔法と精霊魔法以外なら大体の魔法は使えるけど、変に大きな力を見せて厄介ごとに巻き込まれたくはないし、ここは無難に行こう。)
「攻撃魔法はそれほどですね。バフ系とかの補助系がメインになります。」
「そうなのですか…。ちなみに攻撃魔法で得意な属性はありますか?」
「…。得意な属性も特にないのですよ。みんな中途半端な感じです。」
「なるほど…。それは五属性全てが少しだけ使えるという事でしょうか?」
「はい。皆かじった程度なんでそれほど凄い魔法は唱えられませんよ。」
俺の返答に対してルードルは少し考えた後に魔法のリクエストをしてきた。
「では五属性全ての魔法を一つずつ打ち込んでもらえますか?」
正直俺の魔法力はこの世界でもかなりの威力になる。魔法弱体化の刻印が入っているとはいえ俺の魔法を通常通り打ち込んでしまっては低級魔法でも的を破壊しかねない。俺は威力をしっかりとセーブして【火球】【水射撃】【石飛球】【雷撃】【疾風刃】の五属性の初級魔法をそれぞれ的へ撃ちこむ。
(よし!的も壊れてないし、皆も驚いたりしていないし成功だな!)
「ありがとうございます。どれも随分とスムーズに発動させられるんですね。これで補助系魔法も使えて剣技もできるとはシンキチ殿は素晴らしい技量の持ち主ですね。」
「まぁ旅を始める前は、鍛錬以外することもありませんでしたから。」
「そういえばシンキチ殿やお嬢さん方は何の目的があって旅をされているのですか?」
「俺は世界を見て回りたかったんです。まぁ…。観光ですね。」
俺が観光で旅をしている事、ルーとアルメイは己の見聞を広めるために、シロは困っている所を助けて一緒に同行している事なんかをざっくりと説明した。
「観光ですか…。なかなか珍しいですね。冒険者は依頼の為に遠方まで行くことがあると聞いたことはありますが、普通はホームを決めて活動すると聞いていたので。」
「我々の場合は色々な土地に行くことがメインで冒険者稼業は路銀稼ぎにやっているんです。ですから生粋の冒険者の方々とは少し事情が違いますね。」
そんな会話をしていると訓練場にルードルの研究室で挨拶を交わした平民出身の女性研究員がやってきてルードルに何やら話していた。
「シンキチ殿、大変申し訳ないのですが所長に呼ばれてしまいましたので今日はこの辺で失礼しなくてはならなくなりました。」
「いえいえ。それなら我々もそろそろお暇します。このような機会を作っていただいてありがとうございました。」
「いえいえ…。帰りもダックス達がご案内しますのでロビーで少しお待ちください。あと遺跡への護衛の件は日程が決まり次第こちらから使いを出してお知らせしますので。」
そう言ってルードルは足早に訓練場を後にした。
俺達も研究所のロビーで迎えを待ち、現れたダックス達に連れられて貴族街区を後にした。
次の日。
宿に昨日あった平民研究員の女性がやってきた。彼女はルードルの使いとしてきたのだろう。
さらにダックスと彼の相棒マイルも同行している。
昨日の今日でもう遺跡探索の日程が決まったのかと少し驚いていたが、どうやらそういう事ではないらしい。
「実は昨日主任が所長に呼び出されて、皆さんが護衛に就くに当たって研究員を守るに値するか騎士団との模擬戦で実力を示してほしいと言われたそうなんです…。」
「騎士団と模擬戦?」
「「「!?」」」
「大丈夫でしょうか…。」
「対人戦はやったことないもんねぇ…。」
「ひととたたかうの?」
女性研究員の模擬戦の話を聞いて三人娘たちは不安の色を隠せないでいた。
いままで対人戦闘を避けて魔物や獣だけを相手にしてきたのだから無理もない。
「今回の探索は研究員三名で私たちの研究チームの内の平民出身者で行く予定だったのですが、所長から主任も同行して調べるようにと指示があったんです。主任は侯爵家の出身ですから護衛にもそれなりの戦闘力が必要ということになって…。」
「それで騎士団との模擬戦で実力を把握すると言う事のなったのですね?」
「はい…。主任は皆さんなら大丈夫と進言したそうなのですが。」
(平民出身の研究員ならともかく貴族でしかも侯爵家のルードルが同行するとなるとぽっと出のしかもシルバーランク冒険者の俺達では心もとないと言うのが研究所の見解なのだろう。)
「それは仕方のない事ですね。我々が務まるかどうかは騎士団の方々に判断していただきましょう。」
そう言って俺達はまた貴族街区の今回はダックス達王国騎士団第三師団の駐屯所へ向かった。
「ここが我々王国騎士団第三師団の駐屯所になります。」
敷地の中へ入ると早速、模擬戦闘訓練をしている騎士団員達が目に留まる。確かにシルバーランク以下の冒険者と比べるとなかなか剣筋は良い。しかしずば抜けて凄いと言った感じではなかった。
兵舎と思われる建物の入り口にダックスを超える大柄な男が立っている。年齢は四十代位だろうか。見た目は年齢を感じるものの戦闘を重ねてきた者の独特の雰囲気を漂わせつつ、ダックスやルードルにはない風格を持ち合わせている。
「貴殿がシンキチ殿ですかな?私はジン・アルフォント・エストランテ、この王国騎士団第三師団の団長を務めております。」
「エストランテ様?」
(歳の離れた兄弟なのか?親にしては若い気もするな。)
「団長は私の叔父になるのです。」
「名前にエストランテと付いておりますが本家の嫡男であるダックスやルードルとは違い、私は分家の人間なのです。」
そういうとジンは「ガハハッ!」と笑う。
「今回は皆様の技量が侯爵家の者を守るに値する冒険者が見極めてほしいと魔導研究所の所長から依頼を受けましたのでね。皆様をお呼び立てしました。その辺りはダックスやそこの研究員のお嬢さんから聞いておりますかな。」
「えぇ。模擬戦闘で実力を測るを聞かされております。」
「ではこちらはいつでも準備は整っておりますのでシンキチ殿達の用意が整い次第始められますがいかがですかな?」
「大丈夫です。」
「ではこちらは実力に分けて三チーム用意しました。この三チームを全て打ち負かしていただければ、実力に問題なしという事で研究所には報告いたします。」
「それで、団長様に一つご提案がありまして…。」
「私の事はジンと呼んでいただいて結構!シンキチ殿。ご提案とはなんですかな?」
「ウチの三人娘は対人戦闘に向かない装備や攻撃方法なので私が皆さんのお相手を務めさせてもらうと言う事に出来ませんか?」
「「「えっ?」」」
俺の提案に三人ダックス、マイル、研究員の女性が驚く。
俺がこう提案したのはルーの精霊魔法もアルメイの銃もシロの爪での攻撃もかなり殺傷性がある上、模擬戦闘用の訓練武器の代用ができない。しかも今まで対人戦闘を避けてきていたので訓練用の手加減を出来ない可能性があったからだ。
いくら日々鍛えているとはいえお互いに大きな怪我があってはいけない。
(ここは何とか俺の実力を認めてもらって、それで話を通してもらいたい…。)
「ほう…。こちらは皆さんの人数に合わせて一チーム四人で編成しておりましたが、四対一でも構わないと言う事でしょうかな?」
驚く五人に対し、ジンは冷静な表情で質問してくる。
「大丈夫です。」
俺の一言で少しだけ空気がピリつく。
(まぁ、遠回しに俺一人でも十分といったようなもんだからな。舐められていると思われるのは仕方がない。それでもウチの子達に万一があったらマズイし、相手に大きな深手を負わせたいとも思わない。ここは多少怒らせてもなんとか切り抜けたいな。)
「こちらとしては皆さんが侯爵家の人間を守れる技量があるのかが分かれば問題ありませんから。我々の相手をシンキチ殿が一人で出来ると言うのであればそれを断る理由は王国騎士団にはございません。」
「我儘を聞いて下さり、ありがとうございます。私の準備はいつでもできております。」
「ではこちらへ。」
ジンやダックス達に連れられて俺達は模擬戦の会場へ向かった。




