第034話「派遣勇者と杭」
第一章【レグナ王国編】
第034話「派遣勇者と杭」
「…以上がこの度の王国領内での実験の報告でございます。」
「わかった。もう下がってよい…。」
「失礼致します。」
報告を終えた部下の一人が部屋を出て行ったことを確認し、男はフゥ…。と小さなため息をついた。
すると横に立っていた男が話しかけてくる。
「実験は概ね成功でございますな。」
「あぁ…。我が国での実験内容と大差ないからな。これでアレの力に偽りが無いことは十分分かった。」
「しかしながら、王国内で使用した物は回収し損ねたようですが宜しいのですか?王都の研究員の手に渡ったようですが…。」
「あれは一度使うと力を失ってしまう。使用済みの物が王国に渡った所で我が国との繋がりも分からぬ様になっておる。さほど問題もあるまい。仮にアレがどのようなものか判明したとしても、我々にも複製出来ないものなのだ。我が国より魔法技術の劣る王国には再現は不可能だろう。」
「確かにそうでございますな。」
「在庫はまだ大量にあるのだ。アレの有効活用が出来れば我が国の軍事力は大幅に上がる。ダダラムス、将軍には予定通り魔従軍の編成を指示するのだ。」
「畏まりました陛下…。」
ダダラムスが部屋を出て行く。
「古代文明の力か…。」
陛下と呼ばれた男は禍々しい力のゆらめく杭をほくそ笑みながら眺めていた。
「それではナック、頼んだぞ!」
「あぁ!アンダーソンさんの頼みだ!最優先で作らせてもらうよ!」
そう言ってナックと呼ばれた鍛冶屋の親父さんはアンダーソンに親指を立てた。
「奴の腕前なら銃と鋼鉄製の爪の作成にはそれほど時間も掛かるまい。出来上がったらお主たちの宿に使いを出すからな。その時はウチに来てくれ。」
そう言ってアンダーソンは帰っていった。
「俺達も今日の所は宿に帰ろうか。」
「そうだね。」
「皆さんありがとうございました。」
「おなかへった~。」
俺達が宿に戻ると、宿の前に人だかりが出来ている。
「なんだ?なんかあったのか?」
「なんか宿の前に凄い人が集まってるね…。」
「あっ副団長!あの方々ではないですか?」
「ん!そうだ!シンキチ殿!」
人だかりの中心からこちらへ歩いてきたのはオートランドで会った金色兄弟の大柄な弟ダックスだった。相変わらず身に着けた白い鎧とその独特な気品が一般街区で浮きまくっている。
(これだけ場違いな男が宿屋の前に立っていたら人だかりもできるか…。)
「お久しぶりですダックス殿。」
「いえ、こちらこそお久しぶりです。先日はご協力ありがとうございました。」
「もしかして私達を探されていたのですか?」
「えぇ、兄からシンキチ殿を研究所までお迎えに上がるよう頼まれました。」
「よく我々が到着してここに宿を取っていることが分かりましたね。」
「兄の書簡を持った旅人が王都へ入ったことは門番から報告を受けましたので。皆さんの宿は憲兵に調べさせたらすぐにわかりました。青年に少女三人の旅人というのは特徴的ですから。」
「はわ~。凄いですね…。」
「シンキチ悪いこと出来ないね。」
「いや…。しないから。」
「それでルードルさんのいる研究所にはいつお伺いすればいいでしょう?」
「シンキチ殿達のご都合さえ良ければ明日にでも、と兄から。」
「では明日お伺いしましょう。」
「では我々が明日の午前にまたお迎えに上がります。」
「いえいえ!そこまでしてもらわなくても…。」
「いえ!兄から言われた以上、最後まで職務を全うさせていただきます!」
頼まれたとはいえ騎士団の副団長で貴族の子弟である人物に迎えに来させるのは悪いと思ったのだがあっさりと断られてしまった。
(見た目通りなかなかお堅い人の様だ。というか真面目なんだろうな。)
「副団長の理由はともかくとしてですね、王都魔導研究所は貴族街区内にありますので我々が同伴しないと関所を通ることが出来ず中へ入れませんので…。」
そう付け加えてきたのはダックスの横にいた同じく白い鎧の細身の男だ。
「ご挨拶が遅れました。私は副団長と同じく王国騎士団第三師団所属のマイル・クック・フギーと申します。こちらとしても皆様を明日お迎えに上がったほうが何かと都合が良いので、我々の迎えを待っていていただけませんか。」
「確かにそうでしたね。そういう事でしたら明日お待ちしております。」
「ご理解痛み入ります。それではまた明日。副団長行きますよ。」
「あ、あぁ。それではシンキチ殿また明日。」
(なかなか生真面目だが不器用な面の多そうなダックスを彼が支えているのだろうな。)
騎士団の二人は言伝を終えると颯爽と去っていった。
次の日、約束通り騎士団の二人が迎えに来たので俺達は一緒に一般街区と貴族街区の境目となる関所に向かった。
「それではここからは馬車に乗っていただきます。」
そう言われて馬車を見ると、用意されていた馬車は俺達が普段乗っている様なものではなく、貴族が乗るような装飾が施された馬車だった。
流石にこのタイプの馬車に乗るのは俺も初めてだ。俺だけでなくルー、アルメイ、シロの三人も乗り込んでソワソワしている。
豪華な馬車に揺られ貴族街の街並みを眺めていると、あることに気付く。
「なんか通りに通行人が全然いないです。」
「たしかに一般街区と違って活気がないね。」
「まぁ、貴族街区ですからね。貴族の移動は基本馬車が殆どですし、貴族は買い物に行くのではなく商人が品を持って訪ねる形が多いですから。このエリアで基本道を歩いているのは衛兵か貴族家に仕えている使用人くらいでしょうか。」
シロとアルメイの感想にクックが丁寧に答える。
「かべばっかり。」
「一つ一つの屋敷が大きい上に塀に囲まれているので風景があまり変わらないですね。」
「迷いそう…。」
「確かに土地勘がない者は迷ってしまうかもしれませんね。」
そんな他愛もない会話を騎士団の二人としながら馬車移動を楽しんでいると、目的の王都魔導研究所が見えてきた。貴族の屋敷が集まるエリアからは少し離れた場所に立てられていて豪華さこそないものの立派な建物である。
「着きましたよ。」
「ありがとうございます。」
「我々は皆さんを兄に引き合わせましたら一度失礼しますが、帰るときはまた同行させていただきます。」
「またよろしくお願いします。」
ダックス達にお礼を言って馬車を降りると今度はダックスの兄ルードルが迎えてくれていた。
「いやいや、シンキチ殿。来ていただきありがとうございます。」
「こちらこそ只の旅人である私達をご招待してくれてありがとうございます。」
「ま、立ち話もなんですから研究所の中へどうぞ。ご案内します。」
俺達はルードルに招かれ研究所に向かった。




