第032話「派遣勇者と王都レグナロッサ」
第一章【レグナ王国編】
第032話「派遣勇者と王都レグナロッサ」
「お久しぶりですねシンキチさん。」
真っ白な空間に人型の光が立っていて、俺に話しかけてくる。
「その声は、妹さんの方ですか?」
「そうです。私とこうやって接触出来るのは本当は勇者だけなんですけど、どうしてもシンキチさんにお伝えしておきたいことがありまして呼び掛けさせてもらいました。」
妹女神はそう言うと俺に一つの映像を見せてくる。
「これは先日オートランドという町でシンキチさんも目にしたものだと思います。」
「例の杭ですね?」
「そうです。これは魔物の成長を大きく狂わせる魔法道具なのです。この世界の歴史で言う所の古代文明時代に魔族の呪術者が生み出したものなのですが、古代文明の崩壊と共に失われた物なのです。」
「では、今回の一件は失われたはずの魔法道具が使われたということですね?」
「そうです。あれは古代における魔族と人間種の戦争の末期に半ば自滅に近い形で発明されました。結果使用された魔族や魔物は瞬間的な戦闘能力強化と引き換えに次々を命の炎を燃やし尽くしてしまい、結局戦争を継続できなくなった魔族に人間種が勝利することで戦争は終結しました。」
「では今回も魔族が?」
「いえ、どうやら使用しているのは人間のようなのです。私も世界の全てを同時に見れているわけではないのでどのような経緯でこれが生み出されたのか確認できてないのですが、使用に人間が関わっている事は確認できました。」
「私はあくまで世界のバランス保持の補助役なのでこの件に直接手は出せませんが、この杭が多数使用されるようになればまた多くの命が失われることになるでしょう。なんとかシンキチさんの方でも注意して頂けると助かります。」
「承知しましたが、このことは勇者には?」
俺の問いに対して妹女神の声色が若干変わる。
「昨日の晩にお伝えしましたが…。あまり期待は出来なそうです…。」
あまりこの件で勇者の活躍は期待できなさそうだ。この世界の勇者はどんな人物なのだろうか。
「そうですか。」
「率先して杭の乱用を止めるよう派手に活動したりは出来ないかもしれませんが、注意はしておきますよ。」
「お願いします。」
妹女神は俺の返答に少しだけ安堵したようだ。
「それではお時間を取らせてすいませんでした。宜しくお願いしますね…。」
光は遠のき、ハッと気が付く。
「シンキチ?」
「シンキチ大丈夫?なんかボーっとしてたけど。」
「あぁ大丈夫。なんかボーっとしちゃってたよ。」
「それじゃ、次行きましょうか。」
「そうだね。」
(魔物の生育を大きく狂わせる古代の魔法道具か…。魔族の発明品を今更人間種がなぜ…?)
その後博物館の展示を鑑賞しながら頭の片隅で考えてみるものの、結論が出ることもなかった。
二日間の観光を終えた俺達は、武器屋や防具屋さらに冒険者ギルド等が集まる通称【兵装区】と呼ばれる地区にやってきた。
俺達が利用している宿のある商業区と違い、冒険者や兵士達向けの店が立ち並び街中を行き交う人々も装備品を身に着けた人が非常に多い。
「ここが王都の冒険者ギルドみたいだね。」
「おっきいですね…。」
「レグナ王国の冒険者ギルドの本部だからね。」
中に入るとロビーもかなりの広さだ。今までのギルドはロビーに大きめの掲示板があって依頼が無造作に貼られていたものだが、ここではランク別に掲示板が用意されている。それだけ依頼と冒険者が多いということなのだろう。
「朝一の込み合う時間を避けたのにギルドにはこんなに冒険者がいるのか。」
「オカコットの朝一よりもいるんじゃない?」
(これ以上の冒険者達が依頼で食べていけるのか。冒険者は時に死と隣り合わせで依頼によっては高額な報酬があるとはいえこれは凄い事だな。)
俺達は受付に顔出しの挨拶をしてシルバーランクの掲示板を見に行く。冒険者が多いといってもランクの比重は他の町と変わらないようなので掲示板を見る人数が多いのはブロンズが非常に多い。現にシルバーの掲示板を見ている人は現状誰もいなかった。
「どれどれ~?やっぱり討伐系がメインって感じだね。」
「用心棒なんて依頼もありますよ!」
「やっぱり人が多いと強い冒険者の護衛っていう需要が多くなるのかもしれないね。」
「きょうはまもの、やっつける?」
「まぁ、一番無難なのは魔物討伐だろうからね。」
「どれがいいかな~。」
「そうだなぁ…。討伐後の素材を売る事と考えるとこのへんかな~。」
俺はリトルリザードの討伐依頼を掲示板から剥がして受付へ持っていく。
「これをお願いします。」
「わかりました。場所は分かりますか?」
「いや…。もしかして遠いんですか?」
「そこまで遠くはないですが、徒歩だと一時間位は掛かりますね。ここから一番近い北門から出てそのまま北へ進むと湖があります。そこがこのリトルリザードの生息地になりますね。」
「ありがとうございます。さぁみんな行こうか。」
(本当は標準サイズ以上のリザード系が一番素材も高額になってくるんだけど前衛のシロのレベルがもう少し上がってからの方がいいかもしれないし今回は小さめのリザードで様子を見ていくかな。)
という俺の心配をよそに目的地について討伐を始めるや否や、シロは破竹の勢いでリトルリザードを狩っていく。やはり獣人族の身体能力や戦闘能力はかなり高い。他の獣人族の戦闘を見たことがないがシロの能力が平均的なレベルなのだとしたら獣人族というのはかなり戦闘に特化した種族なのだろう。
王都での初依頼は非常に良い成果を出せたのだった。
ギルドへ戻って依頼達成の報告と報酬や素材の換金が終了し宿に戻る。夕食後久々の戦闘で疲れたのかシロはあっという間に寝てしまった。同じく久しぶりに魔力を消費したルーもベッドに座って舟を漕いでいる。
「ルー、お布団掛けて寝なさい。」
「ん。シンキチおやすみ…。」
二人が寝た後、アルメイが少し抑えた声で話しかけてきた。
「シンキチ、シロに装備買ってあげた方がいいかもね。」
「ん?」
「今までは持ち前の丈夫な爪と獣人のスキルで大丈夫だったみたいだけど、今日リトルリザードの討伐後にシロが少し自分の爪を見てる時があったんだよ。」
「そうなのか?」
「うん、一応リトルリザードにダメージは与えられてたけど今までの魔物より防御力が少し高めの相手だと上手くダメージが通らなくなってきてるのかもしれないね。」
「なるほどな。ただオートランドの武器屋でシロにダガーを持たせたときは本人もイマイチな感じだったからなぁ。」
シロが同行するようになってすぐ防具の購入とほぼ同時に武器も買ってあげようとしたのだが、シロの戦闘スタイルに合いそうなダガー系を試させた所、使いづらいということで購入を見送ったのだった。
「でも王都なら武器屋も多いし、色々な種類の武器がありそうだからダガー以外でシロに合う武器がないか見てあげようよ。」
「そうだな。爪が丈夫とはいえ、いつまでも素手っていうのもかわいそうだしな。」
「それじゃ、明日はまずシロが納得できそうな武器を探してあげようか。」
「うん。そうしてあげよ。」
「アルメイ。ありがとな。」
「…!い、いやいや!」
スヤスヤと眠るシロの横に座りながら顔を赤くして両手をブンブンと降って照れるアルメイ。アルメイもルーも俺の気付かない小さな変化によく気づいてくれることが多い。一人旅が長かった俺にとってこの二人の些細な気付きは本当に助けになる。
「じゃ、今日はこの辺で寝て明日の買い物に備えようか!」
「うん!」
博物館で妹女神に言われた不吉な杭の事などすっかりと頭の端に追いやられ、俺は明日シロがどんな武器を喜んで使ってくれるかを考えながら眠りについた。
初執筆作品です。
四、五日ペースで更新できるように頑張っています。
皆さんの暇つぶしになると良いなと思っております。
確認はしていますが誤字脱字等ありましたら気軽に教えてください。
評価点だけでも入れていただけると励みになります。




