夢に目覚める
平和ボケした箱庭の中で赴くがままにと生きるのはとても楽しくて、ついまぬけな笑顔を浮かべてしまう。
だけど、笑顔を浮かべてる全員が全員なんの悩みも無いわけ
じゃなくて。
むしろ、大小個人差に違いはあれど誰しもが悩みを抱えている。
将来、あるいは勉学、あるいは友人、あるいは家庭、あるいは病気、あるいは____恋のこと。
人の数だけ悩みがあってそれを真摯に受け止め解決しようと出来る人こそ物語の主人公なり得るのだろう。
____ならば、僕もこの奇妙な悩みと真正面から向き合えば主人公になれるのだろうか。
僕の真っ白に平和ボケしたこの青春に桃色の花びら一枚ぐらいは色をつけることができるだろうか。
だとしたら僕は17年間持ち上げようとさえかったこの重い重い腰を上げよう。
ほら、今日も夜がやってきた。
ほら、今日も目を瞑って夢を見よう。
そして僕は今日も眠る。
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目を開けるとまず目に入ったのは果てしなく続く地平線。いやこの場合は草平線なんて造語を用いてみようか。
終わりが見えない草原に目を凝らす。
現代日本では到底信じられない絶景に身を震わせる。
だけど驚きはしなかった。
感動こそすれど驚嘆の声をあげることはなく、まるでいつも通りのようにあたりを見渡した。
心地よく吹き抜ける風の匂い、暖かな日差し。見たこともない場所なのに懐かしさを感じるそんな春の陽気。
足元を見ると鮮やか黄緑の他にも小さな白や黄の花弁が可愛らしく咲いている。
「ねぇ○○、どうかな?花冠作ってみたんだけど」
不意にかけられた言葉に視線をあげる。
後ろからかけられた言葉だったけどやはり驚くことはなく、寧ろその女の子の声に安心している自分がいた。
「似合ってるよ」
白いワンピースに白い髪、白い肌に白い花弁の茎が編まれた花冠。
燦々と輝く太陽の光が少女の顔に影を作る。
だけれど分かる、正確には思い出せる。
整った鼻筋に薄い唇、くりっとした瞳。
童顔で可愛らしい少女は昔から僕の憧れだった。
「じゃあこれ、あげるね」
頭にのっている植物の編み物を僕の頭に飾ってくれる。
もう10歳だけど友達らしい友達なんて一人もいない僕に女の子からのプレゼントを貰った経験なんてあるわけなくて。
「いいよ……僕には似合わないし」
「違うの」
「違う?」
「プレゼントをしたいだけなの」
「なんで?」
「もう、あんまり遊べないかもしれないから」
「そっか」
「うん……」
少女は首を縦に降るとそのまま顔を上げなくなってしまった。
「じゃあこれあげる」
僕はボロボロの雑巾の様な服の懐から取り出したのは大きなルビーがあしらわれたペンダント。
「こ、こんな高そうなもの貰えないよ」
彼女は顔をあげ、その青みがかった紺色の瞳を大きく見開いて、しっかりと宝石を捉えている。
「これは死んだおじいちゃんからもらった」
「よけいに貰えないよっ!」
「違う、その時におじいちゃんが言ってた。『これはもし僕に好きな人が出来たら渡せ』って」
1分ほど経ってやっと言葉の意味を理解した白い髪のその子はそのきめ細やかな白い肌を朱色に染めて、僕の顔と宝石を交互に見つめる。
突然の告白に言葉を失った少女は口をぱくぱくと動かしたと思えば、今度は口角が上がってニマニマとにやけている。
だがすぐに笑顔は引きつりはじめ、何かに気づいたように……嫌な事を思い出してしまったかのように目を伏せた少女は、一度深呼吸をした。
「嬉しいよ、とっても、本当に。」
また、顔を上げた少女は笑って言う。心底嬉しそうに、幸せそうに目を細めて。
「じゃあ!」
「だけど」
聞き上手な女の子が僕の声を遮ってまで発した言葉はいつもより静かで少し寂しげだった。
「今の私はうんって言えないの。だからさ、大きくなったらまた私を迎えに来てよ」
真面目な顔で僕の目をしっかりと見据える彼女の目は嘘をついている様には見えなくて、何か覇気のようなものを感じた。
「うん」
言葉の意味はいまいち分からないけど、頷く僕。
「あのね、七年後の八月三十一日それがタイムリミットだから、それまでに私の所へ来て。」
「うん」
「それと多分剣の練習してると私に会いやすいかも」
「うん」
そう言って次々と念を押す。彼女の姿は、大切な日に忘れ物していないか自分の子供に確認する母親のようで、まるで成功してほしがっているようだった。。
ついには目元に大粒の涙をいっぱいに溜め込んでしまった。
さすがに泣いた女の子を前にすると、いつもはふてくされてる僕もあわあわ、おどおどと慌てる。
好きな人が泣いてるのは見たくなくて、顔を見ないで済むように彼女の背中に手を回した。
「えっ……?」
小さく耳元で漏れた彼女の声が愛おしくて、ほんの少し少女を抱きしめる両腕に力を入れる。
彼女は最初こそ体をこわばらせていたけれど段々と体の力を抜いてくれた。
「……ありがとう」
鼻水を啜って鼻声で言った彼女は結局ペンダントを受け取ってくれなかった。
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「んむぅ………」
機嫌が悪そうな声を上げながら寝ぼけなまこをうっすらとあける。
カーテンを開けると朝日が窓の隙間から差し込む。
咄嗟に日光を腕で遮る。
「今日から華のセブンティーンか……」
今日は四月六日、僕にとって高校二年生の始業式であり、誕生日。
パーティーでも開いてやりたい程におめでたいが、いかんせん両親も兄弟も友達がいないもので、生憎そんなに予定はない。
僕は両親がはやくに他界し、祖父や祖母その他様々な親戚方々の支援でくらしている。
そのおかげでどこかに遊びに行く事はあまり出来ないけれど自炊すれば生きていけるぐらいにはお金を貰えているし、バイトもしている。
そんな僕の朝は早く、現在は明朝五時。
慣れた手つきで掃除を終え次は朝ごはんとお弁当。
それも終え時間があれば筋トレか読書、そしてシャワーを浴び学校へ。
自分で言うのもなんだが、なかなか健康的で充実した良い朝だと思う。
「行ってきます。」
僕以外誰もいない家の中に話しかけ戸締りを確認して学校へ歩みを進める。
学校は徒歩圏内にあった国立の進学校____前命高等学校。
進学校とは言っても県内の進学校の偏差値序列で言えば下の方から数えた方がはやいタイプのいわゆる自称進学校だが。
学費と交通費で選んだのは言うまでもない。
歩くこと20分。無事学校に到着し、一年生の教室へ。
教室の中は何人かのクラスメイトがグループになって談笑をしている。
「またクラス一緒がいいね」「なんだかんだこのクラス楽しかったよね」「クラス離れてもまた遊ぼうね」などなど友達がいない俺には到底理解できない会話を繰り広げている。
それからはぽんぽんと行事が進んでいった。
よく分からない話を聞かされる始業式を終え、新しいクラスが発表され、教室に入り席につく。
周りの人たちは自分の居場所を確保すべく、コミュニケーションを取り始めている。
まあ、クラス替え直後に自分の席から動かずドストエフスキーを読み始める俺に話しかけるコミュ力お化けはこのクラスに存在しないらしく、独りでぱらりぱらりとページをめくっていく。
すると教室のドアが開き、私服姿の女性が入ってきた。
新しい担任のだろうその人は気だるげに教卓につく。
「はーい担任でーす。一年間よろしくねー。面倒なので問題だけは起こさないように。えーと、次は………………何言うんだっけ」
しばらく首を捻り、そうだと手を打つ。
「入ってきてー」
扉の方に話しかけるとこつこつと足音を鳴らして、スカートを揺らして、長い髪をたなびかせた一人の女子生徒が入ってきた。
そして僕達クラスメイトの方へ右足を軸にくるりと半回転して向き直る。
その顔を見て立ち上がる。
椅子が大きな音が鳴っていることも、周りの注目を集めている事も気付かずに立ち上がる。
整った鼻筋に薄い唇、くりっとした紺色の瞳。
それは十七年間見続けた女の子をまさかそんな女の子を見紛うことなんて無くて。
「リオナ……ちゃん………?」
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