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絶対遵守のお仕事です。

作者: 破月

連載中の話を止めて、何をやっているの?と指摘される事を判って、こんな話を載せて見ます。

――――(二次創作の)原稿逃避の産物です…。スミマセン…。

「お断りします」


カー様のご飯が食べれないから。

自分にとって、唯一無二で唯一絶対の必要事項を理由に断ったのに、周りは納得出来ないと言う表情で、そんなのが理由か?!と、尊いソレをまるで蔑ろにする発言に、ピクリと片方の眉がつり上がる。

…今、“そんな”って言った?その舌、根元から切り落とされたい…?

内心で反論し、軽く殺気混じりの眼差しを向ければ、慌てて顔を逸らしたお前。顔は覚えた。後で覚えてろ。


()()である。拒否権はない」

「お断りします」

「いや、皇の命令であって…」

「一日一食、カー様の食事が無ければ、私の本来の力は発揮されません。逆に足手纏いになるのが、必定。お断りします」


自分が同行する事で役に立てるならば、多少は考えはする。けれど、今回の命令内容は国から離れる長旅―しかも、終わる予定が未定と来た―。断る一択しか自分にはない。

騎士として仕える事になって覚えた作法に則った礼を、身に纏った鎧の重みを感じさせる事無く行い、自分の考えを口にする。

不敬?自分以外の命を預かるのであれば、自分の身の丈を把握し、実際行えるかを加味した上で結論を出すのは必要な事。

――最悪、カー様の食事が毎日一食食べれるならば、出来る仕事かもしれないが、まず無理。カー様の食事を一日以上食べないとか無理。死ぬ。精神も肉体も、両方とも死にますからね?

――と言うか、このメンバーに自分が入る必要ある?

真っ先に浮かんだ物は、コレだった。




事の始まりは、約半年ほど前。

自分が生まれ育ち騎士と言う職についたこの国は、世界地図の一か所に存在する大陸のほんの一欠片に描かれている。

その大陸は、まるで花弁の形を模したように、中央を座す国と、周りを五つの国が円形に囲っており。中央の国には“大陸の()”が座し、周りの国には“各々の国の()”が座していた。

世界地図の全体を目にすると、大陸は他にも幾つかあり、その一つがある日闇に覆われたのがキッカケだろう。

今まで見た事がない現象に、他の大陸も、そして私が居る大陸にも情報が伝播し、ソレについて情報交換の場を設ける事になったそうだ。

そして、色々調べた結果、別の大陸に似た事がかなり昔に起きたと言う。

ソレは、魔王。この世界の全ての負を厄災を受け、変異してしまった皇の事を指す。

何故、魔王は生まれるのか?

諸説は色々ある。けれど、既に述べたように、“世界の全ての負を厄災を受け”た者が魔王となる事。

それは即ち、自分たちに降りかかる厄災を代わりに担ってくれたと言う尊き方なのではないか?と自分は考えた。


「…キミの考え方は、独創的だね」

「そうですか?」

「うん。…私には、したくても出来ない」


カー様に自分の考えを述べた時。切なそうに微笑むのを目にし、軽く胸の奥が痛むのを感じてしまった。

自分の考えは必要が無い物と自粛しているようにも見えて、そんな事は無いと言いたいけれど、言えなかった。――今は、もう言える立場では無いから。

けれど、自分が言う分には構わないと言われ、自分は浮かぶだけ色々な考えを口にした。

その中には、賛同される物も有れば、否を言われる事もあったけれど、自分が話す度に微かでも表情を変えてくれるカー様を視れるのが自分には嬉しかったから。


補足するが、魔王の情報は上層部だけで留められている。

早計な判断で、国民―護る者―たちに不安を抱かせない為の処置だった。

自分が情報を得れたのは、自分はそれなりに高い位置の騎士に分類されるからだ。

毎日堅苦しい日々だけれども、カー様から与えられる食事があるから乗り切れる。

始まりは些細なキッカケだったけれど、ソレは今では自分の糧となっている。

ソレがあるからこそ、あったからこそ、今の自分が居ると過言ではない。


「大袈裟だなぁ」

「事実です」


キッパリと断言すれば、困ったように少しだけ眉尻を下げ、けれど口角だけは微かに上へと弧を描いている。照れていると、自分だけが判れば良い表情の変化に、自分のやる気はもっと上がる。

もっともっと頑張って、カー様の食事を食べれるようになる。

自分の目標は今はコレしかない。


「……その目標、低くない?」

「一食だけじゃ足りない時があるので、もっと食べたいです」

「――――」

「…?カー様?」

「あー…。うん。そう、だね…」


頑張って。と、続く言葉は顔を背けられて表情を確認する事が出来ずに終わった。残念。

ソレは、魔王の話が広がる前。穏やかな時だった頃の一幕。

そんな一幕は、魔王が他の大陸を侵略する行動を始めた事で自重しなくてはならなくなった。


過去の文献を、昔の旧世界の言葉で書かれた物を読み解くのに時間がかかったらしく、始めに魔王について情報を提供してくれた大陸から対処法の一つとして“異世界から勇者を呼ぶ”と言う物が有った。

勇者を呼ぶ…?勇者は、職業では無いのか??

自分の中にある知識では、勇者と言うのは、剣士もしくは戦士などの冒険者の上級職と認識している。

この世界にも少なからず存在する人達がいるのに、呼ぶ必要があるのだろうか?

生まれた疑問は、カー様によって直ぐに解決された。


「ポイントは、“異世界”」

「異世界…?」

「魔王は、この世界の負を担ってくれた。その負を払拭するには、同じ世界の人では、ただその役割を譲渡するだけで終わり、新しい魔王が生まれるだけでしかない」

「……」

「本当なら、自分たちの事だから自分たちで出来れば良いんだけど…。力不足の私たちでは、連鎖させるしか出来ない」


唯一出来るのは、勇者を支援する事だけ。

決めの一手となる物だけを勇者に一任して貰えれば、自分たちが手を出しても大丈夫なのだとカー様に教えて貰った。

色々ややこしいと思ったけれど、カー様に教えて貰えたことはすんなり頭に入った。

異世界の勇者さま。大変遺憾ではありますが、ご協力宜しくお願いします!

まだ見ぬ勇者に深々と礼を向けた。




そして、それから数ヶ月経過した頃。

勇者召喚の術を文献を読み解いた報告が寄せられ、各大陸が各々召喚の儀なる物を行った。

ソレは、初めての試みで。少しでも成功率を上げるための手段として、各大陸の皇の国で執り行われた。

――幸運かどうか判らないが、我が大陸に()勇者は召喚された。

他の国からも、勇者が召喚の儀に応じてくれたと続々知らせが届いた。

…コレで、この大陸も少しは落ち着くだろうか…?

自分は、魔王や勇者などの壮大な存在ではなく、大陸の一つに存在する国の一介の騎士でしかないから、かなりの苦難を感じさせるソレを一任させてしまう申し訳なさに、違う不安が生まれてしまう。

それは、思わずカー様から与えられる食事の手を鈍くさせる程だった。


「……心配?」

「ハイ…」

「私たちは、見るしか出来ないからね」

「…ハイ」

「――美味しくなかった?」

「ッ?!美味しい以外の一択は存在しません!」

「…良かった」

「……ぅ…」


ホッと安堵したように双眸を細めるカー様に、申し訳ない想いがズシズシと胸に圧し掛かる。

貴重な一食を無駄にする所だった…!

改めて、いただきます。と合掌して食事を再開する。

不安なのは仕方ない。けど、確かに見る事しか出来ないのが事実。もし、万が一、目の前で惨事が起きたとしても――。


「死を賭す直前までカー様のご飯を食べられるなら、悔いはありません!」

「……?世界の危機の話は?」

「え?私は、食材の心配をしていただけで」


カー様のご飯が食べれなくなるのが、心配なだけです。と、続けたら軽く瞠目された後、深々と溜息を吐かれてしまった。何か不敬な事をしてしまった…?!

フォークを持つ手を離しオロオロと狼狽してしまえば、小さく肩を震わせ始めている。


「…うん。キミらしい」

「??」

「まあ、良いや。おかわりは?」

「お願いします!」

「ハイ」


溜息を吐いていたのに、今ではクスクスと何処か楽し気に笑い声を溢すカー様に安堵する。不敬は免れたらしい。

そして、ふと気付く。最終的な手段だけど。


「食材が無ければ、自分が調達すれば良い?」

「……危険だから、止めようね?」

「えぇ…」

「狩りの仕方も、血抜きも、さばき方も知らないでしょう?」

「………」

「キミは、食べて人を護るのがお仕事」


はい。おかわり。と、先刻よりも多めに感じる食事に、頭は思考を放棄した。

食べるお仕事、大好きです…!




それから更に三月程経過して、勇者が大陸内を見聞と仲間を集めるために廻ると言う知らせが届き、我が国にも勇者が訪れるのかと漠然と思った頃。

王直々に自分を名指しで呼んでいると言う知らせが届き、謁見の間に訪れたのは、指定された翌日の事だった。

始め、何か勅命でも?と緊張した面持ちで玉座が置かれた階段の手前で腰を落とし、王が現れるのを待っていたら――やや少し遅れて現れた宰相から、何か訳の判らない事を言われ始めた。


勇者の仲間の一人として、かの地に赴き、魔王を倒す手助けを一任する――と。


そして、冒頭の自分の言葉に繋がる。断る一択しかない事を言われ、訳が判らない。

宰相殿、私の事知ってますよね?自分が、どうして断っているのか判っていますよね?

ジーッと、無言で視線を向ければ、気まずげに視線を背かれた。あ、逃げた。

こんなやり取りをしている中、王はまだ来ない。


代わりに、一度も見た事が無い人が声を掛けて来た。


「ぜひ、俺の仲間になってください」

「え?嫌です」


多分、この人が勇者なんだろうな。と、思って素直に答える。

薄い茶色の髪に、年齢は自分よりも少し幼く感じる、少年と青年を足して割ったような感じの雰囲気を纏った、軽装の鎧と不釣り合いな剣を持った人を目にし、頭を横に振る。

答えを返せば、笑いかけながら誘いの文句を告げた勇者が、ピタリと動きを止めた。

口元が引き攣っているように見えるので、ジーッと観察する。


「既に、騎士が存在するのに、何故、騎士()を誘われるのですか?」


そして、気になっている事を勇者に確認する。

移動してきた勇者の背後に見える、目にした事は無いけれど、それなりに貴意が高く感じる幾人の女性たちに一度視線を向ける。

そこには、剣士・術師(ウィッチ)聖教徒(シスター)・騎士・狩人(ハンター)と識別出来る称号を、場所は各々違う物の所持している面々が居た。

護衛と言う意味ならば、複数の騎士を所望するのは判る。

けど、ソレは戦えない人を護る為であり、全員が戦う術を持っているならば、さほど必要ではない筈。

持論を述べて勇者に訊ねれば、ぎこちなく顔を横に向けている。答えは無いのです?

まあ、そもそもカー様の食事が食べれない時点で断るだけなのですが。


「……余り、苛めたら駄目だよ?」


そんな問答をしている中。涼やかな、けれど威厳のある声が謁見の間に響き渡る。


「王」

「カー様」

「…えっ?!」


宰相、私の順でかけた呼び掛けに、最後のは、多分勇者と…蔑ろな発言をしたアレだろう。

自分が王の事をそう呼ぶのは、上層部の一部しか知らない事だから末端の方に分類するか、違う派閥の間者だろうか…。よし、後で〆よ(訊こ)う。


「勇者さま。遠路はるばる、お越し頂き、有難うございます」

「……え?…あ、いや…」


カー様のお言葉に、顔を赤めてしどろもどろになる勇者。

…多分、勘違いしてそうだ。言っておくが、カー様は男性だ。

見た目が中性的で、余り表情を変えないが、綺麗な所作や抑揚のない控えめな口調が女性的にも見せるが、れっきとした男性。勿論、アレも――。


「リィナ…?」


まるで、思考を読まれたように呼ばれる名に、ぴっ?!と体が跳ねる。不敬な事は考えてませんよ!?本当に!絶対に…!

――カー様こと、カイン・アナベリア・ハイドランジア様は、この国―ハイドランジア国―の王だ。

…と言っても、即位されて数年。先王からの予期せぬ早期の譲渡により、若干十四の歳で即位したカー様は、今年で御年十九歳の、この大陸で最年少の王様。

そして、自分が仕える唯一の王であり…私の糧となる食事をその手自ら振るって与えてくれる尊き御方でもある。


「支度が手間取り遅くなってしまいましたが、勇者さまをお出迎えする為に細やかながら食事の場を設けました。――話の続きは、其方で…」


宜しいでしょうか?と、珍しく嫋やかとハッキリと判断出来る笑みを見せるカー様に、勇者の顔面が崩壊しかけてる…!?

人間、ここまで表情を崩せるものなんだ…。と、感心して気付くのが遅れてしまったが……多分、カー様、怒ってる…?

……怒らせてないよね?自分…。

一抹の不安を覚えながら、宰相が代表として勇者たちを宴の間へと案内し始める。

自分も護衛の為に最後尾につこうとして、誰も居なくなった玉座の間の階段下に佇むカー様に呼び止められ振り向く。続いて手招きする姿に、首を傾げたままテコテコ近付く。

どうかされたのでしょうか?


「てい」

「あいた」


直ぐ傍まで来て、前振りも無く頭に縦一直線の手刀を当てられた。

力はさほど入っていない為、痛くは無いけれど反射的に痛みを訴える声が出てしまった。


「素直なのは、キミの美徳だけれど…。場所を考えてから発言しようね?」

「……?」

「此処は謁見の間なんだから、せめて『王の判断を』くらい言おうね?」

「…!…ハイ」


“皇”の命を“王”の判断なく断る事について叱られ、シュンと落ち込む。

場所が、王が司る場所(謁見の間)でもある以上、せめて儀礼的な発言をしなければならない事に今更気付き、更に落ち込む。

――――その様が、カインの目には、飼い主に叱られ打ちひしがれるぴるぴる震える子犬にしか見えず、ソレ以上の責めを与える事が出来なかったり、寧ろ、加護慾が生まれてすぐさま撫でたくなるのを必死に抑えるのが精一杯だったりするが、当人は気付かない。


「勇者の方は、私が何とかするから。キミは、何も気にしなくて良い」

「…カー様…」

「まあ、王自ら食事を作っているのがバレたのは、少し恥ずかしいけど」

「う…っ?!も、申し訳ありません…」

「宰相は、薄々気付いていたけど…仕方ないか」


胃袋を掴むためだし。と、ボソリと呟きながら、これ以上無いと言うほど落ち込む騎士―王直属の近衛騎士―もとい、幼馴染でもある彼女のリィナの頭をソッと撫でる。

…自分の為に、この地位の騎士まで駆け足のごとく実績を上げて担ってくれた彼女へ、数少ない出来る事の一つと考え、自分が叶えられる事は実現させ続けて来た。

――王になる前。まだ、お互い気兼ねなく会話をする事が叶っていた時。

面白半分で、城の料理長に頼んで作らせて貰ったサンドウィッチ―切って貰ったパンにバターを塗ってもらい、ただ具を挟むだけしか出来なった物―を、彼女が心底嬉しそうに美味しそうに食べる様を目にしてから――。


「キミは、()のご飯を食べて、この国の民を護るのが仕事」

「ハイ!絶対遵守のお仕事です!」


心の底から本心だと判る笑みと、不釣り合いな敬礼を目にし双眸を細める。

勇者さまには申し訳ないが、彼女は諦めてもらおう。

彼女の望みを叶えるのは、王はでない“自分”が出来る数少ない事だから。


撫でる手を名残惜し気に離し、勇者たちが待つ部屋へと二人並んで歩く。

人前では出来ない、肩を並べて歩く一時を堪能しながら、彼女に用意する食事の献立を考えながら、勇者へどう対応するか思案する王。

既に、勇者の事は頭の隅にも存在させず、今日はまだ食していない王の献立を楽しみに、今日も一日平和である事を願う女騎士。


――――その二人が、幼少の頃からの幼馴染であり、色々な関係で保留とはなっているが婚約者同士だったりするのは、ごく一部しか知らない。



設定は、ひそかに連載しているお話にリンクしている所も有ったり無かったりします。

即興なので、ざっくりなキャラ設定ですが――――部分的にモデルな感じのキャラは存在します(二次創作の方で、自分の中で作った設定が大きく出てますが…)


閲覧、有難うございました。

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