第16-5話 初めての依頼 その5
「くっ!」
右足を動かそうとするが、糸によって地面に縛り付けられたかのような状態になり、
引きはがす事が出来ない
魔獣が眼前に迫る
そして
魔獣の身体が横に数メートル吹き飛ぶ
ルシュが持っていた棒で魔獣を殴りつけていた
その勢いで魔獣は吹き飛び、ルシュの持っていた棒が折れる
「ルシュ、助かった!」
俺の言葉にルシュは頷く
「武器が…」
ルシュが呟く、先ほど魔獣を殴りつけた時に彼女の持っていた棒は折れてしまっていた
ルシュの攻撃で吹き飛びはしたが、あの頑丈で重そうな魔獣を吹き飛ばすだけの力に棒が耐えられなかった
魔獣は体勢を崩しているだけでまともなダメージを受けていないように見える
「異様な程頑丈だな、どうしたらいい…?」
魔獣が体勢を整え、こちらに向きなおす
俺は動けない、ルシュは武器が無い
あれと戦えるのはルシュだけだ
……そうか!
「ルシュ!」
俺はルシュに呼びかける
「何?」
ルシュは魔獣の様子を伺いながら俺に返事をする
「こい、棍棒!」
俺は鋼のメイスを呼び出し、ルシュの足元に投げる
「これでアイツを倒してくれ!」
ルシュの目が見開かれる
俺はこれまで呼び出した棍棒を他人に使わせたことは殆どない
単にその必要性が無かったからだが、ルシュもそれを使う発想は無かったようだ
棍棒は俺専用の物であると言う固定観念は恐ろしい
ルシュは鋼のメイスを拾い上げ、魔獣に向かって左に回り込みながら走る
力強く地を蹴るその姿に頼もしさを覚える
魔獣はルシュの方向を向き、糸を吐く
ルシュは右足を強く踏み込み、跳び、それを回避する
そこから着地したルシュは更に加速し、魔獣に肉薄
振り被った鋼のメイスを魔獣の頭部に叩き付けた
乾いた音が大きく響く
俺の力では弾かれてしまった魔獣の堅牢な殻もルシュの一撃には耐えられなかった様で、
殴られたその頭部は大きく窪む
更にルシュは横から頭部を殴りつけ、もう一つ大きな窪みを作る
その時点で既に決着は着いたも同然だった
ルシュは何度か魔獣を殴りつけ、魔獣が動かなくなった後
俺とオークの青年は何とか糸を取り除いて立ち上がった
「ありがとうございます、もう駄目かと思いました」
オークの青年が俺達に向かって頭を下げる
「無事で良かった」
俺の言葉にルシュも頷く
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オークの青年はマーテンに向かう途中だったので、これから帰路につく俺達と丁度行き先が一緒になっている
彼と一緒に林道を歩く
「マーテンに向かっていた途中で、いきなりあの魔獣に襲われてしまって」
オークの青年はぞっとした表情で話す
「あなた達が居なければどうなっていたことか、ありがとうございます」
「いや、間に合って良かったよ、でもあんな魔獣がいるなんてなぁ…」
俺達はガワ討伐の依頼を受けていたので、あの魔獣と戦う予定は無かった
「今回も助かったよ、いつもルシュには助けられてるな」
「そんな事ないよ、ヨウヘイの棍棒が無かったら私、素手で戦わなきゃならなかったもの」
俺の言葉にルシュは少しはにかむ
今回、俺は安易に魔獣に攻撃を仕掛けてしまったので、糸を受けて窮地に陥った
ルシュが居たから何とかなったものの、俺一人ではどうすることも出来なかっただろう
「これからはもっと慎重に行動しなきゃな…」
俺は誰に言うでもなく呟いた




