第15-5話 ギルド!
紹介された家から東に10分程度歩く
マーテンの中には小さな広場が複数あり、十字路や交差点の様な役割を果たしている様だ
そんな数ある広場の内の一つに出る
中央には二階建てで白い木製の少し大きめの建物があり、広場を囲むように建物が立ち並ぶ
その中には宿や道具屋もある
「ヨウヘイ、この建物がギルドみたい」
俺より数メートル前に出たルシュが中央の建物を指さしながら俺に話す
近づくと、建物の看板に「マーテン冒険者ギルド 東支部」と書かれていた
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ギルドに入ると、まずその内装が目に入る
白い外装とは流石に異なり、内部は茶色を基調とした木製のものになっている
テーブルが並べられたフロア、正面奥には受付らしきものが、受付の右側には飲食の注文カウンター
フロアの左奥には階段がある
受付と酒場が併設されている様だ
俺は役所みたいな様相を想像していたので、酒場のようになっているとは思っていなかった
そして中に居る冒険者達、人数は10人程度くらいだ
各々がテーブルを囲って談笑したり、依頼の貼り紙を眺めていたり
種族も様々でオーク、コボルト、オーガ等
腕に覚えのあるだろう面々だ
特に、右側の壁に持たれかかった男からはただならない空気が漂っている
浅黒い肌に青色の髪、背中には二本の剣を携え腕を組み目を閉じている
魔人だろうか
「登録は奥の受付なのかな…?」
ルシュが俺を見て話す
「行ってみようか」
奥にある受付に進む
途中、談笑していた冒険者達が俺たちに気付き視線を投げかけてくる
彼らの会話が止まる
人族がここに訪れるとは思っていなかった、そんな感じだろうか
右の壁に持たれかかった男を見ると、男は目を開きちらりとこちらを見て、再び目を閉じる
鋭い目つきが脳裏に残る
ルシュも周囲の様子を少し気にしているが、俺の隣に立ち、そのまま奥に歩みを進める
受付窓口の前に立つ
俺達に注目していた冒険者達は既に各々のやりたいことをやっており、俺達に対する興味を失っている様だ
受付に立っていた女性に声を掛けられる
「こんにちわ、お仕事のご依頼でしょうか?」
女性は黒い肌に金色のショートヘアー、少しツリ目気味で気が強そうに見える
また長い耳が特徴的だ
魔人かと思ったが、ダークエルフだ、街中でも何人かは見ている
女性も珍しさからか、俺とルシュの様子をまじまじと見ていた
「いえ、冒険者の登録をお願いしたくて」
意外だったのか俺の言葉を聞いて女性は少し驚いた表情になる
「そうでしたか、では奥へどうぞ」
俺とルシュは女性に奥の部屋に通された
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登録は先ほどのダークエルフの女性と、腕っぷしの良さそうなコボルトのおじさんが担当だった
ダークエルフの女性はモア・リンダール
コボルトのおじさんはヨアキム・ベルマンと名乗った
手続きは簡単なものだった
過去に犯罪を犯したことはないかの質問、マーテンや周辺の街の手配書を持ってきてそれらとの見比べを行った
幸い人族は珍しいので、何かしていればすぐに分かるだろうと言う事だったので、
調べるまでもないと言いながら一応建前だからという事で軽く照会を行った
ルシュも魔人の少女の犯罪者等はそういるものではないので、こちらもスムーズに進んだ
それが終わると冒険者として最低限の心構えを説明される
犯罪をするなとか、揉め事は起こすなとかそういった内容だった
また依頼を受けたければ張り紙や、受付で尋ねてくれと説明される
そんなこんなで比較的速やかに進行できた冒険者登録だが、
一つだけ問題があった
登録時に自分の名前を記入する際、ルシュは自分の名前が記入できたが、俺は自分の名前を記入することが出来なかった
読めるが書けない、これまで書くことが無かったので俺は戸惑ったが、
ルシュが俺の名前の書き方を教えてくれたので事なきを得た
モアさん曰く、文字の読み書きが出来ない者は人族も魔族も多く珍しくないらしい
その場合は、受付の方が教えてくれるのだとか
少なくとも文字の書きについては課題が出来た、ルシュに教えてもらった方が良いかも知れない
…情けない話ではあるが
最終的には料金を支払い、それと引き換えに冒険者の登録証を手渡される
登録証は金属製のタグの様で、模様と文字が彫られている
模様はマーテンを示すもので、文字は識別用IDの様なものらしい
紛失すると再発行には40ラント必要とのことなので、無くさないように注意しなければならない
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登録が終わり、今日は一先ず戻る事にした
冒険者達は俺たちの姿を見ると傍に寄って来る
「お前らも冒険者になるのか、これからよろしくな!」
とフレンドリーに話しかけられる
彼らと軽い会話をして、出口に向かうと
先ほどの魔人の男が口を開く
「新たな冒険者か」
彼の言葉が聞こえた俺とルシュは立ち止まる
「冒険者は過酷だ、だが力さえあれば選択肢は増えるだろう」
「…?」
ルシュが不思議そうな顔で男を見ている
先ほど俺達と会話していた冒険者達がざわつく
「まさかあの男に目を付けられるとは……」
俺は男のただならぬ空気に言葉が出なかった
男は更に続ける
「強くなれば、私の様に困難な仕事も多くこなし、報酬を得ることも思いのままだろう」
「バルドーさん今週ガワの退治しかやってませんよ~」
受付のモアさんがすかさず声を掛ける
「フッ…
そうだったな、依頼には出ていない強力な魔獣の討伐を行っていたからな…」
鋭い瞳を閉じ、男は話を続ける
「流石バルドーだ、裏でそんな事をしていたなんて」
周囲の冒険者達が再びざわつく
「だが油断は禁物だ、人族の青年、人族の少女よ、精進する事だな…」
「私は魔人だよ?」
アステノの外では魔人と言う事で通しているルシュが自身の耳を指差して男に話しかける
男は依然ただならぬ雰囲気を漂わせていた




