第13-3話 予兆 その3
村長の家の中、居間に俺と村長、そしてテオックとルシュがテーブルを囲んで座っている
テーブルの上には村長がお茶を淹れてくれたカップが置かれている
「……と言う訳です」
三人に対して俺がこの世界の人間では無い事、死んでから奇妙な女性の案内でこの世界に来たこと
その際に棍棒を出せる能力を得た事を話した
この場に村長だけではなく、テオックとルシュが居る事に関しては、
俺自身が二人に話をしない事はフェアじゃないと思ったからだ
テオックは俺がこの世界に来て最初に出会い、最も世話になっている男で、
ルシュは俺がきっかけで村人達と交流を取る事になり、これまでの事から他人ではないと感じていたからだ
「……そうですか、分かりました」
神妙な面持ちで俺の話を聞いていた村長が頷く
テオックとルシュは俺の話の途中から呆気に取られた表情をしていた
「ごめんな、ルシュ、記憶喪失仲間だって言うのは嘘だったんだ」
俺はルシュに謝る、少なくともルシュが俺に対して打ち解けていたのは
この要素があるからだと俺は思っていた
「ううん、ヨウヘイには記憶があって良かった」
ルシュの返事は優しい口調だった
逆に俺が気遣われてしまった
……ここでルシュは別に俺が記憶喪失であるかどうかなんて大事ではなかったと気がつく
「ありがとう、ルシュ」
俺の言葉にルシュが少し俯く、落ち込んでいるのではなく照れ隠しの様だ
「イセカイって何だ?どういう事だ?」
テオックが呟く
「いや、こことは違う世界の事だけど…」
テオックの頭にはハテナマークが浮かんでいる事が分かる
世界と言う言葉のニュアンスが分かっていない様だ
「世界とはデュコウやレインウィリスの様な国よりも、大陸よりも大きなものです。
異世界は私達の居る世界とは違う、常識が通じない場所があるの。
例えば、魔族が存在しない場所、とか…」
村長が捕捉する
「そうなのか?
お前の居たセカイには魔族はいないのか?」
テオックが俺に尋ねる
村長の例えをストレートにそのまま受け取った様だ
だが、その例えは正しい
「うん、俺の居た世界には文明があるのは人族…人間しかいないよ」
「ほえ~そうなのか…」
良く分かってなさそうな顔をしているが、一応納得してくれた様だ
「ヨウヘイ、話をしてくださってありがとうございます。
貴方が危険な存在ではないと知る事も出来ました」
村長が俺に向かって話をする
「いえ、俺もこれまで黙っていた身なので」
「その棍棒出すのも魔法じゃなかったんだなあ、
何か村長の魔法とは違うなとは思ってんだけど」
「でも棍棒呼び出せるのはかっこいい…!」
しみじみ話すテオックと目を光らせるルシュ
……少しだけ話をした後、村長が切り出す
「ヨウヘイ、貴方が出会ったその女性が何者かは…」
こちらの様子を伺うように尋ねられる
「すみません、俺にも一体何者かは分かりませんでした」
俺の脳裏に赤い髪のスーツ姿の女性が浮かぶ
彼女は自分が何者かは名乗らなかった、ただあんな事が出来るのは只者ではないだろう
村長も少し考える様な仕草を見せる
「神様かも知れませんが…
精霊の広場に居たとの事なので、精霊様かも知れませんね」
村長にもはっきりとは分からない様だ
「でも精霊様?に選ばれて来たのなら、何かこう、使命みたいなものは無いのか?」
テオックに不意に疑問を投げかけられる
使命…?
これまで考えた事無かった
あの女の人の口ぶりから何かをしろ、みたいな言葉は出てこなかったが……
「まあ俺はお前が来てくれてから毎日楽しいから、それで良いと思ってるけどな」
考え込んでいた俺を見かねてかテオックが声を掛けてくれた
「私達皆がそう思ってます。
ここアステノが貴方の故郷だと思ってください、勿論ルシュも」
柄にも無く言葉に詰まってしまった
「貴方が異世界から来た事については、誰にも口外しないようにしましょう。
村人なら知られても大丈夫ですが、言いふらさない様に、
特に村の外には絶対にこの話が出ないように」
俺が異世界の人間なら
それだけでトラブルに巻き込まれる可能性は十分にあるか
これまでその点を考えた事は無かった
俺達三人は頷く
「でもお前の居たセカイには何があったのか興味があるな、折角だから教えてくれないか?」
ここから暫く俺の世界の話をする事になった




