第13話 予兆
ある晴れた日
正午を過ぎた頃、俺は村の果樹園に居た
俺はベンチに腰掛け、その隣には村長が座っていた
俺とテオックは日頃の仕事で一緒に行動する事が多いが、
ルシュが加わった事でルシュを世話している村長と会う事も多くなった
今日は果樹園の果物の採取を行い、採り終えたので後はゆっくり過ごすだけだ
向こう側ではテオックがルシュと遊んでいる
逃げるルシュをテオックが追いかけているようだ
俺ではルシュの足には追いつく事は出来ないので、テオックくらいでなければ
ルシュの遊び相手は務まらないだろう
二人の様子を村長は優しい瞳で見ている
俺もその様子を微笑ましく感じる
「ルシュもすっかり馴染みましたね」
村長が向こうの二人を見ながら話す
「そうですね、ルシュが良い子で良かった」
親目線みたいな事を話してしまった
最初ルシュは大人しい印象だったが、今こうして見ると中々無邪気な面もある
彼女の無垢な所がこうやって村人達に受け入れられたのだろう
「いや、俺の事も受け入れてくれたからな…それくらいは当然かもしれない」
向こう側ではテオックが勢い余って転び、ルシュがそれに追いついて背中の上に飛び乗っている
「あらあら、今日も洗濯物が多くなりそうね」
少し困った顔をしながら村長が笑う
平和だ
そう強く感じる
最初は自分の事で精一杯だったが、最近は順応したのか少しだけ周囲を見る余裕が出来てきた
このアステノの村では時間がゆっくり流れている
マーテンは賑やかな地方都市と言った印象だ
俺はこの世界に来てアステノと、マーテンの一部しか知らない
リユードさんが教えてくれた
この世界には俺が知らない物が沢山ある、元居た世界にも無かった物が
……数分、いや十数分だろうか、物思いに耽っていた
「ヨウヘイ」
村長に話しかけられる
村長の目線はルシュとテオックに向けられたままだ
「なんですか?」
少し間を空けてから村長が話す
「あなたは、記憶喪失ではありませんね?」




