第12-9話 村長と魔獣退治 その2
それから程なくして、森の奥から葉のこすれる音と羽音が入り混じった音が聞こえ始めてきた
「ヨウヘイ、ルシュ、注意してください」
村長の言葉に
俺は鉄のメイスを、ルシュは集落で借りてきた木製の棍棒を構える
森の奥から複数の影が見える
見る見る内に俺達と距離を詰める
現れたグアンプの集団はパッと見ても20匹はいる
グアンプ達はすぐに突っ込んでくる事は無く、俺達と一定の距離を保った状態になっている
「正面は私が引き受けます、ヨウヘイとルシュは回り込んできたグアンプをお願いします」
村長の言葉に俺とルシュは頷く
そして、村長が右手を前に出し指差すと、グアンプが地面に落ちる
「あれは…!?」
村長の指先から白い何かが撃ち出されていた
正面にいるグアンプ達を貫き、次々と地面に落としている
撃ち出されている物が氷のつぶてである事に気付くのにそう時間は掛からなかった
何故なら、村長の周囲が急激に冷え、白い冷気が目視出来る程に漂っていたからだ
これがこの世界に来て初めて目にした魔法だ
隣を見るとルシュも俺と同じ様に村長を見ていた
俺は村長を避けて回りこむグアンプを見て我に返る
「ルシュ、来るぞ!」
「う、うん!」
俺の言葉にルシュも我に返り、迎撃体勢を取る
村長の背中を俺とルシュの二人で守る
右は俺が、左はルシュが受け持ち、俺とルシュは背中合わせになる
数匹のグアンプが俺の前に現れる
一匹がこちらに近づいてきたので、こちらも踏み込み鉄のメイスを振りかぶる
「食らえっ!」
俺の振り下ろしたメイスがグアンプを捉える
メイス越しに硬い感触の後に柔らかいものを押している様な何とも言えない感触が腕を伝う
そのままグアンプを地面に叩き付ける
倒しきれたかどうか確認する余裕も無く、他のグアンプの様子を確認する
もう一匹が近づいてきていた
アゴをカチカチと鳴らして威嚇している
俺は体勢を立て直し横薙ぎにメイスを振る
…が、メイスは空を薙ぐ
グアンプが上昇しメイスを躱したのだ
「くっ!」
グアンプはそのまま近づいてきて、俺の左腕に噛み付く
「ぐうっ!」
俺の左腕にグアンプのアゴが食い込む
メイスを持った右腕をそのまま振り上げ、噛み付いてきたグアンプを殴りつける
グアンプは吹き飛び、木の幹にぶつかって落ちる
すかさず近づき思い切り殴りつけてトドメを刺す
「いってえ…」
左腕を見るが、グアンプのアゴは服を貫通した様子はなく、
非常に強い力で挟まれた状態になっていたようだ
服は無事でも出血しているのは間違いないだろうが…
この服がピウリが魔獣との戦いに耐えうると言ったのは本当だったようだ
まだまだグアンプはいる、さっきは躱されてしまったが、グアンプの動きはそこまで速くない
とにかく近づいてきた奴から落ち着いて対処しよう
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グアンプは次から次へと沸いて来るかのように現れる
俺はあの後グアンプに体当たりされたりもしながら何とか数匹を仕留めた
振り回した右腕に疲労を感じる
左腕を始め身体の節々に痛みを感じる
携帯している傷薬を飲む
ある程度は外傷にも効果があるので、ラズボードの時を除いても
これまで何度もお世話になっている
ルシュは最初は浮くグアンプに手を焼いていたが、
棍棒の届く範囲に入れば確実に仕留め、浮いているグアンプも投石で落とす
高い身体能力が成せる業だろう
「ルシュ、大丈夫か?」
「うん、まだ大丈夫…」
肩で息をしていて疲労している事が分かる
長期戦は不利か…
不意に俺の前に一匹グアンプが飛んできたので、メイスを思い切り叩き付ける
グアンプの感触を気持ち悪く感じる余裕は無い
グアンプを倒してから村長の方向を見ると、村長の魔法を掻い潜った一匹のグアンプが村長に向かう
「村長、危ない!」
ここからでは間に合わない…!
村長の目の前にまで迫ったグアンプが、真っ二つになって地面に落ちる
何が起こったのか分からなかったが、村長の腕に青白い剣が握られていた
「氷…?」
村長は俺に振り返り告げる
「ありがとうヨウヘイ、私は大丈夫です。
後少しなので頑張りましょう」
振り向いた後ろから迫るグアンプを氷の剣で両断し、前に向きなおす
氷の剣を手放し、再び魔法を使用する
氷のつぶてでグアンプを迎撃し、風の魔法で吹き飛ばす
両腕からそれぞれ魔法を放っている
俺達よりも圧倒的に多くのグアンプを相手にしている村長だが
危なげなくグアンプに対処している
村長は特に疲労している様子は無く、淡々と処理している、そんな印象を受けた
「おかしい、少し数が多いわね、二人とも無理しないでください」
暫く戦い続け、グアンプの数が目に見えて減ってきた
俺とルシュの周りにはそれぞれ十数匹のグアンプが、村長の前にはおびただしい数のグアンプの死骸が転がっていた
「流石にそろそろ出てくるでしょう」
村長の言葉に俺とルシュは前方を見る
前方からは大きな羽音とともに、体長1メートルはあろうひときわ大きなグアンプが姿を見せる
周囲には数匹のグアンプが付き従うように飛んでいる
「まるで女王蜂だな…」
「クイーン、これを倒せばグアンプの繁殖は止まります。
後一息です」
村長の隣に立ち、俺とルシュは武器を握り締めてグアンプクイーンを見据える
グアンプクイーンが取り巻きとともに俺達に向かって飛んできた




