第8-3話 竜族
声が出なかった
夜空を仰ぎ見る少女の横顔から目が離せなかった
少女の赤い瞳が俺を捉える
彼女はこちらに向き直し口を開く
「あなたは?」
その声で我に返る
「あ、ああ、俺はヨウヘイ、君は?」
少女から警戒心、敵意は感じない
ただこちらの様子を伺っている様だ
「ルシュ」
少女が短く呟く
「ルシュって言うんだな、宜しく」
一気にまくし立てると警戒される恐れもある
今はゆっくり話をする事が正解だと思った
一拍置いてから少女が頷く
黙ってこちらを見ている少女を改めて眺める
幼い顔立ち、歳の頃としては12~13歳くらいだろうか
薄緑色に輝く髪はセミロングで少しクセっ毛になっている
耳の先が少し尖っている事を除けばどう見ても人間だ
だが彼女の上に空いている大穴はとてもこの少女の体格で出来る様な大きさではない
屋根が相当脆くなっていなければ
視線を戻し服装を見る
服は少し厚手の布の様な衣を身に纏っている
そして彼女の周りには空になった木製の器が幾つも転がっている事に気付いた
「食べ物くれたからお礼を言いたかったんだけど…」
俺の視線に気付いたのだろう、少女は少し黙った後、言葉を続ける
「誰も近づいてこないから…
ありがとう」
奇しくも何もしていない俺が村人の代表者になってしまったが、
説明しても意味はないだろう
少女の雰囲気が柔らかくなった気がする、少しだけ打ち解けたと思うのは自惚れかも知れない
「君は竜族、だよな?
どうしてこの村に?」
「竜族…多分、そう。
ここに来た…分からない、気付いたらここにいたから…」
「本物の記憶喪失か……」
静寂だった世界に虫と鳥の鳴き声が戻ってきた
やかましい程に聴こえる音だが、とても静かな夜だと思った