第44-3話 英雄 その3
「英雄ゴッズはレインウィリスの小さな町、サスティの出身だと聞いています」
ゴッズの銅像の前に座った状態で俺とルシュはラグアンの話を聞いていた
「ゴッズが明確に公の場に姿を現したとされる中で、それが事実とされている回数は、6回です」
ラグアンの言葉を聞いた瞬間、
伝説とされた英雄が姿を現した回数が、たったそれだけとは、どういう事なんだ…
と俺の心の中で疑問がわく
俺の表情で察したのか、ラグアンが続ける
「内3回が人族と魔族の戦争の最中、
ここ国境より遥か北東にある大平原での合戦が最初、次がこの国境、
後は魔族の国であるデュコウの王都バラオム
そして彼は誰一人殺める事無く戦争を終結させた」
「一人も殺めなかった…」
ゴッズは和平の英雄と言われていたのは知っている
だが誰一人として殺めていないというのは初耳だった
そんなことが可能なのだろうか
「にわかには信じがたい話です。
ですが、400年前の出来事、人族にとっては遠い過去の話でも妖精族や魔族には当事者も居ます。
彼らにとっても決して短い時間ではないですが、記録としても残っています」
ラグアンの言葉に俺は納得せざるを得なかった
頷く俺を横目に、ルシュが口を開いた
「凄く強かったんだよね?」
ルシュの言葉にラグアンは銅像に視線を送り、話す
「どれだけの戦士、魔術師、大群の兵を相手でも全くものともしなかったそうだ。
ゴッズは自らが傷つくことも無く、また誰も傷つける事も無く全ての戦いを収めた」
ルシュが少し思案顔になる
「収めた…勝利ではなく?」
俺の言葉にラグアンは頷く
「ええ、争いそのものを無くしたそうです。
彼の力の前にはあらゆるものが無力だったと伝えられています」
「信じられない」
ルシュがはっきりと言った
俺はゴッズがどういう人物かは知らないが、ゴッズの比較として自然にとある人物が浮かんでいた
魔将ロウザン
ルシュもきっと彼の事が頭に浮かんでいただろう
凄まじい実力を持つ伝説の将軍、ゴッズと生きた時代が異なる戦士だが
彼の様なイメージを浮かべたら殺めないどころか傷つける事が無かったとは到底信じられなかった
ルシュの言葉にラグアンは苦笑いする
「まあ、俺もゴッズの足取りを追いながらそんなことあり得るのかなって思ったけれど、
それを成し遂げたから英雄なのかなって思ってるよ」
そう言ってラグアンはルシュの剣を見る
「とても使い込まれてる立派な剣だ、お二人は俺が思ってるより困難な経験をしてきてると思います。
ゴッズも言葉だけでは簡単に成し遂げた様に伝わってるけど、きっと試練があったんじゃないかって俺は思います」
「ゴッズが6回姿を現したのはあくまで確実な話というだけで、
彼の逸話はあちこちに転がってるんですよね、ほとんど眉唾ものですが」
と付け加えた
俺たちが初めてゴッズの名を知った洞窟探索で見つかったものも結局は彼のものじゃなかった
そういう話がゴロゴロあるという事か、これほど謎の多い人物なら尾ひれもつくか
「ゴッズは戦争が終わった後にレインウィリスの港町に現れた三つ首の竜族を撃退した話があるから余計にそういった話が出来るんだろうなって思います」
戦争中が3回、残り3回の内の1回にそんな出来事が
「竜族…!?」
俺が勢いよく尋ねたのでラグアンは少し驚きながらも
「海から現れた竜族らしいけど、三つ首の竜族はそれ以降どの国にも現れた記録が無いらしいです。
破壊の権化ともいう位には恐ろしい存在だったとだけ記されてましたよ」
魔族の国ならまだしも人族の国での400年は流石に長い、当時のレインウィリスは人族が大多数だっただけに正確な記録はもう残っていない様だった
ルシュに関する情報になるかもしれないと思ったが、流石に時間が経ちすぎてるし関連は薄そうだ
「そうですか…」
少し落胆する俺、そしてルシュはそこまで気にしている様子ではなかった
そうこうしていると、
「あ、そろそろ許可証発行時間だ!
俺はそろそろ行きますね」
そう言ってラグアンは急いで立ち上がった
「あ、はい」
俺は唐突な事に呆気に取られて大した返事が出来なかった
「ゴッズの話ありがとう」
ルシュがラグアンに声をかけると、彼は微笑む
「どういたしまして、あなた方の旅の無事を祈ってます」
「俺達もラグアンさんの旅の無事を祈ってます」
そういって慌ただしくかけていくラグアンの後ろ姿を見送った
……
入国手続き所へ入るラグアン
手続き所の中が少し騒がしかった
待合室の旅人たちの会話に耳を傾けると、どうやらデュコウに現れた伝説の将軍を負かした旅人がレインウィリスに入国したらしい
人族の青年と魔族の少女の二人組、魔族の少女の手にある大きな灰色の剣が特徴的らしい
「まさかあの二人が…?」
ラグアンは窓の外にあるゴッズの像の方向を見て呟いた




