第41話 棍棒の冒険者
「イルン、俺とルシュは旅に出ようと思ってるんだ」
村長とテオック達がアステノへと戻った数日後、
俺とルシュはイルンに旅立つ旨を伝えた
いつもなら夕食後の歓談の時間
俺の言葉に唖然とするイルン
「で、出て行ってしまうんですか…?」
イルンは困惑した表情で俺達を見る
「私が何か悪い事しちゃったとか…」
イルンの目が潤んできている
それを見て俺が慌てて話す
「いや、違うんだよ、イルン。
俺達が元々旅に出るから、そのためにマーテンで冒険者をしてるって話はしたよね?」
俺達はこれまでイルンと過ごす中でどういった経緯でマーテンで冒険者をしているかの話はしていた
俺の言葉にイルンは頷く
「だから、そろそろ旅に出ても良い頃間と思ったんだ。
力を付けてきた、と思う」
実際俺は分からない、けれどルシュに関しては間違いない
俺の言葉にルシュが頷く
イルンは狼狽えたままだ
「私も、私も行きます…」
イルンの声には戸惑いが強い
「イルン、君は冒険者になれるか?」
俺は出来る限り落ち着いた声で話しかける
俺の言葉にイルンはハッとした表情を見せて俯く
「冒険者は危険だ、俺達はまだこのマーテンくらいでしか仕事をしてないけれど、
それでも何度も危険な目に遭ってきた。
それを分かった上で旅に出るつもりなんだ」
一呼吸置く
「君は、そうじゃないだろう?」
イルンを俺達に付き合わせる訳にはいかない
これはルシュと話し合って決めた事だ、決めるのは彼女自身である事も
「このお家はイルンが使ってくれて大丈夫、追い出したりしないから」
ルシュが付け加える
これも一緒に決めた事だ、一人で住むには余りにも広い屋敷だが…
イルンは顔を上げて俺達を見る
「もちろん、ずっと居なきゃならないなんて言わない、君に任せようと思ってるんだ」
イルンは暫く考えていたが、やがてこの屋敷に残り、マーテンで仕事を続ける事を選んだ
「ごめんね…」
ルシュの言葉にイルンは少し寂しそうに微笑んだ
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「と言う事なんだ」
「なるほどねー」
俺の言葉にピウリは相槌を打った
イルンにそろそろ旅に出る話をした次の日
俺達はピウリに相談していた
「そういう事なら任せてよ。アタシ達がイルンの事見てるからさー。
お屋敷へも時々様子を見に行くよー」
ピウリはいつもの調子で返事をする
「助かるよ」
俺の言葉にピウリは笑う
「イルンにはいつも助けて貰ってるし、君達にも凄くお世話になったからねー」
と言った
「イルンだけじゃなく、俺達が旅に出た後の屋敷については心配してたんだ」
イルンがどうするかは彼女自身が決める事、もしも屋敷にいる事が彼女のプレッシャーになるなら、屋敷に住み続ける事を強いるつもりは無かった
ただ、どちらにしても屋敷自体を空けてしまう事は気がかりだった
「あー、領主様から頂いたお屋敷だからねー…
でもまあ、問題ないんじゃないかなー」
とピウリは言った
「問題ない?」
ルシュの言葉にピウリは頷く
「君達のお家はそれそのものがランドマークとしてマーテンのシンボルになってるからねー
手放すことは許されないかもだけど、多分手入れは領主様がしてくれると思うよ。
多分だけどねー」
ピウリの言葉にルシュは首を傾げる
俺もあんまり意味が分からなかったが、兎に角俺達の家そのものが領主様にとって価値があると言う事か
「まあそういう事だからあんまり気にしなくていいよ。
でもまたマーテンに戻ってきてよね」
ピウリはカウンターに両肘をつき、足をパタパタと上下に動かす
「ウチもイルンとクーシが来てくれて人手が増えてさ、店番も任せられるし、
その内店舗を増やそうとか思ったりしてるんだけど、イルンが居てくれるととても助かるからねー
彼女の事はアタシからも色々とフォローしておくよー」
ピウリは笑顔で俺達に言った
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ピウリの店で話をしてから数日後
「行くんですね…」
イルンが寂しそうに俺達を見る
旅に出る当日、荷物を持った俺達をイルンが見る
「うん」
ルシュが頷く
「私、ここにいますから、また帰ってきてください」
イルンの言葉に次は俺が頷く
「俺達は、もっと強くなってまた戻って来るよ」
「ビッグになってくる」
俺とルシュの言葉にイルンは微笑む
「もしアステノからそんちょ…メラニーさんやテオックが来ることがあったらイルンさえ良かったら泊めてあげて欲しいんだ」
「勿論です…!」
俺の言葉にイルンは頷く」
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
俺とルシュはイルンに見送られ、家を出た