第40-8話 懐かしさと予兆 その8
僅かな間の静寂
村長は俺の目をまっすぐに見つめていた
そして口を開いた
「…そうですね、貴方だけが全てを話して私が話していない事は対等ではありませんね」
と言った
「ですが…竜族の言葉を話せる事については…お話する事が出来ません。
これは約束、いえ、誓いですから」
村長は申し訳なそうに話した
「いえ、そう言う事なら…」
俺も興味本位が強い質問だった、ルシュの無くした記憶に関係している可能性はあるが、
村長はそう考えていない様にも見える
無理に聞き出す必要はないだろう
「ですが、私が何者であるかについてはお話出来ます」
と村長が続けた
俺は思考を止めて村長の次の言葉を待つ
「私はアラントアという国の魔術師でした。
アラントアは魔族の国で、隣国であるメトラという人族の国と緊張状態にありました」
俺は村長の言葉を黙って聞く
村長が魔術師であったという事には何の違和感も無かった
「今の魔族と人族の諍いが収まったのは人族の英雄、ゴッズの働きによるデュコウとレインウィリスの和解からですが、
私の居た国、アラントアとメトラはそれとは別の形で争いが終結しました」
「別の形…?」
俺は疑問を口にする、
そして村長は頷いた
「竜族です」
村長の口から飛び出したのは意外な言葉だった
「竜族…!」
ルシュの様な存在が居たのか、だから…?
「一口に竜族と言っても様々な者が居ます、私達魔族と同じようなものです。
私達が相対した竜族は狂暴で、理性はありませんでした。
ただ破壊と略奪を行う存在でした」
少し間を置いて村長は口を開く
「アラントア、メトラどちらも大きな被害を受けました、村を焼かれ、食料を奪われ、破壊された砦もありました。
最早、アラントアとメトラは互いに争っている場合では無かったのです」
村長の言葉で何となく見えてきた
「竜族が共通の敵になった…」
俺の言葉に村長は頷く
「成り行きの共同戦線でした、決して短くはない期間の戦いでした。
そして竜族を撃退したころには既に両国間の争いは無くなっていました」
「勿論、全ての諍いが消えた訳ではありません、ですが疲弊した両国に戦いを続ける力はなく、また共に戦った事で
仲間意識すら持っていた者も少なくありませんでした」
そうして両国は和解した、ゴッズの働きとは別の場所、形で
「村長はその時に戦っていたと…」
俺の言葉に村長は頷く
「竜族はワイバーンとも呼ばれる大きな翼をもつ者達でした。
ルシュとは異なる姿をしていましたが、その力は強大で、私達は死に物狂いで戦いました」
そして、戦い抜いたのか…
だからそれだけの実力が
「その中で竜族の言葉を…?」
我ながら馬鹿な質問だと思って口にした
さっき村長はそれは話せないと言った、つまり
「いいえ、その事とは直接的な繋がりは無い所の出来事です。
ですが、理由については…ごめんなさい」
当然の反応である
「いえ、こちらこそつい…」
その言葉に村長は微笑む
「私はアラントアの魔術師としての任を終え、旅に出ました。
魔族、人族の国、様々な場所を見て回りました、そこで辿り着いたのが、アステノです」
旅、かつてリユードさんも言っていた、俺も旅に出ようと思ったきっかけだ
村長も、同じ事をしていたのか
「アステノの方々に触れ、私はここで暮らしたいと思ったのです。
そして気付いたら村長になっていました」
そう言って微笑む、大人の妖艶さを持つ村長だが、その表情はなんとなく少女っぽく見えた
「ヨウヘイ」
村長が俺を見つめる
「アステノに、いえ、マーテンでも良いです、今からでも留まって頂けませんか?」
彼女はそう俺に告げた