第40-5話 懐かしさと予兆 その5
一瞬の出来事だった
立ち上がった村長が両手をイルンに突き出す
そしてイルンの周囲に氷の輪が出現した
直後
「待ってメラニー!」
ルシュがイルンの前に立つ
そして村長を見つめる
「えっ?あれっ…」
と言ってから、やってしまったと顔を青ざめるテオック
少し悲しそうな眼をするルシュ
真剣な表情の村長
立ち尽くすイルン
「ルシュ…」
村長はルシュの様子を見て腕を下げる
直後、イルンの周囲に出現していた氷の輪が砕け消滅した
「イルン…」
ルシュは後ろにいるイルンに目を向ける
「えっ…えっと…」
イルンはただただ困惑している、その瞳に恐怖は無いように感じられた
…
ルシュは言葉に詰まり、ただイルンを見る
今、動くべきは
俺はイルンの傍に寄る
「イルン、今まで黙っててごめん」
俺はイルンに話しかけた
……
「ルシュさんは竜族…だったんですね」
再び全員椅子に座り、落ち着いた状態になっていた
村長はいつもの温和な表情に戻っていた
さっきの時は一瞬目つきが別人のようになっていたように感じられる
テオックはしまったという表情のままだった
「ごめんなさい、イルン、私…」
ルシュは申し訳なさそうにイルンに謝る、伏し目がちだ
「私が口止めしていたのです、ルシュの事、許してください。
そして、先ほどは手荒な真似をしたこと、お詫びします」
村長はイルンに頭を下げる
その様子にイルンは慌てて手を振る
「いえっ、そんなっ!
その…驚きましたけど…その…
ルシュさんはとても優しいし、可愛いし、まだ実感が…」
とイルンが話す
「いつかは話さなきゃって…でも私は黙ってた。
イルンの事、友達だと思ってたのに」
ルシュは伏し目のままだ
「イルン、俺も君に何も言わなかった。
ごめん」
俺はイルンに対して詫びた所で何が出来る訳でも無いが、詫びるしか無かった
イルンは立ち上がり、ルシュの傍まで歩く
「私…でも、ルシュさんにはこのお家に連れてきて貰って、今もとっても楽しくて幸せなんです。
竜族…は確かに怖い存在だって伝え聞いてますけど、ルシュさんは…違います!
メラニーさんが口止めしてたって理由も分かります、私も、ルシュさんの事友達だと思ってます!」
イルンは力強く言い、ルシュの手を握った
その言葉にルシュは顔を上げる
「イルン…ありがとう!」
ルシュがイルンに抱き着く
そんなルシュの頭を撫でるイルン
この様子にさっきまで息が詰まったような顔をしていたテオックがはぁ~と息を吐く
「何にせよ一見落着で良かったよ」
その言葉を聞いて村長が
「そうですね、ここはイルンさんに免じて、お説教は無しにしましょう」
とニコリと笑って言い
再びテオックの顔は引きつるのであった