第39-4話 ガリュエヌのこれから その2
……
夕食の準備が整い
食堂で俺達はテーブルを囲った
俺とルシュが隣り合い
向かいにアネイルとイルンが並んでいる
イルンと三人で並ぶのも何だかおかしな気がしたのでこういう並びになっている
「美味しい…」
料理に舌鼓を打つアネイル
その様子をイルンは嬉しそうだが少し恥ずかしそうに見る
ずっと俺とルシュは二人でこうやって食事をしてきたので、
イルンが加わった事でより明るく賑やかになり
こうやって客人が来ることで更に賑やかになった
俺達はアネイルと近況について話をしていた
「投影の水晶で少しだけガリュエヌのトゥスさんとお話したんだけど、
それはもう大喜びしていたわ」
アネイルが王都に居た時の話をしてくれる
「後日手紙が届いたんだけど、おじい様がガリュエヌに戻るまで、
私に代理の領主になってほしいと書かれていて少し困ったわね」
アネイルが笑いながら話す
以前領主の館で話をしていた時、彼女はそんなつもりはない、と言っていた
彼女自身、立場や適性などの面からそうするつもりはないのだろうと思っていたが
ロウザン将軍から信頼を得ていたコボルトの文官、トゥスは仮にロウザン将軍が戻らなければ
アネイルに領主となる様に働きかけていたのではないかと思った
彼はロウザン将軍、レーゼンダル家に心酔…崇拝…は言い過ぎか、強く信頼している様だ
きっとガリュエヌに行った後のアネイルは苦労する事になるだろう
「私は取り敢えず剣を生かせたら…と思ってるから、トゥスさんに音頭を取っていてもらいたいわね。
その辺りはガリュエヌに行った後の話になるかしら」
アネイルはそう言って少し困った様に笑う
俺が3杯目のお茶を飲んだ辺りで少し場を静寂が包む
全員が一息ついたと言う感じだ
……
そんな中、アネイルが俺達に尋ねてきた
「貴方達は、これからもマーテンで冒険者をしていくのよね?」
なんて事はない、何となくの質問
その言葉に俺とルシュは一瞬固まった
「…どうしたの?」
アネイルが不思議そうな顔で俺達を見る
「今のところは…という感じでしょうか」
俺はなんとか言葉を絞り出す
その様子を見て、アネイルはそう…と言いそれ以上何も言わなかった
何かしら彼女としても思う所があったのかもしれない
食事を終えてからも暫く談笑を続け、
すっかり夜も更けてきた
「長くお邪魔してしまったわね。
今日はたのしかったわ、ありがとう。
私は宿に戻るわね」
立ち上がったアネイルが俺達に話す
「泊まって行かないの?」
ルシュがアネイルに尋ねる
そのルシュを見て彼女は申し訳なさそうに笑う
「ごめんなさい、荷物が宿にあるからね」
アネイルの言葉に残念そうな表情を浮かべるルシュ
「今度マーテンに来るときは折角だから泊めて頂こうかしら」
アネイルの言葉にルシュは嬉しそうに頷いた
……
家の門前にて
「宿まで送りますよ」
俺の言葉にアネイルは笑って軽く手を振る
「ふふ、大丈夫よ、マーテンはとても治安が良いし、一応護身用の武器も持ってるから」
そう言って腰に掛けた短剣の柄を俺達に見せる
貴婦人がナイフを忍ばせているといった様相でなんだか不思議な魅力を感じた
「そうですか、それなら、お気をつけて。
また会いましょう」
「またね」
「またお越しください」
俺達のそれぞれの見送りの言葉に彼女は笑って手を振り、街灯の届かない闇の奥へと消えていった
……
それから数日後、ガリュエヌの暫定領主として
ロウザン将軍の孫であるアネイル・レーゼンダルが
ロウザン将軍が戻るまでの間の代理で一時的に統治すると言うニュースをピウリから聞くのであった