第6-3話 唐突な出会い その3
「もしかして…迷った?」
あれから数時間後、俺は周辺には広めで手入れされた庭、大きな家が立ち並ぶ住宅地の中にいた
住宅のその後ろには大きな壁が立ち並び、囲まれていた
今俺がいるのはマーテンの中心部の壁の内側
所謂貴族街と言われている地区だ
迷ったと言っても、適当にうろついて壁の中を通っている大通りにさえ出てしまえば
容易に抜け出すことは出来るので、実際はそこまで困った状況ではない
ただ入り組んだ住宅地の中に入り込んでしまったので、適当に歩いて抜け出そうにも少し時間が掛かりそうだ
周囲を見渡す、鳥のさえずりが聴こえる
大通りや市場の喧騒が嘘であるかのように静まり返った空気だ
まるでこの場所だけ隔絶された空間の様に感じる
とても居心地が良い
とは言えこの住宅地にいつまでも一人でうろうろしている訳にはいかないので、
取り敢えず大通りを探して住宅地を歩き続ける
少し歩いていると、とある住宅地の庭に一人の魔族が座っている姿が見えた
庭に置かれた椅子に腰掛け、目を閉じている
俺がその人物を視認してすぐ、その魔族が目を開く
肌は灰色で、白い長髪で長いひげを蓄えている
この世界に来てから初めて見る種族だ
その人物はこちらに気付いていた
俺がその家を通り過ぎようとすると、
「そこの人族の旅人よ」
と魔族に声を掛けられた
正直声を掛けられるとは思わなかったので思わず挙動不審になってしまった
「な、なんでしょう?」
「もし時間があるなら、少しこの老いぼれの話相手になってくれないかね?
こうしていても退屈でね」
かなり貫禄があると思ったが、どうやら魔族の老人の様だ
良く見ると肌に六角形の様な模様?がある
急いでいた訳でもないし、
この町の住民なら話をした後で大通りへの道を聞けば良いか
「ええ、俺で良ければ」
「ありがとう、ここではなんだ
中に入りたまえ」
招かれるまま、俺は老人の家に入った




