第38-2話 訪問…者?
新たな住居に移り住んだ後の俺達は
気持ち新たに生活を始めていた
とは言え、身の丈に合わない仕事は受けない
それは幾ら大仰な二つ名を呼ばれるようになった後も変わらない
最初は各地から俺達の姿を見ようと来る者達もいたが
熱が引くようにそれらも無くなり
いつもの日常へと戻っていた
そんなある日
その日は仕事をしない休息日だった
俺とルシュは一緒に行動する事が多いが、この日は珍しく
ルシュとは別々に買い出しに出ていた
マーテンの暮らしにも慣れている
新しい家の周囲の地理も既に頭に入っているので迷う事はない
俺達は分担して食事や日用品などを買う為に外に出ていた
……
あらかた必要なものを袋に詰め、俺は家に戻ってきた
すると
何だか見慣れない背中が見える
…これまでも俺達の顔を見る為だけに訪れる物好きは居たが、少し様子が違う様だ
その背中の後ろにわずかにルシュの髪が見える
そしてその背中からこちらに顔を横に出し、ルシュは俺に手を振ってきた
俺の姿は見えてなかったと思うが、流石ルシュ、気付くなぁ…などと思いながら俺はルシュと謎の人物の元へ向かった
……
俺が近づく間、その背中は振りむいた
少し傷んだ服を身にまとった…
獣の耳の様なものが生えている、創作物によくいる獣人ってやつか?
いや、この世界で獣人と言う存在は聞いた事が無い、多分魔族だ
その姿は少し褐色気味の肌、赤みがかった髪の女性だった
いや、少女と言った方が良いか?
見た目としては16,17歳程度の様に見える
彼女は焦った表情をしてわたわたとした様子で近付く俺の様子を見ていた
「ヨウヘイ、この子が住む場所が無くて困ってるから、連れてきた」
ルシュが非常に端的に説明してくれた
曰く、街中で途方に暮れていた彼女を見かけ、家に部屋があるからと声を掛けて連れてきたらしい
どうしたものか…と俺は考える
「どうしたの、ヨウヘイ?」
ルシュは不思議そうな顔でこちらを見る
…ルシュは優しい
困った人を見捨てられない、とても良い子だ
だが、寝る場所に困るというのはこの世界では残念ながら珍しいものではない
それでも生きていかなければならないのだ
この調子で誰も彼も連れてくると大変な事になる
とはいえ、俺自身この世界に来てテオックやアステノの皆に助けられた身だ、
同じように誰かが困っていたら手を差し伸べよう
「あの…やっぱり…ごめんなさい」
少女はそう言って慌てて立ち去ろうとする
「待ってくれ、今日くらいはゆっくりしていってくれないか?」
俺の言葉に彼女は驚きの表情する
そしてルシュは少し嬉しそうな顔をした
「さあ、俺達の家にどうぞ」
俺は彼女に手招きする
「まずお風呂はいろうね」
ルシュが少女に声を掛けた
頭を下げ、慌てた様子で俺達の元へ小走りしてくる赤髪の少女
謎の少女、この少女の存在が吉と出るか凶と出るか、俺には分からなかったが、
それでもこの考えを誤っていたと思いたくなかった