第37-4話 そしてまさかの報酬
冒険者証が実力者のそれへと変化し、1万ラントという大金を手にしてから数日後
朝早く、俺達の自宅に訪問者が訪れた
ドアをノックする音
俺達の家に訪れる者はあまり多くない
日用品が足りなくなりそうな時にタイミングよく訪れるピウリくらいだろうか
しかしこんな早朝には…
まだ部屋着の状態のまま、俺は扉を開ける
そこには身なりの良いオークの男が立っていた
「ヨウヘイ様ですね、領主バリューからの使いです。
お時間宜しいでしょうか」
と彼は話しかけてきた
……
俺とルシュは急いで着替え、彼と話をする
彼は領主の家紋を俺達に見せ、身分の証明を行った
名前はクラッタードと名乗った
領主からの褒章の準備が出来たとの事で、付いてきてほしいと言われた
そして……
「こ、これは…」
俺達の前に立つのは2階建ての洋館
余りにも立派な造りの建物だ
場所は貴族街の一角、少なくとも俺達の様な冒険者には不釣り合いな場所だ
呆気に取られて立ち尽くす俺と様子がいまいち呑み込めていないルシュ
「領主様からの褒章はこれらの『家』となります。
領主様がマーテン内に所持する幾つかの家の中から選んで頂けますと幸いです」
クラッタードが言った
「な、なるほど…」
気圧される俺と、なんか嬉しそうな表情をするルシュ
「幾つかって事は他にもあるの?」
ルシュの言葉にクラッタードは笑顔になる
「もちろんでございます、一通りご案内致しますので、御選び下さい」
そう言って俺達を連れて行った
……
俺達が回ったのは主に貴族街の中の家だった
いずれも空き家で、手入れだけは怠っていないとの事だった
豪邸と言っても良さそうな大きな家から少し小さめの屋敷と言うくらいのものまで
幾つもの家があった
いずれも庭があり、落ち着いた雰囲気があった
豪邸はぱっと見は良いと思えたが、明らかに広すぎる
と言うか貰えると言う事は俺達が住む訳で
広ければ良い、と言う訳ではない気がする
後は貴族街にはあまり馴染みが無いのもあるが、中には高級な家具、宝飾店以外は店が少なく、
買い物やギルドに対してのアクセスはそこまで良くない場所が多い
家を見に行くたびにワクワクした様子のルシュ
俺も浮足立っていたが、デメリットの事も頭から離れなかった
俺達の借りていた家は『冒険者をする上での立地』は決して悪く無かったのだ
5軒目を見た後、クラッタードは俺達に声を掛ける
「壁の内側の建物はこれだけになりますが、お気に召したものはあるでしょうか?」
彼の言葉に、俺達は少し考える
「どの家も良かった」
ルシュの正直な回答、彼女は悩んでいる様だった
「ルシュ」
俺の言葉に彼女が俺を見る
「どうしたの?」
俺に尋ねてくるルシュ
俺はルシュに考えていた各所アクセスのメリットデメリットについて話をする
俺の言葉にルシュは納得したようだった
「確かに…」
と言い考える様子のルシュ
俺達のやり取りを見たクラッタードは
「やはり貴方方はとても良い冒険者ですね、貴族街の外にも領主様の所有する物件はあります。
ご案内します」
と言った
クラッタード、いや、領主は俺達に貴族街のある家を敢えて紹介したかったが、俺達があくまで「冒険者」としての活動を続ける事も考えていた様だ
そして案内されたのは貴族街から少しだけ北西に出た場所にあるマーテンの一角
少し高い塀に囲まれた、広い庭を持つ家だった
基本的に家が密集しているマーテンだが、こうやって敷地の広い家は貴族街の外にもいくつかある
この家もその中の一つだ
「この家はどうでしょうか?」
クラッタードが俺達に話しかける
今の住居からは少し移動するが、それでも各所へのアクセスは良い
マーテン内の大きな通りへのアクセスが良い分、こちらの方が移動そのものはしやすいかもしれない
庭はかなり広いが、建物は平屋だった
建物自体はそれなりに大きく、俺達二人で暮らすには明らかに広いが、
1階建てなので広すぎる、と言う事はない
建物の中も内見する
多少の調度品があり、豪華すぎない感じだ
俺達が扱うには少々高級品に感じるが…
これまで見た家もこの辺りは大差なかった
どの家を選んだとしてもこの辺りは変わらないだろう
家の構造は玄関(少々狭いエントランスホール)
奥に応接室、更に奥にキッチン
キッチンから左右は家主用の部屋と浴室に通じる通路
玄関の左右は通路があり、客室と物置等々
様々な用途に使用可能な部屋があり、機能性も十分だと思った
「ここ、いいね」
ルシュはこの家を気に入った様だ
俺もこの家を気に入った、住みやすいと感じた
「ここにしたいです」
俺の言葉にクラッタードは笑顔になる
「承知しました、ではこの物件をお渡しできるように準備致します。
数日お待ちください、またご連絡致します」
そう言ってクラッタードは領主の屋敷へと戻っていった
こうして俺達はまさかの報酬を受け取る事となったのだ
何もかもが今までと違う
俺は多少の不安もあったが、期待も大きくなっていた