第37-3話 報酬
普段は邂逅する事のないメンバーとの歓談は続いていた
エルカンは両側にセドとムーグと肩を組み、三人で笑いながら酒を飲んでいる
レゾルがアロンと知り合いだったという事もあり、ムーグもエルカンとは顔見しりだったみたいで、
元々ウマが合う様だ
そしてもう一方はチティル、ルシュ、セリーディの3名だ
3人で話をしたり、時折アロン達の会話に混ざったりしている
最後はアロン、アバリオ、レゾルの3人だ
互いに代表者同士と言うか、昔話をしたり近況について語り合っている
俺は方々から声を掛けられ、主にロウザン将軍との戦いについての話をしていた。
そんな様子で会話を続け、一度トイレに席を立ち
戻ってきている最中、モアさんに声を掛けられた
「ヨウヘイさん、ヨウヘイさん」
俺はモアさんの元へ行く
「どうしました?」
少し酔いは入っているが十分足取りはしっかりしている
流石にここまでエールを飲む機会が多いとペース配分も分かって来る
「すみません、先ほどの時に一緒に出来たら良かったんですが、
もう一度奥の部屋に来ていただけますか?」
モアさんの言葉に俺は首をかしげた
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アロンやアバリオ達に一言伝え、俺とルシュは再度ギルドの奥の部屋に入った
今度はヨアキムさんだけで、モアさんは表に出たままの状態になっていた
ヨアキムさんは俺達がさっき座っていた椅子にもう一度促す
そして、大事そうに袋を持ってきた
「いやぁーすまん、ついさっきようやく届いてな。
一緒のタイミングに出来たら一番だったんだが」
そう言って彼は俺達の前に袋を置く
良質…どころか貴重品入れと言っても良いくらいの袋だ
じゃら…と音がする
「中身を出しても?」
俺の言葉にヨアキムさんは頷く
俺は革袋を開け、中身を取りだした
中身から出てきたものを見てルシュは声をあげる
「これ…なに…?」
白く輝く硬貨…?
金貨じゃない
「白金貨…こういう場で目にする事はあまりないものだ
1枚1000ラント、ここに10枚ある」
ヨアキムさんの言う通り、白金貨は10枚ある
「1万ラント…!」
思い出した、ロウザン将軍討伐の賞金は1万ラントだった
「額が額だけにな、手配は領主様が直ぐにしてくれていたが、届くのに時間が掛かった。
今回の事に見合う報酬だ、その革袋ごと受け取ってくれ」
あまりもの額に俺もルシュも言葉を失い
唖然として白金貨を見つめる
その様子を見て
「俺もあんまり見た事無いんだよなあ…これを機に俺もちょっと見ておくか」
と冗談か本気か分からない事を言った
…
1万ラントを堪能した俺達は革袋を持つ
「お前さん達、銀行の事は知ってるか?」
ヨアキムさんに尋ねられる
「銀行?」
ルシュは首をかしげる
銀行がこの世界にも存在してる事は知っていた、
だが俺の元居た世界の銀行と同じかどうかは知らない
俺の言葉を待つ前にヨアキムさんが続けた
「商人か貴族、後はかなりの収入を持つ連中じゃなきゃ門前払いを食らう所だが、
お前さん達なら使う事が出来る。
俺は銀行がどうやって金儲けしてるかカラクリは分からんが、金のある連中にとっては預り所として利用できる場所だ。
その大金、預けておくことをおススメしておくぜ」
とアドバイスしてくれた
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この世界で銀行に関わる事は無く、これからもあるとは思わなかったが、
確かに1万ラント、白金貨、預けておいた方が良い、と言う事で、俺達は銀行へ行った
銀行は貴族街の城壁の南にあり、軍の詰所のすぐ近くだった
話は通っていた様で、即座に1万ラント預ける事が出来た
身分証明は冒険者証でも良いし、銀行から渡された冒険者証よりも少し小さな金属板でも良いそうだ
俺達については既に顔も特徴も十分周知されているので、他人がなりすますことは出来ない
との事で安心して良いと説明された
また、どうやら銀行も冒険者ギルドなどと同じように情報の共有を投影の水晶をはじめとした独自のネットワークで行っているので、
暫くすれば他都市の銀行も利用できるようになるそうだ
こうして、久しい仲間との出会い、そしてこれまで目にしたことのない大金を手にし、
まだ少し早いような一流冒険者の肩書を得てしまった一日は過ぎていった