第37話 懐かしくも変わった事
ひと月ぶりくらいだろうか
久々にマーテンの地に足を付けた
変わらない街並み、変わらない住民
そして変わらない…
「おお、英雄様がご帰還だぞー!」
ギルドに入った瞬間に聞こえた声
変わらない顔ぶれによる大きく変わった歓迎を受ける事になった
……
たちまち俺達はギルドの仲間達に囲まれ、席に座らされた
そして始まるそれは、まさにどんちゃん騒ぎだった
「あの伝説のロウザン将軍をお前が倒しちまうなんてなー!」
上機嫌で話すマーテンのコボルトの同僚冒険者ツェル
「しばらく姿を見ねえと思ったら色々やってたらしいじゃねえか」
次に話すのはオーガのグライ
彼等とはこれまで何度か一緒に依頼を受けた事がある
顔見知り…以上の仲間だ
それ以外にも一緒に仕事をした仲間や
顔見知り程度の連中も集まってきて大騒ぎになった
本当なら注意の一つでも飛んできてもおかしくないが、
受付のモアさんも笑顔だ
「本当にロウザン将軍に勝ってしまうなんて、凄いですよ!」
と俺達を褒めたたえる
少しすると西支部の面々も入って来る
俺達の事を耳にしたらしい
その中には
「へっ本当にやりやがるなんてな」
ムーグ
「アタシたちでも全然歯が立たなかったのに、やっぱりアタシが見込んだだけはある!」
チティル
「見事な活躍だ、この場はお前達が主役だ」
レゾル
他にもレゾル達に並ぶというマーテンの実力者たちの姿もあった
これまで俺達が関わった事はない面々だったが、彼等もこのどんちゃん騒ぎに参加した
「金?気にすんな!俺達が出してやるってよ!」
と気前よくツェルに言われ、俺とルシュは彼等と一緒に夜までこの騒ぎの中心になった
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取り敢えず一週間くらいは仕事を受けずに休もうかと俺とルシュは打ち合わせており、
ギルドの酒場に顔を出して食事を摂ったり今の情勢を聞いたりはしていたが、
依頼は引き受けずにいた
戦士に休息は必要だ、だが鍛錬は怠るなよ
とレゾルが言っていたが、そのことについては俺達も十分理解していたので、
俺は素振りと棍棒投げ、そしてルシュは魔力の扱いについて自主トレーニングを行っていた
俺のやってる事はほぼお遊びに見えてしまうだろうが、棍棒投げは現状俺の最強の攻撃法でもある
コントロールが重要な事はロウザン戦でも実証済みだ、腕が鈍ってはいけない
ルシュは魔力を撃ちだすことは出来なかったが、掌に魔力を集中し、溜める事は安定して出来るようになっていた
やはり感情の昂ぶりで撃ちだすことが出来るのかも知れない
それから数日が経過した
俺達がギルドに訪れると、モアさんが俺達に声をかける
「ヨウヘイさん、ルシュさん、ちょっとお時間頂けますか?」
彼女の言葉に俺達は不思議に思いながらも、彼女に案内されるがままにギルドの奥へと通された
……
冒険者登録、そしてロウザン将軍の討伐を依頼された部屋だ
そこにはヨアキムさんが立っていた
「おう、すまんな。
急に呼び出して」
と言い、俺達を椅子に座る様に促した
「と言っても、ようやくこっちの手筈が整ったからな」
ヨアキムさんがそう言うと、モアさんが奥の棚から何かを持ってくる
ハンコ?の様な物と小さな箱だ
「冒険者証を出してください」
モアさんに促されるまま、俺達は冒険者登録証を出す
登録証の表はマーテンを記す記号
モアさんはそこにハンコの様な物を当てる
淡い光が登録証から漏れる
「おお…?」
俺とルシュはその様子に驚きの声を挙げる
登録証のマーテンの模様の色が変わった
そして登録証自体の色が少し変化した
以前はくすんだ銅色をしていたが、やや青み掛かった色になった
「これはギルド支部が貢献度の大きい冒険者に対して実力者との証拠ともなる『印』だ」
ヨアキムさんが説明する
「本当はグライエム討伐の際に検討されたのですが、冒険者としての経験が浅い事と、
依頼に対する達成数、達成率の関係で見送りとなっていたんです」
モアさんが付け足す
「これはレゾル達も…?」
貢献度が高いと言う事はきっと…
「もちろん連中も登録証はこうなっている、今回のロウザン将軍の件で声を掛けられた冒険者はみな、印が入っている」
ヨアキムさんが答えてくれる
「なるほど…」
実力者、ベテランと称される冒険者達と実力はまだしも、名声に関しては追いついてきたのか
何だか実感が沸かない
「凄いね、これで私達も実力者の仲間入り」
ルシュが少し嬉しそうに話す
「そしてもう一つ」
ヨアキムさんが話すと、モアさんがその言葉に合わせて小さな箱を開く
そこには平べったい小さな金属板が入っていた
そして、俺達の登録証を裏返し、金属板をそこに当てた
再び淡く輝く登録証、そして金属板
「これは…」
金属板を外した登録証の裏にはデュコウの国印が入り、
その印は僅かながら光を発していた
俺もルシュも目を丸くする
「これは今回のロウザン将軍討伐の功績からです」
モアさんが話す
「これに関しては国に対して大きな貢献した冒険者に対してのいわば勲章の様な物だ。
これはさっきの印とは違い、デュコウの冒険者ギルド本部が判断してのものだ、実質国のお墨付きだとも思って良い」
「それって…」
俺の言葉にヨアキムさんは笑う
「これを持つ冒険者はデュコウの国内でも一握りだ、『マーテンにはこの印を持つ冒険者は居ない』」
と言った
つまり、俺達が実質的に一番貢献した冒険者と言う事になっているのか
「が、その評価を受けているという事は、相応の結果が求められる。
かっこ悪いところは見せられないと言う事だ」
ヨアキムさんの言葉は俺の懸念点をそのまま突いたものだった
要するに、それ相応の期待が寄せられると言う事か…
「ま、冒険者は自由だ、何の依頼を受けようが犯罪なんかの道に逸れたものじゃなければ問題ない。
ただ、今回のロウザン将軍の様な件だと真っ先にお声が掛かる対象だ、心しておけよ」
ヨアキムさんの言葉に、状況を飲み込み切れてない俺と、表情から考えが読み取れないルシュ、互いに頷く
「と、これで終わりだ。
これからの活躍、期待してるぜ」
ヨアキムさんの言葉の後、俺達は部屋を後にした。
そして、酒場に戻ると思いがけぬ面々が居た