第36-8話 ロウザンとの戦い 終
翌日、領主の館の前には二台の馬車が用意されていた
その内の一台にはロウザンが既に乗り込んでいた。
傍には馬に乗ったアネイルが待機している。
「領主殿、寛大な対応、感謝する」
ロウザンはバリューに声をかける
「いえ、大した事が出来ず申し訳ない限りです。
腕の良い者を付けますが、アネイル殿共々道中お気をつけて」
返事をするバリューと、彼の言葉と共に頭を下げる彼の娘のエディ
その言葉にロウザン、アネイルは頷く
「ロウザン殿を王都へ送り届けてくれ」
「はっ!」
バリューの言葉に彼の私兵たちが返事をして馬車を走らせる
「ヨウヘイ、ルシュ、またね」
アネイルが俺達に声をかける
俺とルシュは彼女らに手を振る
……
王都へ向かうロウザン達を見送った後、次は俺達がもう一台の馬車に乗り込む
「この度は本当にありがとう」
「いつでも遊びに来てくださいませ」
バリューとエディの言葉に俺達は頷く
手を振る彼らに見送られ、俺達はマーテンへと向かった
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マーテンへの馬車の中、俺は物思いにふけっていた
ルシュも俺と同じように何かを考えたまま外を見つめていた
俺達は黙ったまま、馬車は街道を走る
その中で俺は思う
俺はただの人間…特別なものは何も持っていない
棍棒を出す能力以外は
でも、竜族のルシュがいて、それでがむしゃらにやって
かつての伝説の将軍まで負かしてしまった
なんだかおとぎ話の主人公の様だ
でもこれは俺一人じゃ絶対に成しえなかったことだ
ルシュ、そしてこれまで出会ってきた人たち
全てあっての事だ
俺達は、最強ではなかった
でも、あがけばやれる事が分かった
これ(棍棒を出す能力)も、捨てた物じゃない
俺達は強くなり、少しずつだけど前へ進んでる
そう思った
……
領主の館からマーテンへはそこまで時間は掛からなかった
朝早く出発し、昼頃にはマーテンの門が見えてきた
馬車はマーテンの南口にある広場の一角に止まった
「ヨウヘイさん、ルシュさん、到着しました、どうぞ」
運転手に声を掛けられ、俺達は降りる
俺達が運転手に礼を言うと
「いえ、あなた方を乗せて来た事、自慢話に出来てこちらも嬉しいです」
とにこやかな返事が返ってきた
俺達は運転手に別れを告げ、久方ぶりに懐かしくも見慣れたマーテンへと足を踏み入れたのだ